夏季課題
こんばんは~(*´ω`*)
ようやく公募がひと段落したので書き溜め中です!!
読んでくださっている皆さま大変お待たせしました!
楽しんでいただけると幸いです♪
あれから数日が過ぎた。
柚月は目を覚ましてから2日で退院まで回復しており、学業に復帰していつも通りの生活へと戻っている。
襲撃を繰り返すかと思われた「陰陽寮」からは今のところ、大男の襲撃以外には何の攻撃もない。
だがあれが本当に澪の言った通り「陰陽寮」の中の膿なのだとしたら、柚月を亡き者にするためにいずれは襲撃してくるのだろう。
今は機会を伺っているだけなのかもしれない。
それはそうと、不自然な隠のレベルアップの知らせは柚月が退院した時にはすでに学校中に知れ渡っており、各学年の基礎戦闘力の上昇を目的とした科目がさらに増やされていた。
それは今までの授業とは比較にならないほど厳しいもので、いかに今までの授業が良心的だったのかを思い知らされる毎日だ。
簡単に言えば、普段のキツい訓練を倍こなした後から上級生との打ち込み稽古や校内すべてを使った訓練などが始まるのである。
もちろん訓練は実践で自分たちの身を守るためのものであると理解はしている。
だが、いくら何でもいきなり難易度を上げすぎなのではないかと柚月は思った。
中には血反吐を吐いたものまでいるありさまだ。
「だあああああ!!! もう足上がんねぇ!!」
授業終わりの教室で悟が叫ぶ。
その足は小鹿のように震えていた。
それもそのはず、今は校内すべてを使ったクラス対抗の「何でもあり鬼ごっこ」をこなしてきたばかりであった。
「それは本当にそう。俺もキツイ」
「あたしももう動けない~」
悟のぼやきに明治と友里も同意する。
周りを見れば、クラスメイトが皆地べたに転がっていた。
椅子に座る体力すら残っていないのである。
明治の横には無言のままヤンキー座りをした譲の姿も見られた。
普段きちんとした姿勢を保っている彼女のこのような姿はかなり珍しい。
柚月は笑いながらその写真を撮っていた。
譲も撮られているのは気が付いているのだろうが、怒る体力すら残っていないという様子だ。
「あんた、なんでそんなに元気なわけ?」
「わっかんないけど、怪我した時に体を休められたから? かな。なんだかあれ以降体が軽くって」
「頭でもぶつけたんじゃないの」
「失礼な! そんなわけないだろ」
譲の言う通り、クラスで未だに元気なのは柚月だけであった。
逆に元気すぎるのだ。譲が柚月を心配する程度には。
先ほどまで行っていた鬼ごっこでも校舎の4階から飛び出し壁を伝って屋上へと駆け上がって逃げていた。
今までの柚月では想像もできない動きをしているのだ。
「でもさ、本当に柚月の動きよくなってるよな」
「そうだな。どこか具合が悪いところはないか?」
悟と明治も同意しながら揶揄うようなまなざしで柚月を見た。
「何ともないって! 僕としてもなんでかは分かんないけど、まあ体が軽い分にはいいかなって思ってる」
「ま、それもそうだな」
「……」
1人だけ声を上げていない友里を見ると、彼女は何とも言えない顔をしていた。
(……?)
