悪魔に求婚された雑魚転移者3
3日で辿り着くはずの街の方角から黒い煙が出ていて、嫌な予感はしていた。
できるだけ高台からまりの様子を除くと、門は無惨に砕かれて、人が見当たらない。
「クロ、街が崩壊してるのだが」
「ああ、どうやらミール族との争いに敗れたのではないでしょうか。」
「ミール族?」
「人族を犬や馬にした様な種族ですよ。」
「それ、エセ人外じゃないだろうな。
で、そのミール族に私が見つかったらどうなる?」
「そうですね、四肢を縄で縛られて左右に裂かられるのでは?」
「それ何処の江戸時代の処刑方だ!此処はまだ風下に当たるな。
どう逃げれば良い?」
「そうですね、このまま山の中を歩いて5日後の街に向かえばいいのでは?」
「食料が心許ないけど、仕方ない。そうしよう。」
リリィはすぐその場所を離れた。
「深淵覗く者はさらにその深淵に覗かれている事を覚えておけ。ホラーゲーのよくあるセリフにある。此処を離れた方がいい。」
既にひ弱な体力は削られに削られている。不安で叫び散らしそうだろう。
華奢な背中の足取りは重い。
「もう諦めたらどうですか。」
「うっせーわ!どうにかしてみせる。私はこんな事で諦めれないんだよ。」
目を閉じればあの暗い牢獄が思い出される。
「私は立ち止まったら死ぬんだよ。」
その夜は震えるほど寒かった。
突然の豪雨だった。
影を出来るだけ引き伸ばし、簡易テントを作ったが、傘くらいの大きさにしかならない。雨は横なぶりで、リリィの体を濡らす。
震えながら、小枝を睨んでいた。
「そんな事をしても貴方に才能はありませんよ。」
「うっせー。こっちは寒いんだ!」
指先が白い。すでに感覚がなくなっている気がする。
3時間ほど睨みつけて、泣きそうになった頃、パチっと火花が飛んだ。リリィは小さく息を吹き込む。キャンプで火起こしを体験した時を必死に思い出して、大きくなる様に必死になった。
「はぁ。ついた。」
「火をつけるだけで随分重労働ですね。」
「火は文明そのものなんだよ。あったかいー。クロもあたりなよ。」
「僕は寒くない。」
「見てるこっちが寒い。」
顔面偏差値が高い白い顔に黒い髪が張り付いている。
クロは、リリィのすぐそばに座る。
「ほら、こんな冷えてるじゃないか。」
リリィはクロの手を取る。
「そうなんで、他人を気遣えるんですか。貴方は殺されかけたんでしょう。」
「はぁ?何言ってんの。クロは人間じゃない。
クロが人間だったから怖かったかもしれない。
そりゃ人外好きに喧嘩売るような見た目してるけど、人間じゃないなら、それでいいよ。
それに、悪魔には契約が絶対なら、好意でクロは私にひどい事出来ないんだから。」
悴んだ手を擦り付ける。
雨は一晩降り続いた。
幸運にも風邪は引かなかった。
雑魚転生者でも、どうやら体は些か丈夫にできているのではないだろうか。
「見てみて!クロ!
昨日あんなに影を使ったから二倍に伸びるようになったよ!
遠くから枝を拾えるよ!」
「何も進歩がないように見えますけど。」
「バカめ!!これが広くなったのなら!カッパや傘の形を作れるのだ!!見よ!!」
傘形を影が正確にリリィの手を収まる。
「影のコントロールは大変イメージが重要になります。複雑な形ほど、大変な修練が必要です。」
「なるほど!私には才能があったんだな。」
「ええ、才能があった様です。
病的な妄想癖があったんですね。」
「貶すか、褒めるかはっきりせーや!!この悪魔!!」
「はい、悪魔です。」
「うおお!!この推し美声が無ければ泣かしてやるのにぃいい、このエセ人外!!」
「いえ、僕は悪魔ですけど。
大丈夫ですか?」
「大丈夫だ!!ばかーー!!ばーか!」
傘を振り回して、傘が薪に当たってしまい、火が散る。
「あち!!ん?熱くないぞ??」
リリィは影で作成した傘で薪をつく。火も熱くない。
鋭い枝で傘の布部分を刺してみるが一向にやぶれる気配がない。
「お?、お?」
集中して、フライパンとフライ返しのイメージをする。
手には影のフライパンとフライ返しができていた。
「チートじゃん!!」
「何処が?」
「何処がじゃない!!調理器具一式が形取れる!」
「調理器具の形を使ってどうするんです?
特に何もできないでしょ。」
「包丁もできるぞ!」
「しかし、それを投げることも多く作ることもできないでしょう。
その武器を振るうのは、ひ弱な貴方の筋力ですよ。」
「バナナ!!」
「ばなぁぁ?」
「うっせーわい!!
洗わなくていい食器や調理器具を持てるのは、現代社会では、チート能力なんですーー!!見てろよ!
クロをあーー!って言わせてやるからな。」
「あー」
「今言うな!!」
リリィは色々な物を歩きながら、形を取らせていった。
3日目にして、影の総面積量が増えている。
最初が、大きな布巾きらいな面積が、現在は二人くらいが座れるレジャーシートになった。クロには鼻で笑われたが、リリィにとっては大きな差だ。
さらに、紐や布様なぺらい二次元の形だけではなく、三次元の形を取れる。例で例えると傘にも、雨ガッパにもなる大きさになった。
「傘も自分で考えるだけで開け閉じ可能!これは特許が取れる!
ってか、こんなに魔力つかってるのに、魔力って消費しないのね。」
「魔力消費はないですよ。飛ばしたり切り離したりして、戦う物なので手元で動かすのは魔法の意味がないでしょう。影魔法は耐久力があまりないので、飛び道具にしないと、利便性が皆無です。」
「なるほど、これを切り離したら、魔力が空間に拡散するから消費するって事ね。じゃ、手元で動かすのは、自分の中で循環してるだけなんだ。」
「そういう事です。」
「え?やっぱチートやん。」
リリィは歩きながら訓練をした。2時間かけて、練習を行い作ることができた。
「いえーーーい!電動キックボード!
いや、電気じゃないから、魔力キックボードかな。」
「それは....なんですか。」
「まぁ、私の世界の移動手段みたいなものかな。バイクとか作りたかったけど、表面積足りなかったからさ。」
片足を置き、タイヤが回転するイメージをすると、面白いくらいに進む。少し大きめにタイヤを作っているので、不恰好に見える。代わりにタイヤが大きいおかげで、山道の乱れた道も安定して進むことができる。
「ロバの様ですよ。」
「歩くより、疲れないから良いよ。
もっと安定した道なら、スピードをだせるけどさ。」
時速7キロくらいなので、競歩の様な速さだ。それでもリリィの駆け足ほどの速さなので、移動が可能になった。