悪魔に求婚された雑魚転移者2
「阿呆ですか。」
クロが情けなそうにこちらを見てくる。施設にいた馬を全員逃したからだ。
「私は馬に乗れない。乗れないなら、私が馬に乗って逃げたと思わせた方が良いんだ。」
施設にある一般人の服と、金と食料、子供向けの幾らかの本をクロに選ばせて、施設を徒歩で出た。
そして、馬が歩くには険しい山道を歩いて、人間の大きな街に向かっている。
「普通逃亡者なら、森に逃げ込むけど、お膝元にまさか隠れているとは思わないだろう。さらに普通は言葉が通じない。言葉が通じない長い髪の女を探している。
今はどこから見ても貧相な髪の短い少年だ。」
「そうですけど。」
「クロがこの戸籍がない出稼ぎの身分証明書の木札を手に入れてくれたおかげで、身分も証明できる。」
「奴隷よりマシな、街に滞在する日数で金も取られる者のですけどね。田舎の農夫が作物や税金を納める用の物ですよ。貴族のを持てばよかったでしょう。」
「貴族だと顔がしれているし、家紋みたいのもあったから、なんの知識もない私が使ったら、バレるじゃん。
なに?クロは私に捕まって欲しいの。」
「そうですね。捕まれば、僕と正式に契約をするしかなくなるでしょう。
早まる事はとても好ましいですね。」
「へーほう。で、クロって人間じゃないんだよね。」
「悪魔でございます。まぁ、悪魔でも色々いますから、人間の貴方にわかりやすく言うと、鳥みたいな大枠という説明になりますが。」
「じゃぁ、結構種類があるんだ。クロはどうゆう悪魔なの?」
「それは契約して頂かないとなんとも言えませんね。」
「ケチ。」
「今すぐ契約してくださるなら、僕、話してしまいますよ。」
「結構です!」
「ふむ。まぁ、人間が言う上位悪魔に位置付けするくらいは言っておきましょう。契約して損はないですよ。婚姻するにも、最良物件です。」
「そんなか弱いクソな人間になんでこだわるかなぁ。」
「では、貴方が一週間だけ他人のために働いて、一生食うに困らない、誰にも負けない強さをえる事ができるとしたら、その仕事を受けますか。」
「内容によるけど、すごい話だと思う。」
「僕にとって貴方がそうなんですよ。我々の寿命は人間とはるかに異なる。それくらいの価値観だと思っていただければと思います。
通常であれば、魔力を外から摂取しないと、悪魔は餓死するんです。
しかし、貴方といれば、食事も必要出ないほど、魔力が満たされる上に、自らの強化につながるということです。」
「と、言うと。私といると食がタダになるのか。いいなぁ。
さらに追加と契約すると、クロはめっちゃ強くなれたりするって事?嘘ーうまい話すぎる。
それって、私って結構珍しいの?」
「長い間生きてきましたが、貴方しか見た事はありませんよ。文献のみしか知らなかったくらいです。まさに天然記念物。」
クロと会話するだけで、リリィの心は平穏に保たれた。
クロは悪魔だからか、顔面も声も良いのだ。顔はリリィの好みではなかったが。
「クロは声だけは良いな。」
そうリリィが心ない事を言うと、信じられないという顔でクロが見てきた。今まで人を小馬鹿にした態度だったのに、豆鉄砲を食らった悪魔が地面に落とされた様だ。
「さて、此処から貴方のペースで歩いたとしても3日はかかります。食料も節約すれば、足りるでしょう。」
「うん。」
「貴方は何が他に知りたいんですか。」
「そうだなぁ。覚えることが多すぎるから、人間の6才児くらいの常識と、なんか私でも食い扶持を見つけられる仕事って考えられる?」
「転移者なのですから、他の人間より戦闘力があるのではないでしょうか。」
「ほうほう!きました!
