飢餓
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「じゃあ皆の意見聞かせてくれる?」
取り仕切るのは譲。彼女は進行役が得意なようだ。
「そうだね~。飲み屋街はもともと人が集まりやすいところだから思念も多いとは思うんだけど、それが良い感情か悪い感情かってイマイチよくわからないよね~」
「とはいえ、この2つ以外はまだ隠が出るまでに至ってなさそうな微弱な噂話ばっかりだろう」
友里と明治が資料を見ながら唸り声を出す。
悟も他の紙を見ては首をひねっていた。
「うーん。やっぱり隠がいる可能性が高いのはその二つだと思うな」
「だよね。で、どっちがいいかだけど、僕は廃トンネルの方は危険だと思う」
「隠が強すぎるって言いたいの?」
「そう。だってこれ見て」
噂を調べるために使っていたパソコンを皆の方へと向ける。
「これ、そのトンネルなんだけど、その先、崖になっているところが自殺の名所になっているみたい」
4人はパソコンを覗き込む。
「うわ、マジだ」
「あちゃー。そしたらここ妖はほぼ確定かもしれないねぇ」
「1年だけで挑むのはきついかしら?このメンバーだったら善戦できそうではあるけれど」
「いやいや、お前なあ! 先輩方でも5人で連携して倒せるレベルだろ? それを今日決まったチームでいきなり倒せるとは思わないけど」
皆思い思いの感想を口に出している。
人が死ぬとき、強い思いはこの世に残る。
自然死や老死であってもしばらくは思念が残っていることもあり、それを供養することで思念を解放してやるのだ。
だがしかし、自殺などで自ら命を断った者などは普通よりも負の念が須らく強い。それ故残る思念も強く、おまけに供養もされずに彷徨っている者も少なくはない。
自殺の名所とされているのならば、それらの強い思念体がいくついてもおかしくない。
強い念が集まっているとするのなら、いると予想される隠は妖以上のレベルに違いないのだ。
また、隠も複数体いることも予想できる。
まさしく死力を尽くした戦いになるのは避けられそうにない。
柚月は率直にそれを伝える。
「だから僕は高架下の方がいいんじゃないかって思うよ」
「……確かにね。今の私たちじゃ荷が重いのは間違いなさそう。竹ノ内が自分の力を過信するなって言ってたのはこういうことなのかもしれないわね」
「だな。複数の隠を一気に相手取るなんてまだ無理だし、わざわざ危ない方を選んで死ぬ必要はないよな」
譲も明治も賛成してくれた。
悟はそもそもトンネル反対組だから後は友里の意見を聞いて決定をしよう。
そう考え友里に視線を移す。
見ると彼女は唇に指を立てていた。
何か疑問があるときに彼女は大抵このポーズをとるので、今回も何か疑問があるのだろう。
「どうしたの友里。何か疑問でもあるの?」
「うーん。いや。飲み屋街って行ったことないから分からないんだけど、そこに隠がいるとして、どんな感情から生まれたんだろうとか、依代って誰なんだろうとか考えちゃって」
「あー。まあ僕も行ったことはないけど……」
飲み屋街など未成年が言ったことがある方がまずいだろう。
柚月は資料をぱらぱらとめくり、該当の2枚を抜き出して机に広げた。
「資料だと恐らく飢餓から生まれた隠なんじゃないかって」
「飢餓?飲食店なのに?」
もっともな疑問だ。
飲食店を営んでいたのなら一番縁遠そうなものだと柚月も初めは思ったものだが、資料には飢餓による隠の可能性ありと書かれている。
「ほら、ここ」
「んーなになに……。『肩を掴まれて噛みつかれそうになった』『苦しい……食わせろ……といった声が聞こえた』か。確かに飢餓を元にしてそうな感じはあるな。何か事件とかあったか調べてみねえと」
「うん。じゃあこっちを調べ始めるってことでいいのかな? 」
皆が首を縦に振った。
決まりだ。
柚月達は速やかに情報収集へと移った。
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