幸福をあなたと
小さな教会で、俺は祭壇へと向かい真っ直ぐ歩いていた。
左右に視線を向けると、今日俺たちのために来てくれた人たちの顔が見えた。
フィルバード家の人たちは、買い付けの時期を変更してわざわざ全員で来てくれた。
アリアさんの手には預けた母のオルゴールが握られている。ラウルさんが涙もろいと言っていた彼女は既に目に溢れそうなほどの涙を浮かべていた。
反対側にはアリアさんと同じぐらい既に泣きそうになっているサマンサさんが見えた。彼女はベルと揃って改めて挨拶に行った日も盛大に泣いてくれていた。今はまだ耐えているけど、ベルの姿を見たらきっと号泣するのだろう。
そしてもう主従ではなくなったのに、変わらずピンと背を伸ばし座る男の姿も見えた。
思えばあの日から、ガランドはずっと側にいてくれた。仕えるというより、家族のように俺を守ってくれていた。彼がいなければ、今日の俺はいなかっただろう。
俺を今の俺にしてくれたもう一人の人は、手紙に今日ここに来れないことが残念でならないと書いてくれていた。いつか妻を説得してそちらに行くとも書かれていたが、話を聞く限りそれは中々難しそうだと思っている。
そんなことを考えていると祭壇の前まではすぐだった。振り返りしばらく待つとドアが開いた。そこには真っ白なドレスを着たベルが立っていた。
小さい頃見た大聖堂のような美しいステンドグラスはここにはない。けれど、高い窓から差し込む明るい光が、彼女に温かく降り注いでいた。俺にはまるで彼女自身が輝いているように見えた。
あの頃、自分はずっと人の視線に怯えて生きていくのだと思っていた。鏡を避け、自分からも目を背け続けるのだと思っていた。それが今、これだけの温かな人たちに見守られている。
そして俺の目を真っ直ぐ見つめ、微笑み返してくれる貴女がいる。
いつだったか貴女は俺に少しでも気持ちが届けばいいと思って想いを伝えたと言ってくれていた。けれどこれは少しなんてものではなかった。俺の人生は貴女できっと変わった。
感謝とか愛情とかこの胸にある思いの全てを込めて、俺は貴女にキスをした。
最後はハッピーエンドにしました。
長々となりましたが、ここまでお付き合いくださり、誠にありがとうございました。
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