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7 碌でもない関係

7

私とマデリーンは倒れ込みたいのを必死に堪えて馬車に戻った。馬車が走り出し、城門を出た時、どちらからともなく


「「はーっ」」


 っと声が出た。九死に一生とは正にこの事よ。世界を守った可能性も捨て切れないわ。


 私は扇を出してパタパタと顔を仰いだ。


「怖かった。本当に怖かった。」


 マデリーンもスーハースーハーと呼吸を整えている。


 私達はなんとかあの後、交渉し、ジオルの身分を剥奪して城を追放してもらうことになった。そのかわり、私とマデリーンは月に一度必ず城に泊まるよう約束させられた。あ、あああ。恐ろしい。恐ろしいわ。


 ジオルは一連の手続きが終わるまで牢に入れられ、3日後に追放される事になった。その日は交代で使用人を城門の前で待たせて、うちの別邸に連れて行くことにしている。


「マデリーン巻き込んでしまってごめんなさい。こんな事になるとは思ってなくて……」


 マデリーンは力無く笑いながら


「お気になさらないで。これからも助け合って参りましょう。」


「ありがとう。もちろんよ。」


 私達は、これ以上話す気力もなく、それぞれの屋敷に戻った。屋敷でも気分が悪いので休みたいと伝え部屋に引きこもる。全てが悪い夢のようだ。


 ジオルは平民にされるけど、あんなところに居たら本当に動物にでも変えられかねない。


「約束通り生かしているよ。君は白い小型犬が欲しいと言っていただろう?」


 と、何度目かの転生時にぽろっとこぼした言葉を突然現実にされかねない。悪魔さんに人間の感覚が分からない事に加えて、恋敵認定している以上、悪意もあるしね。


「うっ」


 頭がズキズキしてきた。何回分もの転生の記憶を思い出したせいだろうか。頭がパンクしそうだわ。記憶のお陰で色々知識が増えたのは便利だったんだけど。うーん。どうしようか。忘れるといえば茗荷かな?でも、そんなものないし。


 ああ、そういうこと言ったら畑ごとプレゼントされたこともあったな。そうそう、あれは多分初めての転生?いやいや、転生前だ。初めてあの悪魔に会った時……あ、あの時もリンダだったかも。うーん?あれ?馴れ初め時点で無茶苦茶好かれてたな。おかしいな、何だか不自然。きっとこの前にも何かある。


 いたたた!!!あー絶対封印的なものかかってる!!もう、考えるのやめ!!寝よう!!


あーーー!!!無理無理痛くて眠れない!!羊数えてたら撲殺しそうになるわ。ああ!!私も悪魔化してるのかしら!!


「大丈夫かい?」


 おお!!あ、悪魔さん!!

ここ、私の部屋!!寝室!!な、なぜいるの!!


「記憶を蘇らせてしまったから辛いかもしれないと様子を見にきたんだよ。今までは君に怖がられないよう隠れていたんだけど、もう私の正体も思い出してくれたろうし、このまま来たよ。」


「あ、あの、寝室です。わ、私は、一応令嬢で、あの、正式な手続きを踏んでもらえるはず、では……」


 どうして、いきなり部屋に来るの!!やめて、やめて、本当にやめて!!


「ああ、ごめんね。君を侮辱したり、軽く扱う気なんて毛頭ないんだよ。でも、苦しんでいる君を放って置けない。さあ、横になって。治療をするだけだよ。私の名に誓おう。」


 悪魔が自分の名に誓うってどのくらいの効力か見当つかないんですけど……とは言え、実力では絶対に勝てない相手だ。刺激をするべきではない。私は覚悟を決めてゴロンと寝転がった。


