5 ジオルの命運
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「今日アルス様からお手紙が来ましたの。」
頬を染めながら恋バナをしてくれる可愛い親友に私はウキウキだ。マデリーンとアルスの恋をこんな風に見守る権利があるなんて幸せすぎる。
私の謹慎はすでに解かれたが、学園の長期休暇が始まってしまいあれから学園に行けずじまい。皇太子に振られた令嬢に声をかけるのが憚られるのか、お父様のお眼鏡に叶う相手がいないのか新しい婚約の話もないので、マデリーンや他のお友達とお茶会をするのが日課になった。噂話を聞くには茶会に限ると思う今日この頃。
アルスとマデリーンの関係は順調で、日々酷くなるジオルの嫌がらせにアルスも兄離れを起こし始めているようだ。もう少しすると、色々事件が起き始めるため、学園の休暇が延びるのかゲームでこの後学園の描写は無かったように思う。
クーデター。ゲームでは、むごたらしい描写はなかった。アルスの指揮のもと軍が立ち上がり、ベルゼの立太子とジオルの廃太子を王が決断する。歓声が上がり、数年後とテロップが入ってベルゼの戴冠式を背景にマデリーンとアルスのキスシーンが入ってエンド。
でも、現実は?このクーデターは本当に無血だろうか?ジオルは生きているのだろうか?
私を捨てたジオル。階段から落ちた私を揺さぶって、汚名を着せたジオル。もしかしたら私を殺そうとしたかもしれないジオル。
花をくれたジオル。跪いて婚約を申し込んだジオル。初めて舞踏会で一緒に踊ったジオル。綺麗な髪飾りをくれたジオル。
「やめろ!やめろ!やめろ!!」
必死に叫ぶ声。ジオル?ジオル?
「リンダ様?」
気がつくとマデリーンの可愛い顔があった。
「ああ、ごめんなさい。あの、ジオル様はどうして居られるかアルス様は書いていらした?」
「ええ。アルス様の飼い犬や側近が毒を盛られて、結局、おかしな匂いがして誰も食べなかったようですが。それがジオル様の仕業と噂になっていて。それに、ぶつぶついいながら歩いたり、公務に来られなかったり、部屋から叫び声を出されたりと奇行もひどくなっているとか……」
うっ、本当に酷いことになってるのね。
うーん。リンダはやっぱりジオルが好きなのかな?なんだか胸が痛むわ。結婚したいとは思わないけど、私の幼馴染は、殺されず、それなりに幸せに生きてて欲しい。
そうだ幼馴染の彼方はあれからどうしたのかな?秋月桜の幼なじみの悪ガキ、木村 彼方
「おい!狂い咲き!!」
とか言ってくるので、
「彼方に消えろ!彼方!!」
とか言い合ってたなあ。17でもそんなノリで。でも、私がお見合いって聞いたらなんだかショックを受けてて。断れって言ってきて。あーあいつ私のこと好きだったのかな?私も嫌な気はしなくて。あーそっか。もしかして私にとっても初恋だったのかな?御曹司を断ったのも本当は彼方が好きだからで……それで、なんとなく幼馴染の男の子には死んで欲しくなくて……。
「マデリーン様、何があっても血が流れるのは嫌ですわね。」
私がそういうとマデリーンはうなずく。
「そうですわね。穏便に済めば良いと思いますわ。」
マデリーンの口調が重々しく感じる。クーデターは近い。私はお助けキャラとして、正しい行動をしている。心配ないわ。アルスは優しいから兄の死を望むとは思えない。あとはベルゼ……ベルゼに無血の決着を頼んだらどうかな。次期王とは言え、今はただの第2王子。公爵家の存在は無視できないはず。
そうしたら、なんで心優しい、美しい御令嬢!!と評判が高まって、私の婚活も捗るはず!!そうよ。人を助けるのに理由はいらない。さらに理由があるなら助ける一択よ!!
というわけで数日後、私たちはベルゼに会いに王宮に来た。
廊下を歩いていると、何かが飛び出してきた。
え?えっえ??
目の前にジオルがいる。ジオル、だよね??
「ひっひっひっ」
なんか、奇怪な声を出しているよ。私を見て目に涙を溜めたような……落ち窪んだ目、こけた頬、あの全国のファンをうっとりさせた王子様は今にも死にそうな痩せ方で、狂気と悲しみをたたえた瞳をしている。
おいおいおい、予想外過ぎる。何これ?
隣を見るとマデリーンも絶句している。
「皇太子様、お部屋を出てはいけません。さあ、お休みになって。」
侍女たちが慌てて駆けつけてくる。ジオルは縋るように私とマデリーンを見ている。いや、マデリーンを見てるだけかもしれないけど。
噂では、ジオルが毒を盛ったと言われていたけど、あれは盛られた方じゃない??
「お嬢様方、申し訳ございません。あちらで、第2王子様と第3王子様がお待ちでございますので、こちらはお構いにならず、お急ぎくださいませ。」
おーい!!それ、その人、第1王子、皇太子!!
これ、もう勝負ついてない??完全にジオルの扱いが変わってる。というか、終わってる。
「あの、ジオル様、今でも私にとってジオル様は幼馴染のお友達ですわ。後で、ご機嫌伺いに参りますね。」
ジオルは涙を流して
「ワオーン」
と犬のように吠えた。