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24 白鯨族

 ナンデモニウムの集会で色々な情報を手に入れたボクは、一緒に『戦争』なんて厄介な問題まで抱えてヴァルハラへと戻った。

 幽体離脱していた感覚もなく自分の部屋で目を覚ますと、どこからかエネルギーのラインを繋げようとする意思が感覚的にビビッと来る。

 間違いなくサメ怪人だ。


 本当にブラッドさんの言っていた通り、帰ってすぐだったね。

 これを拒否すると、あの宴会していた集団がまとめて敵対するという、とんでもなく面倒な事態になりかねないらしいので、イヤだけど素直に受け入れる。

 するとボクにも相手のダンジョンの位置が把握できるようになった。


 この感じだと、そんなに遠くなさそうかな。

 もし片道だけで一か月とかの距離があったら、ゆっくり準備する余裕ができたんだけど、例の襲撃された村の近くにダンジョンがあるはずだから、それは最初から期待していない。

 こっちも早く準備に取りかかればいいだけの話だよ。


 まず先に『戦争』が始まったことを、みんなにお知らせしておく。

 これから攻撃されるんだから、最初に報せておくべきだ。

 もちろん被害が出ないように頑張るつもりだけど、絶対と言い切れるほど自信はないからね。


 いっそ巻き込まれる前に、希望者は街へ避難させたほうがいいのかも?

 特にイリスちゃんは領主さんの娘だ。もしケガでもさせたら、信用して送り出してくれている領主さんに顔向けできない。

 その辺の提案も含めて、懐中時計(スマホ)で連絡を取ってみよう。


『わたしは絶対にここから離れません!』


 ……と思っていたんだけど、イリスちゃんに強く拒否されてしまった。


『アルマさま、わたしは代官として正式にヴァルハラとの橋渡しを任されているんです。ちょっと危険になったからと逃げだすようでは務まりません。まだまだ未熟で微力とは思いますが、わたしにも一緒に戦わせてください!』


 懐中時計(スマホ)の通話越しでも、領主さんの代理という責任の重さと、大人顔負けの覚悟を感じさせられた。

 むしろ、ボクこそ覚悟が足りなかったのかも知れない。

 一緒に戦うと言ってくれたのも嬉しかったので、ボクはイリスちゃんに感謝してから、後で作戦会議を開くので集まるように伝える。


 そして次に連絡したゲオルクにも、村人を避難させるべきか相談すると……。


『たぶん街よりヴァルハラのほうが安全だ』

「そうなんですか?」

『まず戦える者が集まっている。防護壁はお嬢ちゃんがいくらでも作れる。そしてケガをしようともポーションを使い放題だ。大抵のモンスターが押し寄せても難なく撃退できるぞ』


 戦える者というのは冒険者のことだと思うけど、そこにヴァルハラのモンスターたちも加われば……たしかに、かなりの戦力になりそうだ。


『いざとなれば籠城もできるのが最大の利点だな。なにせ食い物も飲み物も尽きないんだ。攻城兵器なんざ通用しないとなれば、これほど攻略が難しい要塞もないだろうな』


 なるほどー。言われれば言われるほど安全に思える。

 ボクはそもそも、敵のモンスターに侵入されて荒らされるのはイヤだから、ヴァルハラの外で迎え撃とうと考えていた。

 それが失敗したら大変だから避難させるべきか悩んでいたんだけど、もう迷うのはやめよう。


 絶対にヴァルハラには立ち入らせないようにする!

 本来のダンジョンらしく……いや、それ以上に侵入者は撃退だ!


 どうやって……というのは、ちょっとボクの頭では見当も付かないけれど、それはダンジョン同士の『戦争』に詳しい経験者に聞く予定だよ。

 ここはブラッドさんの助言を信じよう。


 それから他にも懐中時計(スマホ)を渡してある人たちに連絡してから、ボクは第十階層の中央塔、最下層にあるモンスター作成室へ移動する。

 さっき帰ったばかりだけど、次はナンデモニウムだ。






『最も長く生きている白鯨族(モカディック)ですか?』

「長生きであればあるほど良いみたいなので」

『それでしたら、一族でも特に生きている年数が長い者がおりますが……』


 白鯨族(モカディック)についてナンデモニウムに問い合わせると、ちょうど条件が合って雇える者がいるという。

 だけど、なんだか歯切れが悪そうな言い方だ。


『こちらの者は一日につき百万エネと、あまりに破格の条件を提示しておりますので、おすすめできません』

「ひゃ、百万もですか……」


 たった一日でヌマネコちゃん百匹分のエネルギーを支払うとなると、たしかに破格だけど……それだけ見返りは大きいとも取れるよね。

 幸いにも貯蓄しているエネルギーは一億五千万もあるから、ちょっとやそっとでは枯渇しないはずだ。

 現在の一日に回収できるエネルギーも百万ちょっとだから、収支はぎりぎりでプラスになる。

 それにずっと雇い続けるんじゃなくて『戦争』の間だけの雇用だったら、早ければ十日も経たないで済むはず。

 もし一か月くらい長引いたとしても余裕はあるから……大丈夫だよね?


