81:傷ついたランスロット(シエラ)
トリスタンは、意地の悪い笑みを浮かべ、シエラに近づいていた。
「ふふ、娼婦ねぇ。なら私の情婦になっていただくというのも有りですねぇ。」
とんでもない事言ってきた!
「だ、誰があんたなんかに!」
てか、わかってていってるでしょ!この根性悪!
「ふふっ、冗談ですよぉ。まぁお美しいのは先ほど見た時から思っていましたが、私は生憎上辺など、どうでもいいのでね。それよりも、貴方の『祝福』の内容の方が気になりますから。今も元に戻っていることから、きっと『祝福』が、関係しているのでしょうし。いやぁ、シエラ王女貴方を調べるのが俄然楽しみになってきましたよぉ。」
トリスタンは本当に嬉々としていて、今まで外見の色彩など気にしたことはなかったのだけど、黒髪に赤い目がまるで悪魔のように私には映ってしまった。
「い・・・や、嫌よ!絶対あんたの思い通りになんかさせない!」
私は吠えた。だけど、実際のところはノープラン。唯一の頼りは___
「さぁ、我儘もこれまでです。帰りましょう。あまり言う事を聞かないようであれば・・・そうですねぇ。この寝転がっている王子様にお願いしましょうか?」
「!ランスロット王子に何かする気?!」
「ふふっ、貴方のような性格の方はご自分が痛めつけられるより、他人を痛めつける方が効果はありそうですからねぇ。」
トリスタンは、シエラが侍女を庇って自ら拉致されることを選んだことで、シエラは気は強いが、お人好しだということを理解していた。トリスタンは先ほどランスロット王子が落としてしまった剣を拾い上げ、振りかざした。
「やめ・・!!」
グサッ
「うぅっ!」
トリスタンは躊躇なく、ランスロットの右足の太ももに剣を刺した。
「何をするの!!!」
グサッグサッグサッグサッ
「ぐぅぁあああああああああ!!!」
何ヶ所もあちこちに刺され、ランスロット王子は痛さに悶えている!!
「やめてぇええええええ!!!お願い!こんなことやめてぇえ!!」
シエラは泣きながら懇願した。
「ふふ、可哀想なランスロット王子、言うことを聞かない我儘なお姫様のせいで、こんなことにねぇ。」
トリスタンが刺した箇所には動脈があったらしく、おびただしい量の血液がどくどくと流れ出ていた。
アルバード!アルバード!お願い早く助けて!このままじゃランスロット王子が死んじゃう!お願い!
「もう一度聞きます。シエラ王女私と一緒に来ますか?早くしないと、ランスロット王子は出血多量で帰らぬ人になりますよぉ?」
トリスタンはニヤニヤと、そう言い放った。
「だ・・・め・・・です。シエラ…王女行ってはなり・・ません。」
ランスロット王子は自身が大変なことになっているのに、息も絶え絶えにそれでもシエラを気遣っていた。
「お願い・・・ランスロット王子にこれ以上酷いことしないで・・・早く、早く手当を!」
「シエラ王女、何度も言わせるな。来るのか?来ないのか?」
トリスタンはドスの利いた話し方に変わった。
「貴方と、行きます・・・だから、だからランスロット王子に手当をしてあげて!!」
「ふふ、初めから素直にそう言えば、王子もこんな目に合わなかったに可哀想ですねぇ。」
シエラは悔しかった。涙が止まらず、こんな奴の言いなりになることが、堪らなく悔しかった。
トリスタンは、腰にぶら下げていた何らかの薬が入った小瓶を痛さで蹲っているランスロットの横に置いた。ランスロットはトリスタンを睨みつけていた。
「この薬を飲めば、出血は止まりますよ。あとは、気力次第っていうところでしょうが、まぁ王子なら大丈夫でしょう。さ、行きましょうか。」
そういうと、トリスタンはまたシエラに手を差し出した。
シエラは嫌々その手を取ろうと、自身の手を伸ばしかけたその時、
「がぁっああああああああっ!!!」
「え?」
悲鳴と共に、いきなり視界からトリスタンが消えた。
「てめぇ、なに人の女に触ろうとしてるんだよ。殺すぞ?」
そこには、怒りの形相の会いたかった人がいた。
やっと!




