25 作戦会議とヴァルハラ騎士団
ヴァルハラ第二階層の地底湖エリア。
まだ湖面に氷こそ張られていないけど、この寒さなら時間の問題だ。
夏場は涼しくて散歩するには打ってつけの場所でも、雪が降る季節にもなれば通りがかるのは巡回中の警備隊か、冬でも雪を融かしながら歩くほど元気なホットドッグたちくらいだと思う。
そんな地底湖の畔に、さっきまで存在しなかった建造物があった。
外観は円形の白い高台で、石階段を上るとテーブルとイスが用意されている。その周囲には湾曲した柱が幾本も立てられているけど、天井はないので見上げれば青空が一面に広がっていた。
湖畔というロケーションもあって、絵画のような雰囲気が出ているね。
この建造物の正体は……そう、ボクが作った会議場だよ。
これだけだと風が吹き抜けたら寒いし会議どころじゃないので、丸ごと包み込むように透明なドームで覆って、内側を暖房で暖められるようにした。
観葉植物なんかで飾り付けしたら大きな温室みたいだ。夏は暑そう。
夏のことは夏に考えるとして、今は作戦会議だ。
集まったのはヴァルハラの主要なメンバーと、ギルドからはゲオルクを始めとした各支部長、警備隊の代表としてヴィオラさんに、領主代行のイリスちゃん。
そして相談役である白鯨族のアレクシスさんは……湖の岸から大きな上半身? 前半身? を乗り出して会議場へ顔を向けている。
本来の姿に戻ったアレクシスさんは、種族名の通りで白いクジラだ。
特徴的なのは細長いヒゲが生えていることと、大きな体の左右に描かれた赤い炎のような文様で、どこか厳かな印象を放っている。
ちなみに温室ドーム越しでも会話できるんだけど、これは声じゃなくてワンダ君みたいなテレパシーを使っているからのようだ。
当然のように、こちらの言葉も通じている。魔術ってすごい。
最初は大きなクジラの登場にゲオルクたちも驚いていたけど、少し言葉を交わしただけで慣れたのか、あっという間に気にしなくなった。
これはゲオルクだけじゃなくて他の支部長も同じだったから、やっぱり話が通じるなら相手が魔族であっても仲良くできるんだと、ボクは改めて実感したよ。
そうして和やかな雰囲気のまま作戦会議は始まり――――。
――――あっという間に終わった。
たぶん三十分くらいかな?
意外と早かったのは、とてもスムーズに話が進んだからだね。
というのもアルヴィトの考えた作戦は満場一致で賛成されてたし、アレクシスさんの知識も借りれば、もう悩むヒマもないくらいだった。
ゲオルクたちからの疑問にも淀みなく答えていたし、たまにイリスちゃんも鋭い質問をして大人に負けない存在感を出していたよ。さすがだね。
一方、ボクは膝にヌマネコちゃんを乗せていただけだった。
……だって口を挟む隙がなかったんだもん。
そもそもボクとしての方針はアルヴィトに伝えてあるから、会議においてボクの仕事はなかったんだよ。
それでもヴァルハラの主として参加しないのは威厳に関わるので、悪の総帥みたいにヌマネコちゃんを撫でているくらいしかなかったのだ。やることが。
それで上手く回っているならいいのかな?
会議の内容はちゃんと聞いていたから理解しているよ。
少しだけ眠かったけど、このヴァルハラを守るための会議なんだから、居眠りなんてしていられないよね。
細かい部分や、他の人に割り当てられた仕事までは覚えていないけど、全体の指揮はアルヴィトが執ってくれるのでボクはボクの仕事をするだけでいい状態だ。
本当にアルヴィトがいてくれて良かったと思う。
そしてボクの仕事を簡単に言えば、偵察と戦闘ができる魔族かモンスターを用意することだ。
まず今回の作戦はヴァルハラに攻めて来る敵モンスターに合わせて、その位置と周囲の地形を調査する『偵察部隊』と、待ち伏せて迎撃する『戦闘部隊』という二つの部隊が基本となる。
これはボクの『ヴァルハラを荒らされたくない』という方針に沿った結果だ。
そのせいで本来なら支援を受けながらの防衛となるはずが、ほぼ対等な条件となる野戦……つまりヴァルハラの外での戦いとなってしまうけれど、撤回するつもりはないよ。
ヴァルハラで戦うのは、最後の手段だからね。
そうならないための作戦会議だし、ヴァルハラを守るのに必要な物だったらなんでも作るつもりだ。
いっぱい溜め込んだエネルギーも、ここが使いどころだろう。
肝心の『偵察部隊』と『戦闘部隊』のメンバーだけど……。
すでにヴァルハラには多くの魔族とモンスターがいる。でも、その大半は戦えないワンダ君の仲間だし、百一匹も存在するホットドッグはヴァルハラの警備用なので、ダンジョン外での活動を考慮していない。
冒険者も訓練を積んでいるとはいえ無理はさせられないので、ここはヴァルハラの防衛戦力と割り切って、この状況に適した新たな人材を確保するわけだね。
どんな魔族を雇うか、あるいはモンスターを作るかで作戦が成功するかどうかが決まるので、とても責任重大だ。
ちなみに移動手段についてはアレクシスさんがリゼちゃんに指名して仕事を頼んでいたけど、魔術に関係する話だとかで詳しくはわからなかった。
なんか、あの銀の魔動車に関係するような話だったのは理解できたけれど……改造するのかな? 今度は金色になったり?
