四足獣
数ある物語の中から選んでいただきありがとうございます!!
戦闘が続いていますがとても楽しくかけています(^^♪
ぜひ楽しんでいってくださいませ!
それから5日が過ぎた。
以前妖が出た時以外は特に変わったこともなく、隠の討伐とフィールドワークを続けることができている。
柚月は討伐に出る様になってから、自分の霊力が研ぎ澄まされていくのを感じていた。入学当初よりも明らかに強くなっている。
それは隠と対峙し、生命の危機を感じることで、生存本能が刺激されたからだろう。強くならなければ、生き残れない。
自然界ではごく当たり前のことだが、人間社会だとどうしても忘れがちになってしまうそのルールが目前に迫っているのだ。
生存本能が目覚めるのも当然だと言えるだろう。
4限がやってきた。
今日はフィールドワークの番だ。
調べる噂は住宅街の空き家から夜な夜な歌が聞こえたり、笑い声が聞こえるというものだ。しかも、点々と存在する付近の空き家のいたるところから聞こえてくると、近隣住民からの通報だ。
噂の内容からして、害を為す隠ではなさそうではあるが、いかんせんその数が多い。
危険度は低そうなため、チームを4つに分割して捜索することになった。
柚月の班には鈴木と中井がいる。
柚月が土、鈴木が木、中井が金という属性だ。
他の班も属性をできるだけ分けて組んでいる。
上級生である鈴木に従って分けられたエリアの空き家へ向かう。
「にしてもこの辺空き家多いな」
今日は5月にして早すぎる初夏の陽気だ。
鈴木が額に浮かんだ汗を腕で拭いながら言う。
「高齢化が進んだ時に一気に誰も住まない家が増えたらしいですよ」
返事をする中井の額にも汗が光った。
「にしても暑いですね、今日は」
柚月も汗がにじんできている。
いくらジャージが熱くもなく寒くもない代物だとしても、動き回れば暑くなる。それも夏が早く来てしまったかのようなこの陽気ならなおさらだ。
柚月は腰につけられているポシェットから飲み物を取り出し口に含んだ。
よく冷えた水が、火照った体には気持ちがいい。
現在の時刻は午後の3時半過ぎだ。まだまだ日が陰る時刻ではない。
照りつける太陽に頭がやられてしまう前に噂を調査しなければ。
柚月はペットボトルをしまうと再び空き家の中に入っていった。
◇
何件か見て回ったが、特段空気の淀んでいると感じた所はなかった。
次が最後の調査場所だ。
その家は敷地全体に草が生い茂っており、一目で長年人の手が入っていないことが見て取れる。
家も外壁に大きなひびが入っており、とてもではないが人が住める状態ではなさそうだ。隣の家の人は大迷惑だろう。伸び放題に伸びた草が越境している。
「ん?」
柚月は一か所だけ草が倒れているのを見つけた。
近くに寄ってみると、どうやら何かしらの動物が分け入り、ここで寝そべっていたかのような草のへこみ方だった。
(猫でもはいっていたのかな)
「おおい、何してる~? 入るぞ」
「あ、ハイ!」
柚月は急いで家の中へと向かった。
入った瞬間、ムワンと立ち込める空き家特有の淀んだ空気が彼らを出迎えた。
「うっ」
カビの匂いと、獣のような匂いが入り交ざっている。
そしてそれよりも、肌を刺すような陰の気配に思わず鼻を覆う。
――ここには、いる
ちょうど時刻も誰そ彼時だ。
外は汗ばむ陽気であったはずなのに、一歩踏み入れるとひんやりとした空気が肌に触れた。
柚月はかいた汗が急激に冷えていくのを感じた。
――ううぅぅうう
ふと耳に獣の唸り声のようなものが聞こえる。
獣の匂いが濃くなった。
視界の端に緑色の糸が漂ってきたのが見えた。霊力の糸だ。
それは濁った色をした糸だった。
つまるところ、穢れを纏った隠が、それも噂程度ではないはっきりと見て取れる隠がいるということだ。
「不味いな」
鈴木が暗闇の廊下を見つめながら口にする。
言わんとしていることはわかる。
先ほど見てきた通り、ここは住宅街の一角であり、近くには人がたくさん住んでいる。そんなところで隠との戦闘になれば一般人に被害が出てしまうかもしれない。
まだ害を為す隠になっているという確証はなかったが、気配を辿る毎に隠の気配は強くなってきている。
そして、その気配はむき出しの敵意のようで、ここまで感じているのに隠がいないかもしれないなどとは言えなかった。
鈴木が危惧しているのも、この場所での戦闘が始まってしまうかもしれないということだろう。
この場での戦いは避けなければ。
「お前ら、西にあった空き家街覚えてるな?」
「はい」
先ほど通ってきた道に、空き家の続く場所があった。
ちょうど、周辺には住んでいる人もおらず、いわゆるゴーストタウンと化している場所だ。
あそこならば、ここで戦うよりは被害が減らせられる。
「誰が狙われてもまずそこに誘い込む。いいな」
人の居る場所から隠を引き離す、それが第一の目的だ。
ううううっぅうぅう
唸り声が大きくなる。
もう影から出てきそうだ。
問題は場所に捕らわれる隠の状態で連れて行けるのかどうか。
もしもこの家に執着しているのだとしたら、連れ出して戦うのは至難の業だろう。そうだとするのなら、周辺住民の避難を誘導しなくてはならない。
「天見、もしここから連れていけないと判断したら、お前は近隣住民に声かけて東へと避難を誘導しろ」
「はい!」
「頼むぜ、ついてきてくれよ……」
鈴木は祈るようにつぶやくと札を掲げた。
その腰には短刀が携えられ、太ももには人型がとめられている。
いつでもすぐに取り出せるようにしているようだ。
青い霊力が札に宿る。
闇の中から光る双眸が浮き上がった。
四足獣のような視線の低さだ。
――ガリ
爪が床を蹴る音が聞こえた。
鈴木を先頭に両脇へそれる柚月と中井。
その手には防御用の人型が握りしめられていた。
お読みいただきありがとうございます!
戦闘表現もだいぶ書きなれてきました(/・ω・)/
面白い、続きが気になる、表現が素敵等思っていただけましたら幸いです!
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