「じゃあ、その方でお願いします」

『よ、よろしいのですか?』

「よろしいです」


 一応、こっちの都合で契約を切れるのか確認したら、それは問題なかった。気に入らなければ雇った日に即解雇できるし、そういう主も結構いるという。

 ただ例え一秒でも雇ったことに変わりはないから、一日分の報酬を支払う義務が生じると注意された。

 そこまで苦しくはないので、ボクは軽く返事をしておく。


『加えてもう一点、広く深い水場が必要になりますが、そちらでご用意は可能でしょうか?』

「水場……どのくらいの大きさですか?」

白鯨族(モカディック)が不自由なく泳げる環境なので、そちらは当人と話し合いながらでも構いません。ただし用意できない場合は、こちらも契約違反となりますのでご注意ください』

「わかりました」


 第二階層の地底湖エリアなら大丈夫かな?

 あれが狭くて浅かったとしても、すぐに少し広げればいいからね。


 すべての条件を了承すると、手数料を含めて初期費用として百十万ものエネルギーが引かれることになった。

 久しぶりの大量消費だけど、アルヴィトのボディを作る時は一千万を超えていたからね。それを思えば安いものだよ。


『お支払いを確認次第そちらへお送りします。エネルギー計測装置でご確認ください。ご利用ありがとうございました』

「……さて」


 ナンデモニウムとの連絡が切れてから、ボクは身構える。

 今までワンダ君や夜美さんの時に驚いてしまい、初対面なのに情けない姿を見せてしまった。

 さすがにボクも、そろそろちゃんとしたヴァルハラの主として出迎えるよ。

 そのために今回は正装に着替えたくらいだ。


 気合は十分……あれ?

 そういえば大きな水場が必要になる白鯨族(モカディック)って、やっぱり体も大きいんだよね?

 だってクジラって言うほどだし……この部屋に入るのかな?

 どう見回してみても、小学校の教室くらいの広さしかない。


 もしかして、押し潰される?


「ど、ど、どうしよう……! 急いで地底湖に行ったほうがいいのかな!? でも今からだと絶対に間に合わないし……!」

「どうかされたのかな?」

「ほわぁぁぁ!?」


 ボク以外に誰もいないはずなのに、いきなり背後から聞こえた声に部屋の隅まで転がるように逃げる。

 できる限り小さく丸まってみたけど、いつまで経っても潰されないので振り返ってみると、そこにはクジラではなく老人が立っていた。


「……もしかして白鯨族(モカディック)さんですか?」

「いかにも。儂はアレクシスという……まあ、ただのジジイじゃよ」


 ジジイなんて自称するように、目の前にいるのは老人らしい恰好だけど、どこか若々しさも感じられた。

 白くて長い髪とヒゲは丁寧に手入れされているようで、絹のように滑らかな光沢を帯びている。

 そして長い杖を携えたローブ姿は、まるで魔法学校の校長先生か、もしくはロード・オブ・ザ・アレの魔法使いだ。


 おまけに老人という割には背筋がピンと伸びていて、身長も高いというか体がゲオルク並みに大きい。

 瞳に宿る光も老いとは無縁なほど強くて、ちょっと委縮してしまう。


「あ、あの、人間に見えるんですけど……」

「本来の姿では邪魔になるのでな。ちょっとした魔術を使っておる」


 どうやら、人間の姿になるような魔術を使っているらしい。

 ここにリゼちゃんがいたら詳しく教えてくれたかも。


「ところで、お嬢さんはダンジョンの主で間違いないかのう?」

「あ、すみません……ボクはアルマと言います。このヴァルハラの主です」


 せっかく気合を入れていたのに、なにもかも台無しになってしまった……。

 だって本当に大きなクジラが部屋一杯に押し込められて、あのままだと潰されると思ったんだもん。


 恥ずかしさとか悔しさが入り混じって気分が落ち込むけど、せっかく来てくれたのに暗い顔をしている場合じゃない。

 すぐに気を取り直してアレクシスさんに向き合うと、なにやらヒゲを弄って考え込んでいる。


「うーむ、まさか……いや偶然にしても」

「どうかしましたか?」

「ああ、いや、ひとつ尋ねたいのだが、なぜ儂を呼んだのかね?」


 たしかに百万エネなんて大金ならぬ大エネルギーを払うんだから、相応の理由があると察するのは当然だ。

 なのでボクは簡単にアレクシスさんを雇うことになった経緯を説明する。


「……ふむふむ、となると、あの御方の紹介になるワケじゃな」

「ブラッドさんを知ってるんですか?」

「かつて、お仕えしたものでな。もう何百年も前の話じゃ」

「そんなに」


 長生きならではのスケールが大きい話だ。


「では儂を呼んだのは偶然……いや、これも縁と捉えるべきか」

「あの、あまり時間がないので少し急ぎたいんですけど」

「わかっておる。だが先に水場へ案内して貰えんかのう? ここは本来の姿に戻っておいたほうが都合が良かろう」

「はぁ、それがいいなら案内しますね」


 ボクには理解できないけど、本人がそうしたいなら断る理由もないよね。

 でも、そうなると第二階層の地底湖が作戦会議の会場になるかな?

 みんなに連絡して、急ぎで場所を用意しよう。

気付く人は気付いたと思うアレクシスさん。

具体的には1章8話とか読み直すと分かるかもです。

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― 新着の感想 ―
[一言] はえー、人になって人社会(?)に紛れてた感じなんすかねぇ 爺が強い作品、いいよね。
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