86:呪いは解けず(アルバード)
なんでだよ!・・・俺、何ていうか、恋というか恋愛感情とやらで人を好きになった経験がないから、そういう気持ちがよくわからない。だけど、とにかくシエラとは離れたくない、ずっと一緒にいたいって気持ちはあるんだよ。こういう気持ちになったのはシエラが初めてだったんだけど、違うのか?これが好きって気持ちなんじゃないかと思ったけど、違ったのか?それに気持ちが通じあった気がしたのに・・・
「アルバード」
「シエラ・・・ごめん、ごめんな!」
誰が見てもアルバードはひどく落ち込んでいた。がっくりと膝をついて、項垂れていたアルバードだが、シエラはそんなアルバードを見てさらに愛しく感じていた。
「アルバード、忘れたの?」
「え?」
「私言ったよね?必ず好きにさせて見せるって。」
「あ・・・」
「勿論今すぐって訳にはいかないみたいだけど、でも何年かけても、惚れさせてみせるわ!」
シエラは笑顔でそう言うとアルバードに両手を伸ばし
「ほら、わかるでしょ?」
「あ、あぁ!」
アルバードはシエラの意図がわかり、いつものように片腕で抱っこをした。
「ふふ、ある意味お得でしょ?小さい私と元の私、二つの姿があるんだから。」
「そうだな。・・・解呪できていないから、俺のこの気持ちが違うのかもしれないけど、でも・・・」
「でも?」
「こんな気持ちは初めてなんだ。シエラとずっと一緒にいたいって感じてるのは間違いない!」
「ふふっ、じゃ少しは前進したってことね。時間は少しかかるかもだけど、覚悟してね?未来の旦那様?」
「あぁっ」
そんな二人のやり取り後、ランスロット王子が二人の前に現れた。
シエラはアルバードに下すように促すと、ランスロット王子はそれを制止し、そのままでいいと、首を横に振った。
「ランスロット王子、本当に怪我までさせてしまってごめんなさい。そして私を身を挺して守ってくださって、本当にありがとうございました。」
シエラは抱っこされたままの姿勢で礼をした。
「シエラ王女、それが僕の役目ですから気にしないでください。それに、元々はバランドールの王位継承の問題に巻き込んでしまった、こちらに非があります。どうか頭を上げてください。」
ランスロットは、アルバードに抱っこされている、シエラ王女をじっ見つめて、目を伏せた。
「それに・・・残念ですが、俺の入り込む隙はなさそうですね。シエラ王女アルバード卿とどうか幸せになってくださいね。」
少し寂し気な表情をしたかと思うと、すぐに笑顔になり愛しい人の幸せをランスロットは願った。
「え?」
「それでは、事後処理もありますので、これで。」
ランスロットは、芽生えかけた恋心が叶わぬのだと悟ったのだ。そして颯爽と背中を向けた。
「え?・・まさか。」
シエラはランスロットの言葉の意味を理解し、かなり赤面していたが、
「ったく、シエラは小さくても大きくても、バランドールの王子には好かれるんだな。」
「え、えとそんなつもりはないんだけど・・・」
「冗談だよ。それだけ、シエラがいい女ってことなんだからな!」
そういうと、シエラの頬にキスをした。
「!!!」
シエラはまさかそんなことをされるとは思ってもみなかったので。
「ば、ばか!こんなところで、何考えてるのよ!」
真っ赤になって抗議したのだが、
「そっか、なら違う場所ならいいんだな?」
アルバードはニヤリと笑った。
「あ、アルバード、なんだか急に積極的じゃない?」
「ん?そうか?」
アルバードは思い付くままにやっていたので、積極的とかそういう考えは全くなかった。
そして、そんなやり取りを、一同はまた生暖かく見守っていた。
「あれで両想いじゃないって不思議じゃありません?」
「不思議ですよね、イチャイチャしているようにしか見えないんですけどね。なんででしょう?」
ヴァイオレットとスカーレットも、あれで二人が両想いではなく、解呪できないということに、納得がいかなかった。
「やっぱり・・・」
イライザは二人の様子を遠巻きに見て、自身の中である仮説を立てていた。