すごく気になるけど……今は自分の仕事が先だね。
みんなが一丸となってヴァルハラを守ろうとしてくれているんだから、ボクも気合を入れ直してがんばろう。
「とっとと起きやがれです」
「ほぎゃっ……! な、なんじゃなんじゃ!?」
「もうとっくに終わってるです」
ぼふっという音に振り返れば、居眠りしていたらしいクーちゃんが、すずちゃんに尻尾で叩かれていた。
ボクもうっかり寝なくてよかった。
でも、すずちゃんの尻尾で叩かれてみたい気もする。悩ましい。
「ちゃんと聞いていたのです?」
「ももも、もちろんじゃ! この耳でしっかり聞いておったのじゃ!」
「どうせ頭を通り抜けて脳に残っていないのです。空っぽなのです」
「なんじゃとー!」
「だいたい会議で居眠りするなです。参加させてくれたアルマ様に申し訳ないと思わないのかです。黙ってないでなんとか言ってみやがれです」
「う、うぐぅ……」
ま、まあクーちゃんは特に割り振られた仕事もなかったし……その時のアルヴィトの視線は少し冷たかったけれども。
クーちゃんのことは任せて、ボクは自分の仕事しようかな。うん。
モンスター作成室に移動したボクは、まず偵察部隊から作ることにする。
というのも以前から考えていた案があるんだよね。
それは鳥のモンスターに空から偵察して貰う方法だ。
普通のモンスターは魂がないから細かい命令を記憶できない。だからこそ指揮官となる魔族が必要で、それはボクはワンダ君を雇った理由でもある。
以前だったら今回も魔族を雇っていたかも知れない。
でも今は違った。
すずちゃんによると、ボクが作り出したモンスターは魂が宿り、自分の意思を持つようになると判明したからだ。
原因は不明だけど、これなら鳥のモンスターに偵察させることができる。
すでにザクロや、シラタマでも試したから間違いないよ。
あとは、どんな鳥にするかだけど……これは難しい問題だ。
黒いカラスに白いシマエナガと来て、次は他の鳥にするか……それとも数を用意しないといけないから、いっそカラスで統一したほうが見栄えがいいかな?
ザクロの部下みたいな感じにすると面白いかも。
でも、やっぱりどうせならハトとかフクロウも作りたいし、カラスとは別に作ってみるのもありかな。
今回はエネルギーに糸目を付けないと決めている。
多ければ多いほどいいので、この際だからじゃんじゃんやっちゃおう!
とりあえずザクロと同じレッドアイを百羽くらいで、ライトニングフェザーっていうハトに似たモンスターも百羽くらい。
あとはサイレントアサシンというモンスターが完全にフクロウだったので、これも百羽だ。
あまりフクロウの種類は覚えてないけど、大きいのや小さいの、白いのや梨の断面みたいな顔のフクロウをイメージして作り出す。
ふと気付けば、モンスター作成室が鳥だらけになってしまった。
みんなボクの指示に従ってくれるから、好き勝手に飛び回ったりはしないけれども、ちょっと足の踏み場がなくなりつつある。
これで一斉に飛び立ったらちょっとしたホラーだ。
ここで一度中断して、モンスター用の宿舎がある第五階層に連れて行く。
当たり前というか、何百羽という数が収まるにはまったく場所が足りなかったので、新たに数十メートルの巨大な鳥かごを用意したよ。
内側は草木を自然そのままな感じで生やしたから、ほぼ放し飼いに近い環境になった。本当に放し飼いでも逃げたりしないけどね。
ついでにザクロを鳥系モンスターのボスに任命しておく。
今後はザクロに指示を出せば、みんなザクロに従って動いてくれるはずだ。
再びモンスター作成室に戻る。
続けて次は戦闘用のモンスターだけど、アレクシスさんからは敵は機動力があって数が多い可能性が高いと言われた。
だから例えば騎士団のように数が揃っていて、上手く連携が取れる戦力があるといいらしい。
というわけでヴァルハラ騎士団を設立しようと思う。
名前もカッコいいからね。
そうなると人型モンスターがいいかな?
作れるモンスターの一覧を頭の中で検索してみたけど、候補はゴブリンとかオーガとかトロールとか、あまり見た目がよくないタイプが多かった。
なんか騎士団っていうより魔王軍って感じがする。
ちょっと人型の範囲を広げると、鎧系のモンスターが引っかかる。
中身は空っぽで、灰色の甲冑だけのモンスターだ。
これはカッコいいけれど、屋内での戦闘を想定しているからか、あまり動きは速くない。
むしろ遅い。どちらかと言えば敵を待ち伏せして、不意打ちで攻撃するミミックのようなモンスターだから、戦闘も得意とは言い難いみたいだ。
でもカッコいいなぁ……。
見た目は鎧にして、中身を別のモンスターに変えてみるのはどうだろう。
でも人型モンスターはさっきの魔王軍しか見つからないし……もっと別のなにかを詰め込んでみるとか?
「あ、このモンスターならちょうどいいかも!」
思い付きだったけど、鎧と相性も良さそうな種類のモンスターを発見した。
これなら戦力としても不足はないよね。
それと最後に二つの部隊とは別に、アルヴィトから細かく指定されたモンスターを作成する。仕様書まで用意されているほど念の入れようだ。
実のところ、このモンスターこそ主役だからね。
注ぎ込むエネルギーも五百万と、一体に対する消費量はアルヴィトに次ぐほどの量となった。
特別製だから色々と盛っちゃったんだけど、このくらい構わないよね。
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