友里の判断
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時折思い出したように痛みを主張する腹を押さえた友里は、救護棟の一室に来ていた。
あの男が襲ってきた後、とっさの判断で緊急連絡を出していた友里たちは救援部隊に助けられそれぞれこの救護棟へと運ばれた。
それからすでに2日が経過していた。今、目を覚ましているのは友里と先輩たちだけである。
友里は襲われた日から意識はあったので、この2日間毎日班の皆の元へ通っている。
医師曰く皆数日で目を覚ますはずだというが、本当に目を覚ますのかどうか。友里は気が気ではなかった。
皆ひどい打撲や切り傷を負い、中には骨にヒビが入っていた者もいた。
指定のジャージを着ていなければ今頃命はなかったことだろうと友里は感じている。
というか、救護棟での処置を受けなければ皆全治一か月以上は下らない大怪我であった。
かくいう友里も処置を受けたがそれでも全治一週間である。
救護棟の医師たちは人が持ちうる生命力を引き出し治療をするため、一部の人からは寿命の前借であると非難されているらしい。
だが少なくとも戦闘職を目指している者達にとっては、非常に助かる治療なのだ。
なにせ、処置されずにそのままであれば命が危ういという怪我を何度も経験するのだから。
それはそれとして。負傷者の中で特にひどいのが今目の前のベッドで眠っている柚月だった。
全身打撲、頭部の裂傷、極めつけは数本の肋骨のひび割れ……。
運が悪ければ死んでいてもおかしくはない。
けれども柚月は生きており、その驚異的なまでの回復力で既に傷が治りかけている。
これには医者も相当驚いたようで、益を為す隠が多数回復を手伝っているのだと言っていた。
それでも目を覚まさないのは、それほどまでに蓄積されたダメージが大きいことを意味する。
「柚月君、早く目を覚まして……」
友里はあの時かろうじてだが意識があった。
明治を抱えて柚月が自分の元にやってきたとき、彼からは何か得体のしれない力の波動を感じた。
そして明らかに普段の柚月とはかけ離れた雰囲気を纏った彼は、自分たちにこれだけの深手を負わせた男を赤子の手をひねるように圧倒していた。
体も痛めつけられてボロボロであるはずなのに、その動きは軽やかで無駄がなく、まるで痛みを感じていないようであった。
あれは、ある種の覚醒なのかもしれない。
「……」
けれども、その覚醒は決して良いものとは言えないだろう。
もしも仮面の男が彼を眠らせていなければ、きっと柚月はその力に呑まれて自分たちの知る彼ではなくなっていのではないか。
友里はそう感じずにはいられなかった。
それほどまでに、あの時の柚月は異質であったのだ。
他の皆も早く目を覚ましてほしいが、柚月だけは早く目を覚ましていつもの柚月であることを確かめたい。
そんな思いで友里は柚月の顔に着いた髪を払ってやる。
すやすやと寝息を立てて眠っている彼の頭には包帯が巻かれているが、すでに傷は癒えているようで、顔にできていた痣も消えている。
それがあの力によるものかどうかは、友里には分からなかった。
「早く、目を覚まして」
彼女は祈るように柚月の手を握りしめた。
友里は全員の見舞いが済んだ後、唯一意識の残っていた者として、何があったかの説明を求められた。
中間テストの一環としての隠の討伐は完了した後、部隊が全滅に追い込まれた、そのいきさつを話す義務が彼女にはある。
友里は個室に呼ばれ、竹ノ内と1対1で面談を行うことになった。
「お前もけが人なのに、呼び出して済まないな」
「いえ。でも、あたしにも何が何だか……。わかる範囲で答えますけど、正直分からないことの方が多いです」
竹ノ内の顔からはいつものにやけが消えており、至極真面目な顔つきである。
対する友里もその空気を感じ取り、困惑しながらも答えられることを話そうと決めていた。
友里はこれでも十二支の分家筋として修羅場を潜り抜けてきた実績がある。
戦闘においては、周囲をよく観察し味方の動きやすいようにサポートするのが得意で、それ故に場の洞察力はずば抜けている。
そんな彼女であっても先日の出来事は謎ばかりだった。
「あたしたちが隠を討伐した後、先輩たちに報告したのは知っての通りだと思いますが、そのあとすぐ、帰ろうとしたあたしたちの元に正体不明の男が乱入してきました」
友里は見たことを順序だてて話していく。
あの大男は何だったのか、それに後から出てきた仮面の男も得体が知れない。
「男は筋骨隆々って感じの大男で、身長は2メートルを超えていたんじゃないかと思います。……それで初めに柚月君が脇腹を蹴り飛ばされました。すごく飛ばされたのであたしたちが追いつく前に先輩たちが先行して助けに行ったんですけど、数秒後には先輩方も飛ばされてきました」
「男は一人か?」
「はい。その男一人にあっという間に追い詰められてしまって……。先輩たちに倣ってあたしたちも男に挑んだんですけど、明治がやられて、あたしも殴られて戦闘不能になりました」
「……ふむ」
竹ノ内は考え込むように顎に手を添える。
「それで、あたしは意識はあったんですが動けなくて……。そのあとすぐ悟君と譲ちゃんも吹き飛ばされていきました。それで柚月君が掴まれて危ないって思ったんですけど、柚月君、気が付いたらすぐ横に居て、大男と戦ってくれてました」
友里は柚月が得体のしれない力で大男を圧倒したことは口にしなかった。
何故だか、それは言わない方がよいのではないかと感じたのだ。
その判断が吉と出るか、凶と出るかは分からない。
けれども、少なくとも今は友里だけの胸にとどめておかなければならない。そんな風に思った。
「なるほど、状況は大体わかった。だからあいつあれだけボロボロだったんだな。よくみんなで帰ってきてくれたな。よくやった」
竹ノ内は優しく友里の頭をなでる。
友里は今になって恐怖心がこみ上げてきたようで涙ぐむ。
友里が落ち着くまで竹ノ内は頭を撫で続ける。その手は酷く優しく、友里の涙腺を刺激するには十分だった。
お読みいただきありがとうございます!
友里の判断が吉と出るか、凶と出るか……。
この先も頑張って書いていきますね♪
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