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変化

お手に取っていただきありがとうございます。


おや、柚月の様子が……!

という回です。

 



 男は何を思ったのか柚月の頭を鷲掴みにし、目を合わせてきた。


「実にあっけないものだなぁ。なっさけないやつだ、お前は」

「くそっっ……ちくしょう!!!」


 柚月はせめてもの抵抗で思いっきり男を睨みつける。


「はははは、なんだ、その目は。弱い奴は奪われるものなんだよ。……お前だけじゃない誰も彼も弱かったなぁ。だから死ぬんだ」


 足元に転がっている明治をゴンっと蹴飛ばす男。


「弱い、弱い弱い!! 弱いやつばっかりだ、東は!! はははははは!!!!」


 その間もずっと明治の体を蹴り続けている。

 彼は気を失っているようで、全く反応がない。



 ――どくり



 柚月は自身でも感じたことのない怒りが、彼の内を支配するのを感じた。

 腹の底から、得体のしれない何かがこみ上げてくる。

 柚月はその衝動のままに吠えた。


「お前……お前ええ!!!!」


 柚月は顔を掴む男のたくましい腕をつかんだ。


「あん? なんだ……っ」



 ――ゴキゴキ



 固いナニカが砕けるような音がした。


「ぐ、ぐわああああああ」


 それは柚月が男の腕をひねった音だった。


 どこからそんな力が出てきたのか分からないが、そんなことどうでもよかった。

 柚月は男が腕を離した後すぐに足元にいる明治を抱え少し離れた所に倒れている友里の元へとやってきた。


「う……ゆ、づき」


 友里は苦しそうに名前を呼ぶ。

 殴られた脇腹を押さえ、何とか痛みを逃がしているのだろう。


「……ごめん」



 目の前が赤く染まる。毛細血管が怒りで切れているのだろう。

 頭の奥でも耳鳴りがひどくうるさい。

 きいいいんと甲高いそれは、怒りに反応して柚月の中の何かとまるで反発しているかのようになり続ける。

 このまま怒りに身を任せてはいけない、と頭のどこかで声がする。



 ――だが、そんなこと知ったことか。



 今、やらねば誰も助からない。自分も、そして仲間たちも。

 柚月は倒れ伏す仲間を見る。

 かろうじて息をしていることはわかるが、皆傷つき、血を流し、倒れ伏している。

 今この場にいない他の皆も同じような状況だろう。


 理由は分からないが自分が狙われたことで、皆が傷ついていくのをただ黙ってみている。守られているだけ。



 ――そんなことはもう二度とごめんだ




 柚月の頭に顔の映らない女性の姿が浮かんだ。



 ――君は、誰?



 その女性は顔だけが黒く塗りつぶされたようにモザイクがかかっており、表情はうかがい知れない。

 真っ黒の長い髪が風に揺れ、泣きそうに微笑んでいるような気配がする。



 ――どうか、泣かないで



 そう思い手を伸ばすけれども近いようで遠く、届かない。

 柚月はそれでも必死に手を伸ばし続ける。




 突然、彼女の体から血しぶきが上がり、地に倒れた。

 その姿が明治たちと重なると、柚月はふらりと立ち上がる。


「……」




「くそっ、突然何だってんだ!」


 大男は変な方向にねじ曲がった腕を押さえ、血走った目で睨みつけてくる。

 だが、不思議と先ほどまで感じていた圧倒的強者の気配は消えうせており、柚月の目には今はただ排除すべき存在としか見えない。



 ――早く排除しないと



 柚月はゆらりと一歩踏み出し、木刀に力を込める。

 不思議と今やるべきこと、力の使い方が分かる。まるで、()()()()()()()かのように自然と動いた。


 淡い黄色の霊力を纏った木刀は元の形から変形し、鋭い刃物が付いた日本刀へと変化する。

 その刃文はもん皆焼ひたつらのように全面に飛んでおり、触れただけで岩でも真っ二つになるのではないかと思う程、冷ややかな銀色の輝きを放っていた。



 柚月は男から離れた場所で一振り、刀を振るう。

 すると男のすぐ横、すれすれの地面に大きな切れ目ができた。

 いや、切れ目というよりはここら一帯が地割れを起こしたかのように割れている。


 到底人の力で為せることではないということだけは確かだった。

 奥に続く建物もきれいに寸断されており、ずれた建物がずれ落ちていく。



「はあ!?」


 男はひどく驚いたように目を剥いた。

 その一挙一動が柚月にとっては苛立ちの元となるとも知らずに。


(鬱陶しい)


 柚月は静かに眉をひそめた。


「こ、こっちに来るんじゃねえ!!」


 先ほどとは打って変わった状況に、男は酷くうろたえている。


「何を喚くことがある?」


 柚月は一歩一歩男にゆっくりと近づく。


「弱い者は奪われるのだろう?」

 その声は、普段の彼とは全く違う、地を這うような低音だった。


(本当は近づきたくもないけれど、さすがにこれだけの距離が離れていると、手元が狂うといけないから)


 柚月は刀を構え直す。

 次に振るえば、男を両断するだろう。


「ひ、ひぃ!!」


 男は逃げようと体を捩るが、足が震えて立てないようで、無様にその場に倒れこんだ。


「……」


 柚月はそれを至極冷静な瞳で見ていた。


 柚月の握っている刀がちゃきっと音を立てる。

 狙いは外さない。

 男の首を落とすだけ。


「や、やめっ……」


 柚月は大きく振りかぶった。






お読みいただきありがとうございます!


作者のモチベーションが上がるので是非評価やブックマークをお恵みくださいませ(笑)

という冗談は置いておいて……面白かったり続きが気になっていたらよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] うわぁ……柚月くん、何か眠っていた力に目覚めたの!?(;゜Д゜) あんなに強かった大男が怯えてる!?
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