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血まみれの追放聖女は断頭台の夢を見るか  作者: 歌川ピロシキ
幸福とは、死者の群れの中に生者を見出すこと
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クメリーテ・アルスツ(2) 敵か味方か

 わたくしが気が付くと、野戦病院として使っているやや大きめの民家の、粗末な寝台の上でした。


「フェル、気が付いて?あなたもう丸二日も昏睡状態だったのよ」


「クメリーテ……あなた怪我は、怪我はないの!?」


 優しく気遣ってくれたクメリーテの顔を見て、わたくしはつい取り乱してしまいました。


「私は大丈夫……ただ……」


 クメリーテの表情が曇りました。


「ただ……どうしたの?」


「貴方が治癒魔法を使った歩兵一等兵なんだけど……」


「わたくし、暴走したのよね?ということは……」


「ええ、亡くなったわ。ただの切断で済むはずの怪我だったんだけど」


 やはりそうでしたか。


 魔法を使っている最中に意識を失って丸二日眠ったままだった、ということは魔力枯渇による暴走を起こしたはず。暴走した魔法の対象となっていた人がただで済むはずはありません。


「治療中の手首から細胞が大増殖して……最期は全身がいびつにふくれ上がって、人の姿ではなくなっていたわ」


 当然でしょう。


 わたくしは何日も不眠不休で看護にあたりながら限界近くまで治癒魔法を使っていたのです。あの状態で欠損部位の再生などすれば、暴走しない訳がない。


「……あれだけクメリーテが丁寧に説明してくれたのに、無体を強いるから……」


 とは言え、自分の起こした魔力暴走で人が亡くなったのはやはり残念です。


 あの時は負傷兵がまともに理が通じる状態ではなかったのと同様、わたくしもとても正気ではありませんでした。いえ、言い訳はよくありません。


 わたくしはほんの一瞬こう思ってしまったのです。自分たちを懸命に治療してくれるクメリーテを敵視して暴力を奮う兵士など、本人の望み通り治癒魔法の暴走で死んでしまえと。


 わたくしは一部の兵士たちの間で「癒しの聖女」「戦場の天使」と称えられているそうですが、とんでもない。こんな身勝手で醜い感情の赴くまま、罪を犯してしまうなんて……


 その後、あの時一緒になってクメリーテに暴力を奮っていた歩兵たちを見かけましたが、皆怯えたようにわたくしを見ると逃げるように去っていきました。


 その月の終わり、我が師団はノヴドロゴの重戦車隊および重装機甲歩兵隊の急襲を受け、ちりぢりに敗走する憂き目に遭いました。その際、わたくしたち衛生兵小隊も虜囚となり、ノヴドロゴの義勇兵に連行されたのです。


 わたくしたちは、共に虜囚となった歩兵や狙撃兵たちとともに彼らの前に引き出されました。その中で、ノヴドロゴ語が流ちょうに話せた女性はクメリーテだけ。


 そこで彼らの隊長がクメリーテに自分と結婚するよう求めました。彼女は当然断りましたが、すると義勇兵たちがわたくしたち部隊の女性たちに暴力を奮い始めたのです。殴る蹴るといった単純な暴力だけならばよろしいのですが……

 女の身であることが、この時ほど口惜しく感じられたことは後にも先にもございません。

 わたくしたちが痣と打ち身だらけでまともに身動きできなくなった頃、彼らの隊長がクメリーテに言いました。


「お前が拒むならお友達にお相手願うことにしようか。たしか銀髪の方は話すことはできなくても、こっちの言葉は聞き取れていたはずだ」


 クメリーテはついに彼らの要求を飲み、わたくしたちとは別の小屋に連れて行かれてしまいました。


 二週間後。


 友軍の魔導戦車隊および野戦砲兵隊がやってきて、寄せ集めの敵義勇兵部隊を蹴散らしました。わたくしたち捕虜も無事奪還され、原隊に復帰することになったのですが、その際、捕虜となっている間に敵兵に協力したものは、裏切り者として軍法会議にかけられることとなりました。


 うまく立ち回って食料をわけてもらった者、拷問で機密を喋ってしまった者……そして敵兵の慰み者になった者。

 すべてスパイ行為や反逆罪で銃殺刑となりました。


 そして、わたくしたち衛兵小隊の軍医は、しばし欠員となりました。

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