71:バランドール第一王子~前編~(シエラ)
「シエラ王女、ご挨拶が遅れてしまい、失礼しました。」
そういうと、ランスロット王子は恭しく礼をした。
えーー!ちょっと待って!ランベルクさんが第一王子?あ、そう言えば、第一王子はそんな名前だったわ!(すっかり忘れてたけど!)それにさっき第二夫人であるブリギッド様を母上って言ってたものね、ってことはそうなのね。あれ?でも・・・
「確か・・・第一王子は、遠征に赴いてると伺っていましたが?」
「そうですね、建前はそうしています。」
「建前??」
「俺が、冒険者なのは身内は知ってますよ。」
「えぇ!!」
「アルバード卿と似たようなものなのですが、俺も王族で有りながら冒険者をしてるんです。」
そういうランスロット王子、少しバツが悪そうだった。
「それは・・・驚きました。」
だって王族よ?初めて聞いたわ。
「俺・・・少しはシエラ王女の気持ちはわかるんです。」
「え?」
「俺は、王族ではあるんですがね、実は魔力は少ないんですよ。」
そういうランスロット王子は寂しそうな表情を浮かべた。
「ところが、弟のライルは魔力量がずば抜けて高いと来てますからね。否が応でも小さい頃から比べられて、うんざりしたものですよ。」
確かに、ここ魔力至上のバランドールなら、そうだろうとシエラは思った。自身でさえ、留学という短期間で、魔力無しだということが、わかったとたん扱いは掌返し。ランスロットは少しは魔力があったとはいえ、王族で魔力量がずば抜けた弟のライルとずっと比べられてきたのだろうと思うと、シエラは居た堪れない気持ちになった。
「・・・・」
「でもね、俺はその中から自分にできることを、剣の道を見出したのです。」
「あ、だから剣士なのね?」
ランスロット王子は、嬉しそうに頷いた。
「ですが近年は情勢も落ち着いていますからね、ここバランドールでは戦争もありませんから、正直なところ剣術を活かすところがない。と思ってたんですけど、でも身近にあったんですよ。俺の剣を活かせる場所が。」
「それが、ギルドなんですね。」
「そうです。ギルドはまさに国民の生活に密接していますからね。俺としてもこういう形で、国民の力になれることがわかり、ある意味一石二鳥だったんですよ。」
「でも、剣を扱う身近な仕事でしたら、騎士団の道もあったのでは?」
騎士団は一般の方からも実力のある人は、なることができるけれど、大抵は貴族からの志願者が多いと聞いているからだ。
「ありましたね。ですが・・・ここは貴族で編成されていますからね。わかるでしょ?」
「・・・あぁ、そうですよね。」
確かに、バランドール事情で魔力が少ないという事なら、魔力が高いと言われている貴族の中でやっていくには、きっと針のむしろになるのだろうと想像することは容易かった。
「ライルとはね、仲はいいほうなんですよ。あいつも立場が王族ではなかったら、きっと違う職業を選んでいたと思いますね。」
「え、そうなの?」
やだ、ため口でちゃった!私は思わず口を慌てて抑えたけど、
「はは、敬語は気にしなくていいですよ。気軽に話してください。俺もその方が気楽ですし。」
「そう言っていただけると・・・すみません。」
とはいえ、私より年上なのよね!気を付けなくっちゃ!
「ここだけの話し、俺もライルも権力というか、王の地位にさほど執着はないんです。」
「そうなんですか?」
王位に執着がないなんて、かなり意外だった!