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骸の犬

数ある物語の中から選んでいただきありがとうございます!

最近一気に寒くなりましたので、皮膚が乾燥してカサカサしています…。

皆様もご自愛くださいませ。

 



 ドオオン


 何かがぶつかる音が響く。

 さびれた街からは土煙が上がっていた。


「おいいい!こいつ向こう見ずかよ!」


 鈴木が叫ぶ。


 煙の中から何かが飛び出してきた。

 それを間一髪で避ける。

 出てきたのは犬のような形の骸だった。

 それは激しく唸り声をあげてこちらにと飛び込んでくる。



 がらがら



 再び響くのは犬が突っ込んだ場所が壊れる音だった。

 犬は骨の状態であるのにその打撃でもひびが入ることはなく、廃墟の方が崩れている。随分と丈夫なようだ。

 あの頭突きを食らってしまえば、人の骨など容易く折れるだろう。

 攻撃を食らう訳にはいかない。


「どうします? どうやら奴さん金属性ですよ」


 金の気は、鉱物または星の特性を持つ。すなわち頑丈なものが多いのだ。

 木造の家など、道端の虫を踏み潰すのと同義である。



 五行で考えれば同属性の中井の攻撃はあまり効かず、木属性の鈴木には分が悪い。

 火属性の日花がいればよかったのだが、それはないものねだりだ。

 ここは土属性の柚月が主軸になって攻撃をするしかない。



 柚月は持たされた人型の他に、購買部で購入した木刀を持ってきていた。

 まだ霊力を木刀に纏わせることはできていないが、人型を張って強化をすれば攻撃を受け流すことくらいはできるだろう。


 柚月は素早く木刀を抜くと人型を張りつける。

 ぶうんっと仄明るい光が木刀に宿った。


「天見、前に出すぎるなよ!」

「分かってます!」


 木属性は分が悪いが、効かないわけではない。

 鈴木は天見の横で短刀に木気を込めた。

 仄かに青い光を放つ短刀はとても美しい。



 隠が柚月目掛けてとびかかってきた。


「!!」


 間一髪、木刀を頭上に構え、飛びかかってきた戌の牙を受け止める。


(おっもい!)


 受け止められたと思ったが、犬が首を振ったことで飛ばされてしまう。

 がんっと廃墟にぶつかり止まる。

 防打撃のジャージを着ていなければ腰骨が折れていただろう。それくらいの衝撃だった。


「がっ」


 息が漏れる。

 衝撃がすべて吸収されたわけではない。当然ではあるが、強かに打ち付けた腰が悲鳴を上げた。


「天見!」


 鈴木が戌の牙を短刀で受け止めながら叫ぶ。


「だ、大丈、夫です」


 咳込みながらも答える柚月の顔は、木材で切ったのだろう、頬から一筋の血が流れ落ちていた。



 鈴木は犬と打ち合っていてとてもじゃないがこちらへ気を遣う余裕はない。

 それは中井も同じようで、鈴木に向っていく戌へと人型を投げて援護している。

 柚月は早く戻らなくてはと思うが、打ち付けた体はすぐには言うことを聞いてくれそうにない。



 ひっく――


 それはふいに聞こえた。

 幼い子供のしゃくりあげた声だ。


 柚月は辺りを見回す。


「?」


 気のせいだっただろうか。


 うう――



 いや、気のせいではない。

 彼は声のした方を振り返ると、数百メートル離れた場所の物陰に子供がうずくまっていた。


 なぜ、こんなところに子供が?

 そう疑問は持てど、戦闘中ではそちらに気を割くことなどできない。


 だが、犬は目ざとく気が付いたように鈴木を振り切ると子供の方へと走っていく。このままではあの子供が隠の犠牲になってしまう。

 柚月は気が付けば子供を抱えて走り出していた。


「天見!」


 鈴木の制止する声が聞こえるが、止まってしまえば自分もろとも子供が犠牲になる。ならば走り続けるほかないだろう。

 2人の居る方へ走れればよかったが、その間には隠が来ている。

 必然的に反対方向へと足を進めた。




「はあ、はあ」


 柚月は廃墟の物陰に隠れながら、犬が来ていないか警戒する。

 どうやら撒けた様だ。


「ヒック、お兄ちゃん」


 そうだった。この子供をどうにか避難させなければ。柚月は危うく忘れかけていた子供を見遣る。

 歳は6,7歳くらいだろうか。

 髪を高い位置で2つに結んだ少女だった。


「君、一人?」

「ううう」

「お名前は?」

「うええん」


 ダメだ。全く人の話を聞いてくれるような状態じゃない。

 仕方がなしに頭を優しく撫でて落ち着かせることにした。


 これはよく奈留にしてあげたことだ。

 幼い奈留はことある毎に不安から泣いてしまうことが多かった。そんな時柚月はそっと抱きしめながらずっと頭を撫でてやっていたのだ。


 それが功を奏したのか、少女は徐々に泣き止む。少しは落ち着いてくれたようだ。

 よしよしとそのまましばらく撫で続ける。


「お兄ちゃんだあれ?」


 少女が言う。


「お兄ちゃんは柚月っていうんだ。君は?」

「あたしは、えり。ねえお兄ちゃん、ここどこなの?」


 えりと名乗った少女は再び鳴きだしそうな顔で袖をつかんでくる。


「あの怖いのはなあに?お母さんはどこ?」


 どうやら迷子のようだが、今は母親を探している余裕はない。

 それにこんな廃墟ばかりの場所に、出かけるとは到底思えなかった。

 訳ありだろうか……。


「大丈夫、お兄ちゃんが君を守ってあげるからね」


 少女は大きな目一杯に涙を溜め、ぎゅっと服の裾を掴んだ。


「お母さんも、お姉ちゃんもいつの間にかいないの…。あたし一人ずっとここにいるの」


 今にもまた泣き出してしまいそうな声色に少しだけ焦りを覚える。

 今泣かれてしまえば犬型の隠に気が付かれてしまうかもしれない。


 それは避けなければ。

 それにしてもいつの間にかいないとはどういうことだろうか。それに、ずっとという言葉も引っかかる。


「君は……っ!」


 ぐるるる


 表の道から犬の唸り声が聞こえた。

 反射的に少女の口をふさぎ物陰から様子を伺う。

 犬はきょろきょろと辺りを見回している。

 自分たちを探しているのだろう。


 それにしても、なぜここまでしつこく追ってくる?

 人間を襲うとはいえ、住宅街の方が人は多い。

 襲いに行くのなら、むしろそっちに行かないのはおかしくないだろうか。


 思案に耽っていると、少女がぼろっと涙をこぼした。


「あ、ごめんね。落ち着いて……」


 小声でそういうがすでに遅かったようだ。


「うあああああん」


 少女の声が響く。


 その声に呼ばれたように、隠が、きた。


(しまった)


 ここは狭い路地裏。

 避けるのも逃げるのも、四足獣が相手では分が悪い。

 何より少女を抱えては逃げられないだろう。柚月は少女を庇うように後ろに隠すと木刀をまっすぐに持ち構えた。


 打ち付けた背中や腰が痛い。体中の骨がきしんでいるようだ。

 まさに絶体絶命。

 けれども柚月はにかっと笑った。

 絶対に誰かが助けてくれると信じて。






お読みいただきありがとうございます!


俺強え系のバトル描写ではありませんが、地道に強くなっていくキャラ達を書いているととても楽しいです♪

もし続きが気になるなど思っていただけましたら是非評価・ブックマークの程よろしくお願いいたします!

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