58:ミランダの懺悔(アルバード)
「本当に、本当に申し訳ございません!!」
ミランダ嬢は、初めは気の強そうな印象であったのが嘘のように、今は本当に悔いているのか、ボロボロと涙を流していた。
やはり、思っていた通り、有力貴族だったな。ある意味わかりやすいが・・・シュナイダー公爵は重鎮だからな。王がショックを受けるのも無理はないだろう。
「父は・・・父は、シエラ王女が王太子妃になることがどうしても許せないようでした。私は、側室でも構いませんでした。ご存知の通り、ここバランドールは魔力が高い者が優遇されます。シエラ殿下には大変失礼なのですが、側室になった暁には魔力の高い自分が実権を握ればいいとさえ、その時までは私はそう思っていました。」
彼女は泣きながら、当時の事を語っていた。
「ところが、父は・・・そうではなかったのです。魔力のない王女がバランドールの国母となることに、ひどい抵抗があったのです。私が、ライル王子の婚約者として内定する少し前のことです。・・父と話をしようとしたのです。父はテラスにいると聞いて赴きました。」
_____あら?お父様以外誰もいないと思ったのに、何か話しているわ?だけど声が聞こえない。・・・防音魔法をかけているのね。
その時、本当にただの好奇心だけのつもりでした。防音魔法をかけるくらいなら、きっと何か凄いことなのだろうと。・・・私は、たまたま読唇術の心得がありましたので、面白がってソレを使い、父が何を言っているのか読み取ったのです。
・・・それは、聞いてはいけない内容でした。
「フハハハハハ!!やっと、あの魔力無しの王女と解消したか!これでミランダが国母になれる。そうとも我が公爵家のミランダこそが相応しい!いろいろとイレギュラーはあったが、目論見通りになって良かった!」
「本当に、閣下の努力が報われましたな。」
相手はフードを被っていたので。顔ははっきりとは見えませんでしたが、口元は見えていたので何となくですが、わかりました。
「本当にな。しかし、魔法省の連中はどうするかな。今は取り合えず、隷属魔法で縛っているが、いつやけくそになって秘密を洩らされても困るからな。いっそ始末するか。」
??!!
「閣下、今はまだ時期が早いかと、それにいっぺんに多数の死人が公にでたら、まずいですぞ。呪いの呪詛返しに使った奴隷共とは違い、それなりに身分のある役人ですからな。事は慎重にされたほうがよいかと。」
「それもそうだな・・・いかんな。わしはせっかちなものでな。」
え・・・お父様・・・何を言っているの?呪詛返しって・・・呪いじゃない!奴隷??それはもう禁止になってるはずじゃ・・・それにシエラ王女に呪いって?!王女は身体を壊したって聞いたけど・・・関係があるの??
私はこれ以上聞いていられなくて、その場を離れ、自室に戻りました。
・・・噓でしょ?!お父様が・・・あんな恐ろしい魔法を使って・・・なんてことを!こんなやり方で、王太子妃になんかなっても全く嬉しくないわ!私は、例え側室でも実権を握る自信はあったのに!まさか・・・こんな、誰か…誰か嘘だと言って!
「・・・私は自分の部屋で一晩中泣いておりました。たまたま聞いてしまった、シエラ王女と魔法省について、私はもう一体どうしたらいいのかわかりませんでした。勿論黙っていてはいけない事だとはわかってはいました。ですが・・・それでも父親でしたから、私にとっては大事な父親でしたから、言うことがなかなかできませんでした。それで途方に暮れてしまっていたら、態度に出ていたんでしょうね。それで・・・ライル王子から・・・」
そこから彼女は言い淀んでしまったが、ライル王子が先に話した続きに繋がるのだろう。
「シュナイダー公爵は我が国において、重要なポストにいる人物です。当然管理する領土も担っている管轄も多い。それにミランダ嬢の読唇術だけでは当然ながら、証拠も弱いですからね。そういったことを僕は調整と調査を同時進行に行っていました。」
できる王子とは聞いてはいたが、なるほど噂通りらしい。
「・・・ライル殿下ですね。ヤンを雇っていたのは。」
俺は前から思っていたことを確認の為に聞いてみた。
「さすがですね、ヤンギルド長も言ってましたよ。『アルバードにはバレているでしょう。』と。」
「ただ、解呪だけはどうにもならぬところへ、黒の魔女、イライザ殿が腰を上げてくれたと聞き、歓喜したのです。」
「あら?私?」
「そうです。貴方は滅多と人前には現れませんからね。依頼したくとも所在もわかりませんから、正直ほとほと困っていたのですよ。」
「そうね、私は誰のお願いでもほいほい聞くわけではないからね。面白いことが好きだから♪」
そういうと、ライザはニヤッと笑っていた。いや、怖いんだけど。
実はライザは冒険者になったのは割と近年の話しだったりする。それも俺が噛んでいる。まぁ、一緒に依頼に同行してくれってお願いしただけなんだが。
「そして、調査と解呪の為に、シエラ王女と同行してくださると、正にこちらとしては、渡りに船だったのです。」
「だけど、そこまでわかっていたなら、強行することも可能だったのでは?」
俺は疑問に思ったので聞いてみた。
「仰るとおりですが、証拠がまだ不足していたこと、やはり・・・シエラ王女についてはそのままにしておくなど、魔法王国バランドールとしての国の威信にも関わりますからね。できれば事件と解呪は同時進行で解決を望んでいたのです。」
シエラ王女の幼女が気に入ってたから、てっきりそのままでもいいかと思ってたけどなっ。ていうのは口には出さないでおこう。
「・・・まぁ僕個人としては戻らなくても、そのままの小さな彼女でも何の問題もないんですけどね。」
って、いい笑顔をシエラ嬢に向けていた。って自分で癖を暴露するんかーい!
シエラ嬢の方を見たら、顔がドン引きしていた。そしてさらによく見ると・・・
ミランダ嬢も泣きはらした顔ながら、『えぇ!?』って顔になってる。うん、今知ったんだね、自分の婚約者が〇リってことを・・・