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36:焼もち?(アルバード)

 夕方には、王宮に戻ってきた。シエラ王女は中身が18歳とはいえ、幼女をあんまり遅くまで連れまわすと、外聞もよくないしな。

 そして送ったあとは、俺は今日仕入れた素材を届けに魔法省に出向いていた。


 それにしても、今日のシエラ嬢はいろんな顔が見られたな。好奇心もいっぱいだし、海鮮やケーキも美味しそうに食べるし、それに・・・ちゃんと自分を客観的に彼女は見ることができている。うん、彼女となら結婚後も上手く付き合えると思う。だけど、それには絶対に呪いを解いてやらないとな!


 そんなことを考えながら、俺は魔法省の例のオルゴールのある部屋に行った。


 コンコン 


 「ライザ、持ってきたぞー」


 「アルト、入ってー」


 言われたとおりに部屋に入ると、奧の部屋のドアからライザは顔を覗かせて、 


 「あら、アルトおかえりー!デートはどうだった?」


 「あぁ、くっそ楽しかった!」


 「やだ、どストレートに惚気てくれるわね(笑) まぁでも楽しめたのなら良かったわ。」


 ライザも、なんだか本当に喜んでくれてるようだ。


 「まぁな!で、そっちの首尾はどうなんだよ?」


 「んふふーこのイライザさんよ?抜かりはないわよー」


 イライザは、こっちこっちと手招きをし、奧の部屋に誘導された。じゃーんと言うと、床に描いた魔法陣を見せてくれた。凝った魔法陣は複雑で、俺にはところどころしか意味がわからなかった。


 「相変わらず、訳わかんねー。」


 「期待してないから、別にいいわよ。」


 うわ、何気にバカにされてる!


 「あとはこの魔法陣に、調合した薬を散布すれば、あの胸糞悪い、隷属リンク魔法は解呪できるわよー」


 しかし、毎度のことながら、イライザはノリは軽いが伊達に魔女じゃない。すごく簡単そうに言ってるが、この複雑な魔法陣もだが、薬の調合も実は混ぜたらできあがりって代物ではなかったりする。調合にも用途に合わせた魔術が必要になるからね、なんで誰でも簡単にできる技ではないんだよな。


 「あーそれなんだけど、バジリスクは明日狩りにいくから、その他は今手元にある。一応確認してくれ。」


俺は持ってきた素材の入った鞄をテーブルに載せた。ライザは鞄を開けて、中身を確認している。


 「やっぱりカイルのところでもバジリスクの牙はなかったのねーまぁ仕方ないか。わかったわ。アルトは明日から行くのね。」


 今回の要と言っていい素材のバジリスクの牙だが、1体に付き2本しか取れないから中々市場に、出回ってるものではないんだよね。


 「あぁ、すぐに見つかればいいけどな、こればっかりはな。」


 そう、何せお目当ての魔獣バジリスクはB級だ。そこらへんですぐに見つかるようなモノではないんからな。だから明日はバランディアにある『冒険者ギルド』に行って、バジリスク情報を聞きだしてから狩りに行くつもりにしている。

 あ、そうだ、それと絶対に忘れちゃいけないやつ、お願いしとかないとな。


 「ライザはこちらの解呪作業は勿論なんだけどさ、あとできればシエラ嬢の傍にいてくれないか?俺の見解では多分そろそろ尻尾を出すと思ってるんだよね。」

 

 呪いを仕掛けた奴らは、俺とライザが来たことで間違いなく焦っていると思うからな。恐らく近々何かしら仕掛けてくるだろう。


 「そうね。私が解呪に動いてることは魔法省や王宮内で筒抜けだろうし、黒幕も当然把握しているでしょうしね。お姫様には怖がると思って言ってないんだけど、防御魔法は付与してあるわ。何かあれば感知できるからすぐ駆け付けられるし、心配ないわよ。」 

 

 今はライザが解呪に動いてることは実は公にはなっていない。何せ呪いの上に、隷属魔法だからね、こちらは禁呪ではないが、禁止になっている魔法だ。それが魔法省の中で行われているのだから、公にはできないのだ。勿論、バランディア王には報告済みだ!  


 「ライザが、抜かりがなくて助かる。」


 「まぁね!」


 ライザはいつもの調子でウインクをした。


 「あ、そうだ。こっちはライザにお土産。シエラ嬢が作業してるならクッキーとかの方がいいんじゃないかってさ。」


 俺はシエラ嬢から託されていたお土産のかごに入ったクッキーの詰め合わせを渡した。


 「まーさすが私の可愛いお姫様だわ!帰ったらお礼言わなきゃ!!」


 「なんで、『私の』だよ、おかしいだろ。」


 俺は何となく面白くなかった。


 「あら?焼もち?」


 「そんなんじゃねぇよ!」

 

 あれ?これと似たような気持ち・・・なんか割と直近でもあったな・・・いつだっけ??


 「って、ライザなにニヤニヤしてるんだよ?!」






 イライザは、色恋沙汰には鈍感な男ではあるアルバードが、焼もちとまでもいかなくても、それに近い感情が芽生えてきていることに、嬉しく思っていた。


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