 悪魔さんは、そっと額に手を置いた。冷たい手に痛みが溶けて吸い込まれて行くようだ。


「ふう」


 思わず声が出た。悪魔さんは嬉しそうに笑った。


「楽になったね。良かった。眠れそうかい?」


 黒い瞳が優しい。この人、じゃない、悪魔さんは本当に私が好きなんだなあ。


「はい。ありがとうございます。」


 私は、何て言ったら良いのか分からずに、とりあえず、お礼を口にした。すると、嬉しそうに漆黒の双眸が細められる。


「ずっとこんな風に君と過ごしたかった。何故か大抵君に嫌われてしまうから。」

 

「えーっと、そのすみません。」


 早く帰って欲しいが、何故か語りモードに入ってしまった。


 でも、情報がただで聞き出せるなら聞いておいた方が良い。あ、そう言えば、私はマデリーンのお助けキャラを自認してるわけで、アルスの正体を知っておきたい。あと、私の方は何故悪魔さんが私に執着してるのか、馴れ初めや、封印されてるところは何なのか。とりあえずこの事を確認したい。


「良いんだ。今生で、やっと君を得られた。これからも君に愛されるよう努力する。だから逃げようとしないで。私を拒まないで。そうすれば君はあらゆる物を手に入れられる。」


 文字通り悪魔の誘惑!!何というか、顔は良いし、仕草も艶かしいのに男らしい。声は甘くて、耳が溶けてしまいそう。だ、だめ、だめ。この雰囲気に流されたらいきなり初夜が始まってしまう!!ほら、頭撫でてた手が唇なぞってるよ!!


「あ、あの、どうして、こんなにも私を愛してくださるのですか??」


 あ、止まった。分かりやすい。何か言いにくい系?


「う、運命だよ。私は君を愛する事に決まっている。」


 何だそれは?


「それは、何か義務的な物なのですか?貴方の力に関わる事とか、地位に関わることとか?」


「私はお見合い結婚と恋愛結婚を同等の価値があると思っているんだ。きっかけは何であれ愛が本物ならば、何の問題もない。私の愛は本物だよ。」


 わー。やっぱり何かあるんだわ。何だか焦ってるし、おかしいと思ったのよ。ただの人が悪魔にこんなに愛されるとか。絶対、聞き出してやるわ。


「あの、ではその馴れ初めをお教えいただきたいですわ。いただいた記憶にはなかったので。」


「あーあ、そうだね。私との馴れ初めを聞きたがるのは当然ではあるのだけれど、実はそのことで随分前に君が怒ってしまって、それで、記憶がない君に適当に誤魔化して話した事も有ったんだけれど、後で嘘つきと君に嫌われてしまった。だから止めておこう。何度も転生した今、大切なのは私が君を愛していることで、きっかけではないんだよ。」


「そ、その、私がそんなに怒ることですの??」


 ああ、思ったより最悪なきっかけっぽいわ。何度かそれで揉めて殺されてるのかも。


「いや、その、どうしても知りたいなら、私が安心できるだけの契約をして欲しい。」


「け、契約ですか?」


 悪魔が契約とか言い出した。た、魂取られるやつ??


「そう。ちゃんと契約書を作って、君が私を嫌ったり、逃げようとした場合、私に魂を譲るという契約だよ。」


 そうだった。本当に魂だった。ヒヤッとしたものが体の奥から湧いてくる。恐怖って冷たい感じなのね。全身にじわじわと広がるそれは冷や汗を伴い私の体温は速やかに下がっていく。


「体が冷えている。寒いのかい?今日はこのくらいにしよう。ゆっくりお休み。」


 悪魔さんは私に優しく布団をかけた。


「もしかして、怖がらせたかい?大丈夫。私はただ、君が私の元で幸せに暮らして欲しいだけなんだ。君の魂を奪って奴隷にしたい訳じゃない。だから、二人の関係を悪くするような話は止めておこう。他のことなら、たくさんの知識を君にあげられる。色んなことを教えてあげるし、色んなところに連れて行ってあげる。だから、そんな事を考えてワクワクしていておくれ。」


 そう言って、悪魔さんはフッと消えてしまった。

 とりあえず、分かった事は一つ。始めから碌でもない出会いだったと…




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