終戦(1)
あれは忘れもしない王国歴百四十三年の、凍てつく雪に覆われた二月のことでした。
その日も朝から歩兵の皆さんと共に工兵たちの指示に従ってせっせと塹壕を掘っていました。
そこに馬に乗った伝令兵が凄まじい形相でやってきました。
ついに最悪の事態……ノヴドロゴ軍が王都に進行したのでしょうか?
わたくしたち末端の兵士に告げられる戦況は断片的で、ラジオで語られる情報は華々しい大勝利ばかり。
わたくしたちが目の当たりにしている戦場とはあまりに違います。
ですから、わたくしたちはみんな「我が国は実際にはひどい敗戦を重ねているのに、その情報を国民や末端の兵士に秘匿しているのではないか」と密かに疑いを抱いていたのです。
「総員集合!!司令部より重要な訓示がある!!」
敵の陣地は緩衝地帯を挟んですぐそこです。このような大声でとても大切な訓示があることを知らせてしまってもよろしいのでしょうか?
わたくしたちは不安にさいなまれながらも急ぎ旅団本部に向かいました。
整列したわたくしたちの前に現れた師団長は何とも言えない表情でした。
まさかこれからノヴドロゴ軍に降伏するのでしょうか?
クメリーテを失った時の悲劇を思い起こし、わたくしは暗澹たる想いを噛みしめました。
いざとなったら舌を噛んで自害するよりほかはありません。
死を覚悟したわたくしたちに告げられたのは、あまりに意外な内容でした。
「本日〇八〇〇をもって、ノヴドロゴとの無期限全面停戦が成立した。
明朝〇九三〇より全面撤退を開始するそうだ。
総員、警戒しつつ一切の戦闘行為を慎むように」
無期限全面停戦。
つまり、無期限に戦闘を停止すると言うこと。
……これは、まさかとは思いますが、実質的な終戦ということでしょうか……??
誰もが事態を正確に理解できず、何とも言えぬどよめきが師団全体を覆いました。
わたくしたちは、もう、戦わなくても、良い……?
唐突に訪れた戦争の終わりを、わたくしたちは喜びではなく戸惑いと疑いで受け止めたのでございます。





