83:アルバードの秘密(シエラ)
アルバードの『魔法は得意ではない』はそう言う意味だったのか、と以前に聞いたことをシエラは思い返していた。
「お姫様、大丈夫?」
「イライザさん!」
イライザがひょっこりと現れた。
「ごめんなさいね、遅くなって。あのクソ野郎がね、離宮の敷地にめんどくさい結界を張っていたのよ。それでその解除に手間取ってしまってたの。で、解除ができて乗り込んだとたん、お姫様泣いてるし、王子様も怪我してるじゃない?まぁ間に合ってよかったのだけどね♪」
「しかし、トリスタンってば、少し見ない間にさらに歪んでるっぽいわね~。」
イライザさんは、やれやれといった感じだった。
「お知り合いなんでしたよね?」
「まぁ一応そうなるのかしら?昔からやたら突っかかってきたのよ。面倒だったわ。まぁ住処をアルカディアに移してからは凸するのは止まっていたのだけどねぇ。ま、今回は間違いなく、アルトに半殺しにされるから、もうそんなことはないとないと思うけどね♪」
「アルバードは大丈夫でしょうか?」
Sランクとは聞いてはいるが、アルバードが戦っているところを見たことがないため、シエラは心配になった。
「んふふふっ、お姫様心配なのね?でも大丈夫よぉ。この私でもアルトとまともに戦ったら勝てる気はしないもん。」
「え?!そんなにですか?」
魔女のイライザさんの方が強いんじゃないかと思ってた!何となく勝手な憶測だったけど。
「私はね、分析とか解呪とか、まぁ研究寄りなんだけど、そっちの方面では大概なら負けない自信はあるけど、アルトは戦うことについては特化してるからね。まぁ見ててなさいな。」
そういうと、イライザさんはいつものウインクをしてきた。
「アルバード・・・」
シエラは、アルバードとトリスタンの戦いの場に目を向けた。
「フン!火の上級魔法を少し無効化したくらいで、調子に乗るなよ!」
「・・・・・」
トリスタンは、背中に嫌な汗が流れているのはわかっていた。今までも何度かAランクやSランクの冒険者とやり合ったことがあったが、こいつは、アルバードは何かが明かに異質だと感じとっていたからだ。
「いや、凄いと思うよ。俺には真似ができないからね。」
「な、何のことだ?!」
「俺はさ、さっきも言ったけど、戦闘に使うような魔法しかできなくてね。解呪とか呪いだとか、こんな離宮ごと敷地にでかい結界作ったりとかできないからな。」
「フン!当たり前だろう!俺は『魔人』だ!お前らただの人間などという下等な生物と一緒にするな!」
トリスタンは自身が『魔人』という種族であることに誇りを持っていたが、いわゆる選民意識があまりよろしくない方向に向いているようだった。
「あーなるほど。そういう思想なわけね。だけど悪いけどさ、俺も生粋の人間って訳じゃないからなぁ。どうなんだろうね?」
そういったアルバードの右目の瞳は、藍色から深紅に変わっていた。
え?アルバードってオッドアイ?
「あーあ、アルトめっちゃ怒ってるわねー」
「イライザさん、アルバードの目が・・・」
「あーアレね。本気で怒ったりするとああやって片目に現れちゃうのよ。」
というか、本気だからって普通目の色変わらないでしょ?!
「いえ、そういう意味ではなくて、瞳が赤くなってるから。」
「あれ?聞いてなかったのかな?」
私は何のことだかわからなくて、コクコクと頷いた。
イライザさんは、うーんと迷ってる感じだったのだけど、アルバードが何故かイライザさんを見て頷いたようで、
「あーえーと、許可がでたので話すわね。アルトはね、魔女の血が流れてるからよ。 」
「え?!」
「基本的に、魔女の子は魔女、つまり女しか生まれないのだけどね、アルトは唯一の例外なのよ。」
「えぇぇ!!」
アルバードにそんな出生の秘密があったなんて、本当に驚いてしまった。