75:ランスロットの過去~前編~(アルバード)
「それに・・・俺は魔力も少ないですから、どのみち向いていないんですよ。だからこそ剣士をやっているんですがね。」
あーそれこそ、ここバランドールではキツイだろうな・・・
「失礼ですが、冒険者をしていることは、理解を得られているのですか?」
側室の子とはいえ、第一王子だしな。王族が冒険者など、俺も初めて聞いたし。って俺も高位貴族で、冒険者やってたから、人の事は言えないけどな!
「はい、当初はなかなか厳しい状況ではありましたが、ライルも父も今では理解は得られています。」
・・・なるほど、この言い方だとやはり母親のギュンター夫人はダメだったんだろうな。
ランスロットは、実は母ブリギッドとは折り合いが悪かった。
ブリギッドは野心家で、あの手この手を使い、王の第二夫人の地位を得たが・・・事はそう思うようにはいかなかったのである。
___23年前の離宮
「お生まれになりましたよ!元気な男の子です!!」
「はぁ、はぁ、や、やったわ!」
ブリギットは出産の疲労感は勿論あったが、それよりも歓喜していた。正妃よりも先に男子を出産することができたからだ。
このまま、正妃に王子が生まれなければ・・・私がいずれ国母に!!
実は王と正妃は結婚をしてから、5年以上経ってもいまだ子がいなかった。そこで、跡継ぎ問題から、側室の選出が行われ、ブリギッド・フル・ギュンター伯爵令嬢は、当時その座をもぎ取ったのだ。
※第二夫人以降は国母にならない限り、バランドール性は名乗れない。
そして、結婚後わずか半年で、妊娠が発覚し男児を設けることができたのだ。
ところが、それから4年後、正妃に男子が誕生したことにより、ブリギッドの思惑が大きく外れることになった。
「そ・・そんな・・・」
だが、まだ第一王子という事で、希望(王太子)は断ち切れていないとブリギッドは思っていたのだが、そこへ追い打ちのように、ランスロットの魔力が少ないということが、魔力検査で発覚したのだ。
バシッ!バシッ!バシッ!
「この・・・役立たずが!!!」
ブリギッドはまだ幼いランスロットにいわれのない暴力を、我が子に鞭を振るっていた。
「い、痛いよ!・・母様!痛いことしないで!」
「役立たず!!役立たず!役立たず!!」
ブリギッドは自分の思い描いていた未来に、段々かけ離れていく受け入れがたい現実に、ランスロットに暴力を振るうことで、うっぷんを晴らすようになっていた。
「お前に!魔力が!魔力が豊富であれば!このっ!!!お前のせいで!!私の思惑が台無しだよ!!」
バシッ!バシッ!バシッ!
「母様、お願い止めて!痛いよ!!」
完全に八つ当たりだった。正妃が男子を出産したことも、ランスロットの魔力が少ないことも相まって、ランスロットは母ブリギッドから暴力を受けるようになっていた。ランスロットは自分が原因で母が怒っているのはわかっていた。特に魔力が少ない事で不興を買っていることも、よく理解していた。
「母様、ごめんなさい!ごめんなさい!!」
「お前が!お前が魔力がないばかりに!!お前のせいだ!!」
ブリギットは、ランスロットと会えば、癇癪を起こすようになっていた。
正妃の子供、第二ライル王子の魔力がずば抜けていることもこの頃にはわかっていた為、ランスロットが王太子になることは、まず不可能な状態だったからだ。
・・・どうすれば、母様は僕を認めてくれるだろう・・・
ランスロットは理不尽な暴力を振るうそんな母親でも、まだこの頃は嫌いにはなれず、どうすれば母ブリギッドに認めてもらえるかを考えるようになっていた。
そんな時、出会ったのが剣術だった。