私のお姉様
二つ目。在りし日の姉妹
「お兄ちゃんなんて大嫌い!!」
私のスカートに顔を埋めて、リディアがくぐもった声でそう言った。
これはフィルバード家の日常風景だ。
普段はコロコロと二人笑いあって遊んでいるけど、ちょっとした喧嘩もよくする。
リディアは弁は立つがやはりこの年頃の二歳差は大きい。いつも最後はリディアが泣いて、私のところに駆け込んでくる。
そして、バツが悪そうにしながらも「ごめん、言い過ぎた」とジェームズが謝るまでがいつものパターンだ。
いつものようにラウルに似た赤みのある髪をすくように頭を撫でていると、目線をこちらに向けたリディアがこう言った。
「私、お兄ちゃんよりお姉ちゃんが欲しかったわ。お姉ちゃんならきっとあんなひどい言葉を使わないし、私のぬいぐるみを投げたりせず、私の好きな遊びを一緒にしてくれるはずよ」
なるほど、今日の喧嘩の理由は何をして遊ぶかで揉めたというところか。
経緯はまた聞かなきゃいけないけど、物を乱暴に扱ったことは注意しないといけないかしらと考えていると、リディアは私にこう聞いてきた。
「お母さまにはお姉ちゃんがいるのよね?どんな人なの?」
「お姉様は、そうね……」
娘に問われ、私は久々にアリアと過ごした日々を思い返した。
「お姉様ったら何その格好!!」
部屋を出るなりアリアにそう声を掛けられた。その日はお気に入りのワンピースを着ていたのに、アリアのその言葉に私は思わず下を向いてしまった。
そんな私の反応はお構いなしで、アリアは私の手を掴んで、ずんずんと自分の部屋へと連れていった。
「せっかくのワンピースなのに髪にリボンも付けないなんて信じられない!」
そう言いながら、アリアは色とりどりのリボンが入った箱を開けた。リボンはどれも色鮮やかで、私では尻込みして選ばないような色たちだった。
真剣な顔でそれらを見つめた後、アリアは綺麗な黄緑のリボンを手にし、私の髪に器用に付けてくれた。
似合わないんじゃないかと思っていたそのリボンは、付けてみるとワンピースとすごく合っていた。
「私と同じ可愛い顔をしてるんだからね!ちゃんとしてよねお姉様」
私と同じ顔の、全然性格の違う妹はツンとした表情をしながらそう言った。
思い返せばいつもそうだった。
初めてのダンスのレッスンの後、もう少し踊ってみたい気持ちを押し込めて部屋に戻ろうとした私の手を取り、「踊りましょうよ、お姉様」と笑いながら手を引いてくれた。
私にないものを沢山持っていて、臆病な私にいつも手を差し出し、引っ張っていってくれるような子だった。
「明るくて、不器用で、優しいお姉様よ」
私は胸にこみ上げる寂しさを誤魔化すように、娘に笑いかけながらそう答えた。
リリアもダンスのことを覚えているということを入れたかったので。