仮面の男
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――ドスン
犬の頭に見事に刺さったそれは、固い骨を粉々に砕きながら地面へと刺さった。
その衝撃は地響きとなって耳に届く。
土埃と共に獣の骸が灰になって消えていく。
一撃で隠を消滅させたのだ。
「!?」
初めは鈴木や中井が助けに来てくれたのだと思ったが、突き刺さっているそれは短刀でも人型でもなく、長い錫杖だった。
「あーあーまだ様子見ようと思ったのになぁ」
その声は突如空から降ってきた。
上を見ると、廃墟の屋根に乗り足をぶらぶらとぶら下げている者がいた。
「何者だ」
柚月は警戒しながら木刀を上へと向ける。
それは意に介した様子もなく地へと降り立つ。
ふわりと体が浮き、すとんと土埃一つ立てずに降り立つそれは、完全に人間技ではなかった。
「やあ、元気?」
それは鳥のくちばしのような仮面をつけており顔を伺うことができない。
黒い外套に身を包んだそれは、いかにも怪しい雰囲気だ。
「何者だ」
柚月はもう一度問いただす。
声色からして男だろうが、立ち居振る舞いは柔らかく中性的だ。
「別にそんなに警戒しなくても大丈夫だよ」
ふいに男がそう告げる。
「……」
「うーん、警戒心バリバリだねぇ」
男(?)は慣れた手つきで地面に突き刺さった錫杖を抜き取ると、錫杖が消えうせる。
柚月は目を見張った。
それもそのはず。
ものそのものが消えうせたということは、それ自体が彼によって作り出されたものであると同義だ。つまるところ、錫杖そのものが彼の霊力によってできていたということになる。
それはとてつもなく、目の前にいる男が強い霊力を持っているということに他ならない。
「……!」
「君には何もしないって」
男(?)は両手をプラプラと振って見せる。
まるで緊張感のないその様子に、警戒心がどんどんと高まっていく。
「あちゃぁ逆効果? まあいいや、とりあえず後ろにいる子供をよこしてくれる?」
「……どうするつもりだ」
「親元に返すよ?」
「……」
本当だろうか。
何者かすら分からないが、自分に勝てる相手ではないのは確かだ。
無意味に争うのは避けたい。
それにそろそろ鈴木達が助けに来てくれるだろう。
時間を稼ぐしか選択肢はなかった。
「親元って」
「気づいていない?その子幽霊だよ」
「え?」
「悪霊や怨霊になる前の無垢な魂とでも言えばわかるかい?」
「……」
「隠や妖たちにとってそれはごちそうなんだよ。取り込めば自分の渇きを潤してくれるかもしれないからね。だから真っ先に狙われた」
「……」
ちらりと少女を見遣る。
よく見れば影がない。
けれども体を持ち上げられたし、触れる。
この男が言っていることは本当のことなのかどうかははっきりしなかった。
「……証拠は」
「んー。霊視を解いてみればわかるんじゃない?」
「……」
この状態で霊視を解くなど自殺行為にも等しい。できうるはずもない。いや、そんなことをしなくても、影がない時点で生きてはいないことは明白だ。
影は物質がなければできない物で、魂は物質に縛られていない。つまるところ、肉体を持ちえない存在なのだ。
触れたのはどうしてか分からないが、体がないのは間違いなさそうだ。
「分かった? じゃあ早く渡してくれるかな」
「君を信じろって?」
「うん。早くしないと君の連れが来ちゃうし。そしたら面倒なことになる」
「僕が君を引き留めれば皆が来てくれるだろうけど、なぜ困る? 君は敵なのか?」
「少なくとも、君の敵ではないかなぁ」
「……」
どういうことだか、全く分からない。
「こっちだ!」
ふいに2人分の足音がした。
鈴木と中井だろう。
「また会うことになるからさ、そう急がないでよ。でも、気をお付け。奴らはすでに動き出した」
「!!」
その足音に気を取られた一瞬、男は耳元に声だけを残してどこかに消えてしまった。
「天見! 大丈夫か!?」
「……」
少女の姿もそこにはなかった。
「おい、天見?」
「あ、はい何とか」
「よかった……にしてもお前無茶し過ぎだろ!」
ぺしっと頭を叩く鈴木。相当心配してくれていたのだろう。その顔は安堵に満ちたものだった。
そんな空気の中柚月は振り返る。
やはりそこには男の姿も少女の姿もなかった。
恐らく少女は連れていかれたのだろう。
そこには一枚の黒い羽が落ちているだけだった。
結局、その後報告だけはすることにした。
柚月自身、あの男が何者であるかなど分からなかったがどうにも嫌なことが起きだしている。そんな気がした。
根拠などないが、ある種の直感めいたものを、彼は抱いていた。
男は言っていた。「奴らはすでに動き出している」と。
奴らとは何なのか?何をしようというのか?
あの忠告が、何に対してなのかは分からないが、とてつもない力を持つものが動き出している。
そんな予感がする。
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