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血まみれの追放聖女は断頭台の夢を見るか  作者: 歌川ピロシキ
幸福とは、死者の群れの中に生者を見出すこと
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ピオニーア・ヤオタス(2) 間違うのはただ一度だけ

 その日は制圧したばかりの廃村に部隊が到着しました。ここならまともな建物に師団本部を構えた上に、簡単な野戦病院まで作れそう。放棄された建物に爆発物が仕掛けられていないか、工兵部隊が先行して調査します。


 工兵爆発物処理部隊は爆発物のプロフェッショナル。


 常に部隊に先行して、あるいは道や線路にしかけられた地雷を全て除去し、あるいは建物にしかけられた陰湿なトラップを発見して無効化し、友軍の進撃する道を確保するのが彼らの役目です。


 それだけに死亡率もとびきり高く、前線の機雷除去工兵の寿命は着任から3ヶ月だと言われていました。


 その日もわが第2魔導機甲師団に随行する第二十三機雷除去工兵分隊は、小隊ごとに別れてあるいは集落を囲む森の中の人の丈ほどある茂みの中を、あるいは砲撃でぼこぼこと穴のあいたイモ畑を、あるいは伸び放題荒れ放題の花壇の中を、這いつくばって調べていました。


「まどろっこしいと思うけど、私たちが良いと言うまでは絶対に集落に入らないで。敵さんの置き土産がどこにあるのかわかったもんじゃないんだから」


 いたずらっぽい笑顔でウインクしながら言ったのは工兵小隊長のマニヤ・レミスニクです。彼女は開戦以来もう何年も、とびっきり優れた工兵小隊長として、わたくしたち友軍の進むべき道を、常に整えてくれていました。余人にはただぼうぼうと草が生えているだけに見える草原でも、彼女の眼には隠匿されている無数の地雷が見えているのです。


 わたくしたちが進撃する時は、まず彼女が部下たちとともに地べたを這いずり回り、手早く地雷を撤去します。そして彼女が男たちを引き連れて馬に乗って戻ってくると、全軍前進の合図が出るのです。


 わたくしたちは、彼女と彼女の部下たちを全面的に信頼していました。


 ふと、彼女の忠告を無視して集落に立ち入ったある兵士が、民家の軒先に干してあったブーツを見つけました。

まだ新しく、あまり傷んでいない履きやすそうなブーツ。わたくしたちの履いている重くてボロボロの軍靴とは違って、とても軽くて暖かそう。


「これは良いものがあるじゃないか」


 ニヤニヤしながら兵士がそれを手に取ろうとした時です。


「それに触ってはダメ!!」


 鋭い声が響いたかと思うと、小柄な人影がその兵士に飛びつき引き倒しました。マニヤです。


 しかし、時すでに遅く、兵士はブーツを手に取った後......彼女は軍靴で思い切りブーツを蹴飛ばしました


 次の瞬間、そのブーツは爆発し......近くの花壇に仕掛けられていた火薬に誘爆して更に大きな爆発になりました。マニヤは両膝から下が吹き飛び、白い骨が剥き出しになってしまいました。マニヤに助けられた兵士も全身を強く打ってあちこち骨折している様子です。


 さっそくわたくしたち衛生兵のもとへと運ばれてきたマニヤは、激しい出血で意識が朦朧としていました。急いで処置しなければ生命が危ない。軍医は緊急手術で手一杯。


 わたくしは魔力と生命力を振り絞って、彼女の両足を治癒しました。吹き飛ばされる前と同じように、また大地を踏みしめて歩けるように。


 ピオニーアが複雑な表情でそれを見ていましたが、その時のわたくしはマニヤの脚を取り戻すことに必死で、彼女の表情の意味を考えてみようともしませんでした。


 無事に治癒魔法が成功し、マニヤが意識を取り戻したのはその夜遅くなってからでした。残念ながら、ブーツを手に取った兵士は頭を強く打って亡くなりました。


「私……失敗したはずじゃ……」


「マニヤ!!気が付いたのね!?」


 マニヤの小さな呟きに気付いたわたくしは、嬉しさのあまり彼女のそばにかけよって両手を握りしめました。


「フェル、私どうなったの?脚がふっとんだはずなのに、どこも怪我してないみたいなんだけど……」


「マニヤの怪我はわたくしが魔法で治しました。もうすっかり元通りですよ!」


「そう……ありがとう……」


 そう力なく囁いたマニヤの表情が曇っていたのは、爆発のショックと怪我の治療で体力気力を消耗しているせいだとばかり思っていたのです。だから、マニヤの小さな呟きを聞き逃してしまいました。


「あたしたち工兵が失敗するのは生涯にただ一度……もう地雷と向き合うことはできないわ……」

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