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血まみれの追放聖女は断頭台の夢を見るか  作者: 歌川ピロシキ
幸福とは、死者の群れの中に生者を見出すこと
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終章:フェレティング・ポクリクペリの最期のご挨拶

 あの地獄の戦場で、わたくしは来る日も来る日も、あるいは手足を吹っ飛ばされ、あるいは半身が引きちぎれた兵士たちを治療して、ふたたび戦場へと送り出しました。愚かにも、それが彼らを助ける事なのだと信じ込んで。


 しかし、それはおぞましくも罪深い悪魔の所業でした。


 何故なら、その治療と称して行ってきたものは、なんびとにも等しく訪れる死という救いによって、あの泥沼の地獄から解放されるはずだった兵士たちを、無理やりまた立ち上がらせ、このおぞましい現世に生命を縛り付け、あの戦場の惨禍のただなかに何度でも送り返す行為だったからです。


 彼らはもともと勇猛果敢な優れた戦士たちでしたが、わたくしの魔法で回復した後は更に奮励し、いかなる苛烈な戦場をも恐れず鬼神のごとき働きで、夥しい犠牲を払いながらも数々の勝利を手にしました。


 わたくしは三百二十六名の兵士の人命を救ったとして深紅綬勲章を賜りました。


 しかし、正しくは三百二十六名もの人々を、終わることなき悪夢の中に無理やり閉じ込め、死という救いの安寧を奪い、地獄の狂気の中に叩き落とした悪魔なのです。そして、己が罪を自覚せず、おぞましい行為を五年もの間飽くることなく繰り返してきた、恐ろしい大罪人なのです。


 今となっては、わたくしも自分の罪深さを知っています。ですから、これからわたくし自身が処刑される事そのものには全く異存はありません。


 しかし、わたくしがいかに罪深き人間であったとしても、わたくしたちが血と汚泥に塗れて這いずりながらも生命をかけて戦った、あの最前線での日々が虚構であった事にはなりません。


 セプテントリオ王室は、これから訪れる繁栄の日々を迎えるにあたり、あの戦争の惨禍をなかったものとするために、あの戦場で何十万という人々の舐めた辛酸の日々を忘却の彼方へと追いやろうとしています。それは、あの泥沼の戦場で糞尿にまみれ、シラミやダニにたかられ血みどろとなって苦しみながら死んでいった戦友たちの、生きていた証そのもの、存在そのものを消し去ろうとする悪魔の所業でもあります。


 恩に着せるつもりはありません。


 しかし、今皆さんが味わっているかけがえのない平和な日常、穏やかで幸福な日々は、わたくしの仲間たちの、粉々に砕け、真っ黒に焼け焦げ、ドロドロに腐り落ちた、その腐臭漂う汚泥で捏ね上げられ形作られたものなのです。


 感謝して欲しいとは申しません。

 どうか、彼らが生きて、戦って、死んでいったこと……ただそれを、忘れないでいて欲しいだけなのです。


 それだけが、わたくしに遺された、たった一つの望みでございます。


セプテントリオ王国歴百四十三年八月二十五日

セプテントリオ王国軍 第二魔道機甲師団第一旅団 衛生小隊少尉

フェレティング・ポクリクペリ 記す

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