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76:ランスロットの過去~中編~

 ランスロット10歳、ライルが6歳の頃だった。



 その頃のランスロットも相も変わらず、母ブリギッドから虐げられていた。離宮という、王宮から少し離れていたところにあったせいか、ブリギッドの所業は外部に漏れることはなかった。


 ・・・僕はどうあっても、魔力については母上の期待には応えられないだろう。何か他の方法で母上の期待に少しでも応えるものはないのだろうか?


 だが、ランスロットは少し思い違いをしていた。

 自分が王の血を引いてるのに、魔力が少ないから母の期待に応えられていないのだと思っていたが、実際のところはブリギッドが一番に願っていることは我が子が王太子に、自身が国母になることだったからである。


それがはっきりとわかるのは、もう少し後だった。



 ある日、王宮に行く用があった母に付いてきた僕は暇な時間、騎士団の鍛錬所を見学していた。

鍛錬所では屈強な騎士の面々が白熱した剣の打ち合いをしていた。


カンッ!カンッ!キンッ!


「剣・・・か。」


 そうだ!

 魔法は魔力だからどうにもならないけど、剣だったら努力次第でどうにかなるかもしれない!剣の道を極めて、国に貢献することができるかもしれない!


 僕は一筋の光明を見つけたような気になり、早速母上に剣の修行をしていいか打診をしたら、少し怪訝な表情はしたが、了承は得られた。


 それから、王立魔法学院に入学をした僕は、その傍ら剣の修行をしていた。当然というか残念ながら、魔法教科の実技の成績は僕はよくなかった。3年になって、騎士になるには、騎士科を選考しなければいけなかったのだが、僕はここで魔力が少ないことが、ここバランドールでは致命的だという現実を思い知らされた。


 騎士科でも最低の魔法基礎の実技はクリアしていないと、選考できないのだが、僕の場合やはり魔力が少なすぎて、クリアすることは敵わなかった。

 だが、練習していた甲斐があってか、剣術の腕前が突出していたこともあり、特例で騎士科に入ることはできたが、当然それを面白く思わない連中もいたのだ。


 だが、流石に母が側室といえど王子だった為、面と向かって言うものは誰もいなかったが、ある時聞いてしまった。自分が他の貴族からどのように思われてしまっているかを。 



 剣術の授業の為に、僕は着替えを一度はすませたのだが、忘れ物をしたために、もう一度更衣室に戻った時のことだ。入ろうとドアに手を掛けたが、王子という単語が聞こえてしまったので、ドアを開けるのを躊躇い、そのまま聞き入ってしまった。


 「あーあ王子様は、王子様ってだけでいいよなー」


 「あーそれわかる。あんな魔法の基礎もできない奴が騎士だって?有り得ないよな。」


 「なーバランドールで魔法が使えないって有り得ないだろ?」


 「だが、剣の腕前は本物だぜ?」


 「騎士だぞ!剣の腕だけできたらいいって訳じゃないだろ!」


 「そうだ!騎士は魔法と剣術の両方ができて初めて認められるんだ!そんな基礎的なこともわかってないのか!」


 「確かにそうだけど・・・」

 

 「何?お前はあの王子様の味方なの?はぁーん取り入ろうってやつ?第一王子だもんな?今からもうコネ作る感じ?やらしーよなぁ。」


 「僕は、そんなつもりじゃ!」


 「はん!口では何とでもいえるよな?」


 「おい、そろそろ行かないとまずいぜ?」


 「あぁ行こうぜー。」


 出てきた奴らと顔を合わせたら不味いと思った僕はとっさに身を隠した。

 ・・・・まさか、こんなことを陰で言われてるなど微塵も思っていなかった。言われてみれば、騎士団は魔法も剣術もこなすエキスパートだ。なのに、僕は魔法は・・・


 せっかく剣の道で光明を見出したと思ったのに!僕はここ数年頑張ってきたことが無駄になったのかと、悔しくて、情けなくて、泣きそうになっていた。   


 そんな僕の肩に後ろから誰かが手を載せた。


 !!


 「気にすんな、といったところで、無理だよなぁ?」


 それは、剣の授業で講師をしている、冒険者Aランクのイェルクだった。

 イェルクは冒険者らしく、鍛えられた屈強な大きな身体に、顔の頬には魔物でやられたのか、大きな爪痕があった。髪は茶色の短髪に目は青く、いかつい風貌ではあったが、彼の授業はさすがAランクというだけ剣術は凄かった。初めは平民の冒険者だからと見下していた貴族の生徒達も、イェルクの実力を目の当たりしてからは、そういった声はなくなった。



 「イェルク先生・・・」


 「まぁはっきり言うけど、魔法無しで騎士では厳しいとは思うぜ。さっきのあぁいう輩の巣窟だからな。」


 「はい・・・」


 「てか、王子様なんだろ?無理して、騎士にならなくてもいいんじゃねぇの?」


 「!ぼ、僕だってこれでも王子です!この国に、この国の為に何かしたいと思うことがあってもいいじゃないですか!」


イェルク先生は何も悪くないのに、僕はムキになって答えていた。


 「それを剣の道でやろうと?」


 「そうです!」


 「だが、さっきも言ったけど、ああいう奴らばっかだよ?やってけるの?まぁ流石に王子様相手に露骨にいじめるようなことはしないとは思うけどな。」


 「それは・・・」


 「な、別に剣の道は一つしかない訳じゃないだろ?」


 「え?」


 「まぁー例えばだけど、魔法でもな魔法省に入るだけが道じゃないだろ?自分の得意分野を活かしてな、自分で商売したりする奴もいるわけよ。病院系だったり、魔法のアイテム作ったり、生活魔法だったりしてさ。そういう意味で剣の道も騎士団だけじゃねーだろって話!」


 「あ・・・」


 そうか、言われるまで気付かなかった。僕は、剣の道=騎士って思い込んでいた。


 「まぁ剣の道となると、正直そんなに選択肢が多い訳ではないけどな。手っ取り早いなら俺みたいなギルドで冒険者になることもあるけどさ。まぁ探せば他にもあると思うぜ。だから、もう少し視野を広めてな。王子様の言う国の為に何かしたいって方法は他にもあると俺は思うけどな。ま、実力身に付けて、見返すってんのも有りだけどよ!」


 っそう言うと、イェルク先生はニカっと笑った。


 そう、これが僕の冒険者への最初の入り口だったのだ。


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