95:アルバードの母たち(シエラ)
「・・・というのが、アルバードが生まれた経緯だったのです。妻のシェリーには感謝していますよ。突然子供が増えたというのに、受け入れてくれましたからね。妻の今際の時も家族に看取らて安らかに逝きましたから。」
侯爵の妻だったシェリ―は、兄のコンラートが結婚をした後に病気で亡くなっていた。シェリーは元々身体が丈夫ではなかったのだが、せめて子供たちが成人するまではと、フォルティシアの助力もあって延命処置をしていた。
「アルバードの生母の方も育ての夫人も、とても素晴らしい女性だったのですね。」
シエラは会えることのないアルバードの母達に素直に尊敬の念を抱いた。
「えぇ、本当に。下品な言い方になりますが、私はいい女達に恵まれたと、私には勿体ない女性達でしたよ。」
そういった侯爵の顔は少し照れくさそうにも、とても嬉しそうだった。クラウディアさんとはまた違うけれど、シェリ―夫人とも良好な夫婦生活を営んでいたのは侯爵の表情を見て読み取れた。
あれ?でもどうしてイライザさんが知ってるの?いわゆる魔女のネットワークみたいなものかしら?
「そういえば、その話にはイライザさんは出てこなかったんだけど、イライザさんは何故知ってるの?」
「私はね、アルトの母クラウディアと親友だったのよ。それにフォルティシアとも交流はあるから、話は聞いていたの。私が姿を現したのは、アルトが冒険者になってからだけどね♪」
「そう。俺が冒険者するようになって、ばーちゃんから紹介してもらったのが、ライザだったって訳。」
そうか、だから妙に仲が良いとは思っていたけど、そういう訳だったのね。
そこでシエラは思い出した。そういえばカインが言ってたフォルティシアが、魔女であったからこそ知り合いだったのだと。
「うん、いろいろとスッキリしましたわ。侯爵、話しにくい話をありがとうございました。」
「いえ、これから家族になるのです。知ってもらったほうがいですからね。できればもう父とも呼んでくださって構いませんよ。」
シエラは嬉しかった、侯爵に受け入れられていることに。
「はい!えっと、お義父様?ふつつかではございますが、よろしくお願いします。」
シエラは淑女の礼をした。しかしそこでアルカディア王が割って入った。
「待てい!まだシエラは嫁にいっとらん!父と呼んでもらうなど十万年早いわぁあ!」
「やだ、王様ったら典型的な娘をまだ取られたくないってやつなのね?だけど婚約決めたの王様でしょ?」
「うっ!」
イライザに冷静にツッコミを入れられてしまい、アルカディア王は言葉に詰まった。
「お父様、私は家族が増えて嬉しいですし、お父様の娘であることはずっと変わることはないんですよ?」
「シエラ!そっちで何かあったら、すぐに帰ってくるんだぞ!我慢なんかしなくていいからな!」
「陛下、失礼ですね。まるで私が嫁いびりでもするようじゃないですか。」
「あ、いやそういうつもりでは、」
アルカディア王はちと分が悪いとさすがに思い、ちょっと焦っていた。
「やだ、お父様ったら」
シエラは珍しく動揺している父を見て可笑しくなってしまい、そして自分は愛されて育っていたのだと、ひしひしとその有難さを身に染みていた。
「シエラは幸せ者だな。」
「えぇ、でも私欲張りだからもっと幸せになりたいの。」
「そうか、奇遇だな。俺もだ。二人で一緒に幸せになろうな。」
「えぇ。」
「ふふ、ひとまずは一段落ついたってところね♪」
こうして、バランドールの報告とアルバードの出生の経緯についての話が終わった。