異世界転移の鉄板!魔法や能力で無双!」
はい。忘れてました。
リリィは素材にされるほど、レア度が高くなかったのです。ただの消費在庫ちゃんでした。
戦力外通告を受け、ミンチになるところだったのを忘れていたのだ。ばーか。
クロが言うには才能がない。諦めろと言われた。
それはおそらくクロが上位魔族ですごく強いからだとリリィは論した。
結局、象から見て、アリの大小など分からないのだ。アリからアリを見たら違うかもしれないから、教えて欲しいと願った。
そして、教える対価に血をいくらか絞られた。まぁ、クロが血を採取した傷は直してくれたので、リリィは気にしないことにした。
「得意な属性系統はこれで分かるはずです。」
「おお!」
歓喜の声をあげて、クロの魔法を見る。
生まれて初めて、自分に攻撃として向けられる以外の魔法を初めて見た。
青く光り綺麗だった。
「影、次に闇ですかね。流石です。」
「なにがー!!!」
盗んできた魔法書にはその属性は使い物にならないから、魔法の道は諦めろと書かれていた。
なのにクロの顔は誇らしげである。なるほど、諦めて契約をさせるのが魂胆だとリリィはクロを睨みつける。
「影属性なら、多少使えるので教えれるでしょう。」
「え?この本に使えないって書いてるよ。」
エセ協会から持ってきた本を指して、リリィは疑いの眼差しを向ける。
「人間の使い手が少ないからでしょうね。」
「なーる」
常識というのは分からない物だ。
リリィは自分に都合が良い方を信じる事にした。
「影を伸ばしたり、飛ばしたりできる属性ですね。」
「使えなさそう」
クロの影が大きな木の姿に変わる。見た後に真似できるか自分の影を睨んでみた。
影属性は本当に影を動かすことができた。
でも続けていくと、アクションゲームをし過ぎた時のように頭と目が疲れる。
実態もある様で、重い物は運べないが、枝を掴むことが出来た。薪の為の枝集めに重宝した。
「使うほど、上手くなるので、幼児期の間はずっと使わせるのですよ。まぁ生まれたばかりの魔族の方が、もっと上手いですけどね。」
なるほど、リリィは魔族でいう赤ちゃん以下らしい。
ずっと動かすのが良いと言われたので、歩きながら枝を集め続ける。
夕方になるころには抱えれる位の枝が集まった。
「次に闇ですね。こうです。」
「ん?」
地面に暗い穴がある。しかし触っても何もない。黒塗りした地面にしか見えない。
「見ても怖くないんですか。」
「え?何が?
この騙し絵みたいのが、怖いの?」
「暗闇を見た人間は恐怖のあまり泡を吹き、痙攣し自我を無くします。」
「何見せてんの!?」
クロ曰く、契約者を行為で傷つける事は出来ないがお願いされた場合はその定かではないらしい。どうやら、リリィをデクの棒にしようと企んだ様だ。
「闇耐性は一級品の様ですね。」
「それ、人間の世界で生きて使うことある?」
「おそらくないかと。」
「ほらー!!」
リリィは泣いた。
影の動かすの1日でずいぶん上達した。
なんと伸ばせる影の本数が二本になった。枝を運ぶ効率があがった。
「って!使えるか!」
逃亡を計り2日目の昼であった。
この世界には魔物もやはり存在するらしく。襲われていないのが奇跡だとクロが言っていた。
「枝しか運べない技術でどう戦うんですか。早く契約しましょう?」
悪魔のささやきが聞こえるが、耳をふさぐ。
「いいや!何かあるはずだ!」
リリィは腕を組み唸った。
そうして、クロから聞いた話を思い出す。
影はちぎれたりしても肉体的にも魔力的にも傷を負うことはない。
「ああ!」
リリィは何か思いついた様に、影を木の枝に結ぶ様に動かし、それを引っ張ってみる。
影に力はないが、耐久力やしなやかさがあする。
「なにしてるんですか。一人綱引きですか。
寂しい人ですね。」
「うっせーわ!」
リリィがどれだけうんばっても影はちぎれる事はなかった。
「これ、着込んだら防弾チョッキになるじゃん。」
面積がすくなく、体全体もいかず、上半身のみくらいしか包めなかった。
「うん。」
魔物に襲われた時の防御になる。
少し嬉しくなった。
「それで何になるんですか。」
「クロ、一歩は確かに一歩なんだ。人類の大きな一歩である!」
クロが何してんだという顔で見てきた。
良いんだ。威勢でも貼らないと泣いてしまいそうだから。
闇属性も使用しようとしたけど、影を動かしてしまう。差がわからない。
とりあえず、得意な事を伸ばそうと思う。
「他にも火や水など、ファンタジー主人公らしい属性にも適応がありますが
おそらくそこまで適正を感じられないので、努力するだけ無駄でしょう。」
「いいや!やるぞ!攻撃出来なくたっていい!
こんな小さな火でも便利になるんだから教えて。」
何の役に立つんだという顔でクロは諦めた様に教えてきた。
結局蝋燭の様な火も出す事は叶わなかった。
リリィはまた泣きそうになるが、魔力はあるそうなので、それを感じられる様に考えた。
1日頑張って動いたのは影のみで、他の成果は得られなかった。
これは、2日目の日記である。
私、リリィはごく普通のモブであった。
家に帰りたいとか、なんだか色々叫び散らすのが普通のはずだが、色々起きすぎてそんな感情は抹消してしまった気がする。
明日、街に着く。魔法とか亜人とかが溢れたファンタジーな世界だろうか?
少し期待している。誰でも一度くらい夢をみるものだろう。
たぶんね。