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兄の苦悩、妹知らず

フィルバード兄妹の話です。

最近、妹のリディアが妙にそわそわしている。


一年ぶりに買い付けに訪れた西国で、今日も手紙が届くのを落ち着かない様子で待っている。


相手は知っている。いや、別に後ろからこっそり覗き込んだとかそんなのではない。机の上に伏せて置いてあった手紙の差出人の名前をたまたま見てしまっただけだ。そう、たまたまだ。断じて手紙のありかを常に気にしていて、リディアが少し離れた隙に見たとかではない。


その名前を見たときは正直驚いた。彼はリディアより3歳年上の落ち着いた男だ。17歳のリディアとそんなにやり取りをすることがあったかと疑問に思った。


しかし、手紙をそわそわ待ち、届けばすぐ隠れるように読みに行き、読み終わってからはご機嫌にニコニコとするリディアの姿を見て、俺は一つの可能性に気付いてしまった。


あれは恋文かもしれない、と。


確かに彼は母さんの「実は親戚だったのよ」という言葉が信じられないほど、うちの親類では見られないような整った顔をしている。年頃のリディアが憧れるのは分からないでもない。そして文学を学んでいるという点でも、母さんに似て本好きのリディアとも気が合うと思う。実際に去年も今年も店頭の書籍コーナーで話をする二人を見たことがあった。


対してリディアはまぁ身内の贔屓目からすると中々可愛いとは思うが、中身はまだまだ生意気なお子様だ。彼の相手として釣り合うとは思えなかった。


つまりだ、俺はこれはリディアの片想いだと踏んでいる。

恋心から送られてくる手紙に、彼はきっと律儀に返事をしてくれているのだろう。


俺の縁談がまとまりつつある今、これが終われば次はリディアという話になるだろう。

不本意な結婚を迫るような両親ではないけど、憧れだけの恋愛もいつまでも続けられるものではない。


自由に振る舞える期間には限りがある。リディアのご機嫌な顔を見ながら、せめてこのことは最後までそっと見守ろうと俺は心に決めていた。



西国での滞在の終わりが近づいたある日、俺が店頭に立っているとクリスがやって来た。


「ジェームズ、アリアさんは今日はお店にいるかな?」


「母さんは確か事務所にいるよ。呼んでこようか?」


「ああ、頼む」


少し抜けることを他の店員に告げ、バックヤードへのドアをくぐるとき、そういやリディアは今日はどこにいたっけ?と思って、振り返り店内をぐるりと見渡した。


その時、俺は見てしまった。


書籍コーナーでクリスが女性に笑いかけているのを。


その柔らかな表情を見て、疎い、鈍感、デリカシーがないとリディアに散々言われる俺でもはっきり理解した。

彼女はきっとクリスの大切な人だ。


閉めたドアに背を預け、今見たもののことを考えた。何てことだ。儚い片想いだとは思っていたが、クリスには相手がいたのだ。


その彼女が一緒に来ていて、母さんを呼ぶ?もしかしてこれはご挨拶とか言うやつか?

頭の中で色んなことがぐるぐるしていたが、俺はとりあえず母さんを呼びに行った。



「まぁ結婚!それはおめでとうございます」


応接室に通した二人の話を聞いて、母さんは目を潤ませながら、そんな喜びの声をあげた。

彼女は俺が思った通りクリスの大切な人だった。そしてクリスは彼女と結婚するらしい。結婚。めでたい、とてもめでたい話だ。

だけど手紙のことを知る俺の胸中は複雑だった。


これはどうリディアに伝えたものかと一人必死で考えていると、そんな俺の苦悩を嘲笑うかのように当人がお茶を持って現れた。


「ねぇリディア、クリス君結婚するんですって」


母さんが開口一番、嬉しそうにリディアに話しかけた。

おい母さん!!俺は思わず叫びそうになった。母さん!いや、まぁ知らなきゃそうなるよな!いやでも母さん!!


どんなフォローを入れればいいのか全くいい台詞が浮かんでこなかった。これがリディア、お前の言うデリカシーがないというヤツなのか?もしそうならお前の言うとおり、兄さんのデリカシーはからきしだ。


心臓をバクバクさせながら、俺はリディアの反応を恐々うかがった。



「なーんだ、やっと落ち着いたのね!」



は?落ち着いた?


リディアの言葉に混乱する俺を完全に置き去りにして、リディアは喋り続けた。


「クリスったらずっと考えすぎていたんだもん。ね、私の言うとおり勇気だしてよかったでしょ?」


「本当にその通りだったよ。リディアには頭が上がらないよ」


「女心は男には分からないものなのよ」


「あら、リディアは知っていたの?」


「ここに来てすぐ、店頭でちょっとそういう話をしてから相談でもないけど手紙で話を聞いてたの。焦れったくてモダモダしちゃいそうだったわ」


「俺はこういうの詳しくなくて、恥ずかしい話です」



俺は目の前で繰り広げられる会話を一人呆然と聞いていた。


な、なんだそれ。片想いじゃなかったのか。


あんなに心配して、さっきは叫びそうにもなったけど、片想いというのは完全にただの見当違いだった。思わずつきそうになったため息を、この祝いの場には相応しくないとぐっと飲み込んだ。


リディア、本当にお前の言うとおりだったよ。

俺はデリカシーにほど遠いようだ。

デリカシーを理解してない兄(19)

恋ばなをワクワク楽しんでた妹(17)

意外にスピード婚になった男(20)

あの花束は彼女のアドバイスだった?と思う女(22)

式では親族席に座れと言われ自室で泣いた男


楽しい話が書きたかったので。


すいません年齢一部直しました。執事は年齢不詳にしておきます。ご指摘ありがとうございました。

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