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血まみれの追放聖女は断頭台の夢を見るか  作者: 歌川ピロシキ
臆病者の僕と血まみれの彼女
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堕ちた聖女の告発

 処刑当日。

 僕は広場に集まった群衆の前でフェルの罪状を高々と読み上げた。


「被告人フェレティング・ポクリクペリ元公爵令嬢は王太子の婚約者として王族の務めを果たすべく、戦場の最前線に赴任しておきながら、一切の任務を果たさず惰眠を貪り贅沢を尽くした挙句、次々と兵士を寝所に引きずり込んで姦淫の限りを尽くした大姦婦であるっ!!

 のみならず、魔術砲兵一個大隊にあたる三百二十六名を救助したと虚偽の功績をでっちあげ、深紅綬勲章を賜り不当に年金を授受した横領の疑いもあるっ!!

また、ありもしない陰惨な戦場の有様を語り、民心を不安に陥れた反逆罪にも問われている。

 よって被告人を斬首の上、首および死体を広場に一か月間晒すこととするっ!!

なお、ポクリクペリ公爵家は連帯責任として取り潰しの上、国外追放とするっ!!」


 僕の堂々たる宣言に応えて、広場に集まった民衆が「おぉおおお!!」と歓喜の声を上げる。

 「くたばれこの淫売!!」などいった下品極まりない野次があちこちから湧き上がり、聞くに堪えない罵詈雑言が絶え間なくフェルの凍てつくような怜悧な美貌に浴びせられる事に快感を覚える。

 俺のことなど眼中に入れようともしない、この取り澄ましたいけ好かない女を今日こそ地獄に送ることができる。

 これでどちらが上か、この愚か者もさすがに理解できるだろう。

最初から這いつくばって取りすがり、涙を流して慈悲を請えばよいものを、地獄で心の底から後悔するが良い。


「さあ、最後の慈悲である。申し開きがあるならば言うが良い!!」


 びしっと指をつきつけて言ってやるが、声など出るはずがない。

 おかしな事を言われぬよう、獄中で食事に水銀を混ぜ喉を潰してやったのだ。


 しかし、勝ち誇る僕の思惑とは裏腹に、凛とした涼やかな声があたりに響き渡り、僕は度肝を抜かれて凍り付いた。


「お集りの皆さん、確かにわたくしは罪を犯しました。

 しかし、それは先ほど王太子が並べ立てた荒唐無稽で能天気なものではありません。

 わたくしはこの五年の間、地獄のような戦場を仲間たちと這いつくばって必死に戦って生き延びてきました。

 彼が必死に否定する陰惨な戦場の現実、それはたとえわずかであっても戦場に行ったことがある国民のみなさまには真実のものであると、王太子たちが語る能天気で享楽的な戦地の有様こそが現実にはあり得ない、絵空事だとご理解いただけるでしょう」


 な……なぜ彼女は当たり前のように、拡声魔法すら使わず、広場全体に響き渡るように語り掛ける事ができるのだ!?彼女の喉は確かにつぶしたはずなのに……っ!!

 最期の申し開きなど、うわべだけの建前で、一言だって喋らせるつもりはなかったのに……っ!!


「わたくしは王国歴百三十八年の一月、王族のみなさまの代表として、我が国の誇る精鋭たる第二魔道機甲師団の一員となりました。

 当時、開戦より一年が経過し、前線での死者が増えるにしたがって戦力不足が深刻となり、女性や少年も前線に送らざるを得なくなってきたのです。

 当然、そのような泥沼の戦場を招いたあげく、何ら有効な対策を打てずに火に油をそそぐだけの王家に批判が集中しました。そして王族籍のあるものが誰一人として戦場に赴むかないことも、批判が激しくなる一因となっておりました。

 しかし、不便な上に常に死の危険と隣り合わせの戦場に赴くなど、王族の皆さまにとってはとうてい我慢ならないことだったのです。それがたとえ後方の安全地帯だったとしても、です。

 そこで彼らは当時王太子殿下の婚約者だったわたくしを代理として派遣する事を思いつきました。まだ正式な婚姻前のわたくしが戦死したところで王室にとっては痛くもかゆくもないうえ、わたくしは治癒魔法の使い手だったので、衛生部隊にて前線の兵士の皆さんのために大いにお役に立つ事ができたからです」


 フェルは僕たちの内心の焦りなど素知らぬ顔で、淡々と好き勝手な事を並べ立てている。

 何とかして黙らせようと、音の伝達を妨げる静寂魔法をかけたりしているのに、全く通用しない。

 それ以前に、ヤツの喉は完全に潰して一切声を出せないようにしてあったはずなのに、なぜあのようにペラペラとしゃべり続ける事ができるのだろうか?まさか、奴は無詠唱で高度な治癒魔法や結界術を起動、展開する事ができる天才なのだろうか。


 僕たちの焦りをよそに、フェルの朗々とした演説は続いた。


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