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2 私はリンダ

2

 さて、どうするか。あれから3日たって体の調子は良くなってきた。謹慎させられてると言っても、ここは公爵家、敷地は大きいし、買い物したければ、侍女に頼むか、商人を呼べば良い。特に私を喜ばせたのは、少女の夢が詰め込まれたお風呂ですよ。ハーブやら何やらで色をつけた色とりどりの湯船は泡風呂にもできるし、泳ぐのにちょうど良い広ーい水風呂と数種類のサウナ。サウナ用の冷たい水風呂。温泉の湯が勢いよく落ちる滝まである。これが私専用とか神すぎて狂喜乱舞し、しばらく療養と称して入りびたっていたけど、ようやく気が済んで、今日は図書室に籠ることにした。


 謹慎中なので学園に行けないし、勉強しなくちゃというのは建前で、これからの対策を立てるためだ。


 このシナリオでは、そのうちマデリーンが訪ねてきて謝ってくれるはず、そこで私たちは分り合い親友になれる。それからは悪役令嬢ならぬ、お助けキャラとしてマデリーンを助けられるのだ。本当に運が良かった。私にとってはこれは最良のルートだ。マデリーンの親友でアルスとのキューピット役なんだから。

 

 だから、しばらくはじっとしていても大丈夫なはずだけど、アルスとマデリーンが良い感じになるとジオルはもちろん激怒して、二人を妨害してくる。それがだんだんひどくなり、アルスはジオルの人間性に失望して、王位を狙っている第2王子ベルゼ陣営に行く事を決意する。


 ベルゼももちろんイケメンなんだけど、アルスシナリオで始めて出てきて、全てのルートが終わると攻略できるようになる隠しキャラだ。まあ、私はアルスとマデリーン好きすぎであまり興味がなかったけど。


 とにかく、アルスルートは皇太子を廃して第2王子を皇太子にする叛逆ルートでもあるわけで、危険がないとは言い難い。実際、お助けリンダってアルスの好感度をMAXにできる頃から全然出てこないのよね。どうなったんだろう。


 ……こ、殺されてたりしないよね。いやいや、ネガティブシンギングはやめておこう。殺されないように頑張れば良いだけよ。


 えーっと、まず、マデリーンが来たら絶対追い返したりしないように言っておかなくちゃね。ああ!これはお風呂で遊んでる暇があったらすぐに言わなきゃいけなかったわ。


 それから、お助けキャラになる為にはアルスのことはもちろん、他の事でも情報通にならなきゃね。これも使用人にお願いして情報を集めてもらおう。

 

 それをちゃんと整理するからノートとかの筆記用具を確保して、通信魔法をしっかり覚える。あの、ゲームで時々そこにリンダいる?って突っ込みたくなる事があったのは、多分通信魔法使ってたんだと思う。私はあまり得意じゃなくて時々電波の悪い携帯電話になってしまうので、そこをもっと練習よ!!


 そして、ベルゼ王の時代にも安泰な人と婚約するための婚活!私だって素敵な人と結婚して、悠々自適な老後を送りたいのよ!!もし、生まれ変わった世界だったとしたら、私17歳で死んだことになる。今回は絶対天寿を全うするんだ!!子供も産むぞ!!男の子と女の子両方欲しいなあ。


「完璧だわ」


 私は用意したノートに書かれた日本語にうんうんと頷いた。この国の言葉はアルファベットを使う。だから日本語で書いておけば暗号がわりになるはず。


「ラン。これ読める?」


 私は控えている侍女のランに声をかけた。


「いいえ。リンダ様、何の暗号ですの?私にはさっぱり。」


「良かったわ。ふふ、私が幸せになるための計画をこれで書いて行くわ。誰が見るか分からないでしょ?」


 冗談めかして言うとランはいつになく真剣に


「分かりましたわ。私はリンダ様にお使えして早10年もう、一生お使えする覚悟。一蓮托生です。つまり、つまりそう言う事ですのね。暗号を使って。あの、あの憎き男を失脚させると!!」


 わ、わわ。ご、ごめんなさい。今の質問にそこまでの意図は無かったんだけど、でも、まあ、マデリーンとアルスと私の幸せの為に失脚してもらうつもりだからランのセリフは大正解だ。さ、さすが私の姉がわりと言われるだけあるわね。


「ま、まあ、その、えーっと、それでね。マデリーン嬢は仲間にできると思うのよ。だから訪ねて来られたらお通しして欲しいの。あと、色々な情報が欲しいわ。王宮のことはもちろん街の色んな噂話も。」


「心得ました。このランが信用できるありとあらゆる噂話を持ち帰りますわ。他の使用人や旦那様や奥様にもご協力願いましょう。……え?マデリーン?あの、マデリーンを仲間に??」


 頼もしく胸を張って宣言した後、前半のセリフがやっと頭に辿り着いたらしいランは怪訝そうに首を傾げる。まあ、そうよね。ランにしたら、私を追い落としてジオルと婚約しようとしている悪女だと思ってるだろうし。でも、マデリーンはとっても良い子なのよ。素直で可愛くて純心で、ああ、お嫁に欲しいわ。


「多分、ジオル様の片想いなのよ。マデリーン嬢は今回のことに関わっていないし、婚約も望んでいないわ。」


「そ、そうでしょうか?これまでも、マデリーン様のせいでリンダ様の評判が悪くなった事がありましたし、ジオル様とダンスも踊られていましたし。」


 まあ、ねえ。初めは顔見せな感じで、誰かのルートに入るまでちょっと良い感じになったりするのよ。乙女ゲームだからね。


 でも、私が階段から落ちて死なない以上、アルスのルートに入っているはず。私が階段から落ちて助かるのはアルスルートとベルゼルート。一度目では入れないベルゼルートよりアルスルートの可能性が高いけど、万一ベルゼルートだとしても私がやる事は変わらない。ルート分岐はリンダが出てこなくなった後だから。どちらにしても、この世界で私はマデリーンを虐めていないはず。そして、マデリーンも私に敵意はないはず。

 つまり、マデリーンのせいで私の評判が悪くなる原因は


「ジオル様が彼女の気を引こうと私を悪者にしただけよ。ダンスだってジオル様が誘えば断れないでしょう?」


「そうでございましたか。やはり、憎きはジオル!!あの男、業火の炎に焼かれて死ねば良いですわ!」


 ラ、ランありがとう?かな?でも、まあ、殺す気はないのよ。なんだかんだ言って子供の頃から婚約してて、別段仲が悪かった訳でもないし……ん?そうよ。どうして、階段から落ちた私にあそこまで言うんだろう??好きになった女性をいじめた訳でもない幼馴染の婚約者よ。ジオルってそこまで性格悪かったかな?


 リンダの記憶としては、金髪イケメンの王子様だから、自信家で調子に乗ったところはあったけど、そんなに嫌なやつでもなかった。それに髪飾りをくれたり、割と私のこと好きそうだったし、もちろん私だって……


「リンダ様!」


 ああ、幼馴染の婚約者にこんなに嫌われてたんだな。私、割と好きだっのにな。もしかして、ジオルが魔法で私を転ばせたのかな?死んで欲しいと思われてたのかな?


 私の目からボロボロと涙が溢れた。一人の体に二人いるようだったリンダと桜の感覚がピタッと一致して一人になった瞬間だった。

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