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94:ゼノ・セル・アーベンラインの過去~後編~


 「・・・クラウディアはね、死んだ。」


 「?!」


信じられなかった、あの陽気なクラウディアが死んでしまうなど。それに魔女は魔力も強くて長寿だったはず。それが自分よりも早くに亡くなるなど。


 「そんな・・バカな・・・」


 ゼノは女の告白にぼーぜんとしてしまった。

 カラン!

 そして持っていた剣を落としてしまった。

 クラウディアが、死んだ?!!バカな?!そんなバカな!!


 女は話を続けた。


 「前代未聞の事例には、それ相応の代償だったのかもしれない。この子を生んで直ぐに亡くなったんだよ。あの子の最後の言葉は「ゼノ、この子をお願い。」と。だから私はここに来た。」


 その女の顔だちをよくよく見れば、合点がいった、黒髪に切れ長の赤い瞳・・・


 「貴方は、クラウディアの・・・」


 「名乗るのが遅れっちまったね。私はクラウディアの母親だ。名はフォルティシアという。それとあんたの疑問を解消しておこうか。魔女の妊娠期間はね、人間の十月十日とは訳が違う。妊娠期間は5年ほどあるんだよ。それにさっきも言ったが魔女が男子を生んだなど聞いたことがない。なぜそうなったのかは今のところは理由はさっぱりわからない。だが、あんたの子なのは間違いない。」


ゼノはフォルティシアから赤子を受け取った。

その赤子は確かに、ゼノによく似た黒髪に藍色の瞳の色彩を纏っていた。


 「俺の子供・・・」


 「さっきも言ったが魔女社会では育てるのは難しい。だけど私もサポートは勿論させてはもらう。そういう事情だから赤子を引き取ってもらいたい。」


クラウディアと俺の子供・・・

ゼノの脳裏にはクラウディアとの思い出が鮮明に呼び起されていた。本来であれば、先に妻のシェリ―に確認をするのが筋ではあったが、ゼノにこの子を見捨てるという選択はすでになかった。


 「わかりました。」


 「急なことだったとはいえ、あんたにも家庭があるのに申し訳ないとは思っている。別にこの子に爵位をどうこうしてほしいなどは思っていない。ただ健やかに人間の社会で育ててやってほしい。一応様子はちょくちょく見に来るよ。では、」


フォルティシアはゼノに託した赤子に、


「アルバード、またね。」


先ほどまでの厳しい表情とは一変して、赤子には優しい顔になっていた。


「アルバード、というんですか?」


「あぁ名前言ってなかったね、この子はアルバード、古代の言葉で『勇敢』という意味なんだよ。」


「わかりました。アルバード・・・」


 そして、フォルティシアが何故あのような態度だったのか、冷静に彼女を見てわかったのだ。間近で彼女を見た時、目は悲しみを帯びていたのがわかったのだ。彼女なりに自分の娘の死に心痛めていたのだと。彼女なりに泣くまいと虚勢をはいっていたのだと、冷静になればゼノは理解することができた。


 その後、妻に事情を話すも、初めは難色を示しかけたのだが、兄に当たるコンラートが、突然部屋に入ってきて、すやすやと眠るアルバードを見て無邪気に「僕に弟ができたの?!嬉しい!」と嬉しそうにニコニコと赤ん坊の頭を撫でた。その様子を見て、シェリーは考えを改め、コンラートと共に育てることに同意してくれた。


 その後は、シェリ―はアルバードを実子と同じように育てくれた。コンラートとアルバードは異母兄弟ではあったものの、兄弟仲も良好であった。

 魔女の子ということで、成長はどうなるかと見守っていたのだが、成長過程は人間と変わることはなかった。アルバードが学校を卒業後、冒険者になりたいと言った時も、生まれた経緯から不思議に思うこともなく、そういう星の元だったのだろうと、シェリも―ゼノも受け入れることにした。

 フォルティシアは約束通り、年に数回時折フラッと姿を現しては、コンラートやアルバードと一緒に遊んだり魔法教えたりしていた。フォルティシアのとって、孫はアルバードだけであったが、コンラートの事も分け隔てなく可愛がってくれた。



 そしてこの案件は魔女が絡んでいることから、王には事の顛末を報告をしていた。魔女が絡んでいるなら、わざわざ公にする必要もないだろうということになったのだ。


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