なんとなく何か言いたげな顔だったがそれも一瞬のことで、彼女はすぐに笑顔になって会話に加わっていた。
(気のせいだろうか。……まあいいか)
「はーい。お前ら座れ~」
ガラリと前の扉を開け竹ノ内が入ってくる。
その手には大きな段ボールがあり、いつも気だるそうな竹ノ内はより怠そうにそれを運んでいる。
「先生、それは?」
唯一元気の残っている柚月が訊ねた。
「これは休み期間の宿題だ。ちょうどいい、天見、お前元気ならこれ配ってくれ」
「えええ、なんで僕」
「周り見てみろ~。これぞまさに死屍累々ってやつだな。ふっはは」
今のどこに笑える要素があったのかは謎だが、そう言われてしまえば仕方がない。
柚月は渋々ながらも段ボールに入っていた冊子を抜き出し配り始める。
その間に他の生徒たちは這うようにして自分の席に移動しだした。
なんだかゾンビパニック映画に出てきそうな絵面である。
「配ったはいいけど、なにこれ辞書?」
柚月は席に座り目の前にある分厚い冊子を見つめる。
どう見ても辞書かハードカバーの本くらいの厚みがあるそれは、休みの課題としてはどう考えても分厚すぎる。
「来週から長期休みに入るだろう。その間の課題だよ」
「はあ!? こんなにあるの!? 無理無理無理だって!!」
席に着けていないゾンビたちからもヴオオォといううめき声が上がる。
まさしくゾンビ。もはやまごうことなき立派なゾンビである。
「泣き言言うな~。まあ心配しなくても1学期にやった内容のおさらいみたいなもんだ。それに実技のやり方とかも載っているからその厚みなんだよ」
竹ノ内の話では霊力操作のおさらいや休み中のトレーニング方法などが書いてあるためこれだけの厚みになってしまっているらしい。
柚月は全部座学でなくて良かったと思う反面、休み中にも訓練を積まなければならないのかと思うと少しばかりげんなりとしてしまう。
「そういえば、なんで夏休みが6月から何ですか? 時期がちょこっとずれているような」
「お前な、俺たちは追儺師だぞ。時期を考えてみろ」
「?」
「葦の矢」にも一応長期休みがある。
一般的な学校とは違い、短いものではあるが。
そして一般とは休みの時期も違った。
6月の中旬~7月頭までが「葦の矢」の夏休みだ。
これではまだ夏本番ではないので夏季前休みだ。
柚月は時期がずれる理由が分からずに首を傾げる。
「あのな、追儺師ってのは隠と戦う者達だろ? 隠にも多く出てくる季節っていうのがあるんだよ。ここまで言えばわかるだろ?」
「?」
やっぱり分からない。
そもそも隠の出やすい季節とか考えたことがなかった。
「お盆でしょ」
尚も首をひねっていると前の席にようやく座った譲が怠そうに言い放った。
そしてそのまま辞書(課題冊子)を枕にして突っ伏してしまう。
顔を上げている気力すらないようだ。
「秋雨、正解だ」
「あ、そうか。お盆の時期に休んでたら隠が大量発生しちゃうわけね」
よくよく考えてみれば、一般的な学校の休みはお盆の季節と思いっきり被っている。
広く言われているように、お盆の季節はこの世とあの世の境界線が曖昧になる時期だ。
その時に追儺師が休んでいたら隠があふれかえってしまう。
「そうだ。ついでに言やあ、旧歴のお盆も蓋が開きやすい季節だからな。特に7月中旬から8月中旬には毎年隠の出現率が上がっちまう。毎年のことながらその時期は追儺師たちはてんてこ舞いさ。それこそ猫の手ならぬ、生徒の手も借りたいってな」
なるほど、つまり追儺師の卵である葦の矢の生徒たちにも出撃要請が出てくるわけか。
言われてみれば確かに。夏の間は怖い話や肝試しなどが流行る。
一般人にしてみれば気軽にゾッとできるジャンルだし大半が作り話であるが、この世とあの世の境界が曖昧になっている時期であれば隠となる可能性が常時より高いのは明白。
追儺師たちにとっては夏の季節は違う意味でぞっとする季節のようだ。
「そういう訳だ。まあ葦の矢に来ている時点で大丈夫だとは思うが一応注意な。一般人より力の強いお前らは絶対に遊び半分で肝試しとかすんじゃねーぞ」
うぃーという返事のようで返事になっていない声が上がる。
なめくじの様に溶けかけの生徒たちが腕を中途半端に上げて意志を表明していた。
お読みいただきありがとうございました!!
4章の「起」部分が終わりました(*´ω`*)
これから4章の問題に入っていきますよ~
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