表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/96

7 ポテト腹

 ヴァルハラに戻ったヨハンにウナギの蒲焼きをごちそうしながら、ボクたちは半年間の出来事を互いに話した。

 まず先にヨハンが向かったダンジョンについて聞くと、まだ規模が小さかったこともあって、無事に攻略できたようだ。


 もちろん、そこのダンジョンの主は倒されたわけだから、同じダンジョンの主としては同情しちゃうけど、頻繁にモンスターが出て来る危険なダンジョンとして認定されていたそうだし、そのモンスターの襲撃で被害が出ていたそうなので、自業自得って言うべきかも知れない……。

 人間にも犯罪者と良い人がいるみたいに、そのダンジョンの主はきっとすごく悪い人だったんだと考えよう。


「じゃあヨハンはダンジョンで大活躍したんだね!」

「そ、そこまでじゃないけど、僕なりにがんばったつもりだよ」


 照れて謙遜するヨハン。

 他の冒険者たちと合同での攻略だから、たったひとりの活躍で攻略したとは言えないけど、少しは貢献できたと嬉しそうに話してくれたよ。

 餞別に渡した特殊ポーションも役に立ったみたいでなによりだ。

 あれは回復系じゃなくて、一時的に能力が上昇する強化系のポーションだから使いどころが難しいけど、ここぞという時には百人力だからね。


「ヴァルハラは僕がいない間に、かなり人が増えたね」

「人間だけじゃなくて魔族もモンスターもいっぱい増えたよ」


 例えば、さっきから黙っているクーちゃんもそうだし、人数で言えばワンダ君の種族である見えない(インヴィジブル)放浪者(ワンダラー)は、なんと新たに九十九人も雇った。

 透明だから見た目だけだと誰が誰なのか判別できないけど、それぞれ服装を変えたり、名前入りの腕章を付けて貰っているので、今のところ間違えたりはしていないはずだ。


 どうしてそんなに雇ったのかと言えば、理由は大きく二つある。

 ひとつは単純に、先を見据えて人手を確保しておきたいからだ。今はまだまだ余裕があるけど、春を迎えれば忙しくなる予定だからね。

 他の魔族は人間の首をねじ切っちゃう恐ろしいのがいるけど、その点ワンダ君たちは透明で喋れないだけで優しいし、ほとんど人間に近いと思うよ。

 手先も器用だから、様々な仕事を覚えて貰っている最中だ。


 もうひとつは、ワンダ君のお給料にも関係している。

 ワンダ君の種族は迫害されているため生活に困っていて、ワンダ君からの仕送りに頼っている大変な状況だ。

 なのにボクから大幅な給料アップを提案しても遠慮するので、それなら雇う人数を増やすのはどうかなと考えてみた。


 これにはワンダ君も納得してくれたので大成功だったよ。

 今は百人の仕送りによって生活にも余裕ができたそうだし、ボクも新しい従業員を確保できたので、まさに一挙両得だね。

 待遇面で不満の声も出ていないし、それどころか今後もずっと雇って欲しいってお願いされちゃうほど好評だ。

 むしろボクこそ、ずっと雇わせてくださいって答えたよ。


 あとモンスターに関しては……アルヴィトが一番の変わりようだけど、あれは別に増えたわけじゃないか。

 やっぱり増えたと言えば、第八階層や第九階層のほうだね。


 実のところ、ついにモンスター狩りで死者を出さない仕組みが、ほぼできあがっていたりする。

 方法はとても単純で、モンスターたちに特殊な毒を持たせたのだ。

 この毒は一定量の攻撃を受けると麻痺の効果が現れて動けなくなるため、その時点で強制的に冒険者はリタイアとなる。

 これなら懸念だった『無理をして戦う』のは物理的に防げるはずだよ。


 しかも、一定量の毒が蓄積するまでは攻撃を受けるので、痛いものは痛い。

 ある程度の緊張感を持たせてエネルギーを確保する、という課題もクリアできるわけだね。


 残念ながら、ふざけて戦ったりして一撃で死んじゃったりする可能性は残されたままだけど、それは本人の不注意による事故という扱いで良い気がする。

 だって普通に考えたら、そんな冒険者はいないからね。

 いないことにするためにも、ギルドには訓練をがんばって欲しい。


「そういえば一階のところも新しいの増えてなかった?」

「うん、訓練用のは少ないけど、アトラクションは増えたよ」


 絶叫系ばかりではテーマパークとして名折れなので、子供でも安心して楽しめるようなアトラクションをいくつか追加してある。

 例えばメリーゴーラウンドとか、観覧車とかだね。

 一方で、訓練に使えるタイプを増やして欲しいとスパルタ教官ゲオルクから要望があったので、エネルギー回収に役立つものも作った。


 その名も『バンジージャンプ』だ。

 体にゴムロープを付けて、高いところから真っ逆さまに落ちるアレで、ヴァルハラの場合は一階層の高台から大きく地面に空いた穴を通り抜けて、二階層の地底湖すれすれまで落下する。高さは約七十メートルくらいだ。


 日本だと百メートルぐらいのバンジージャンプがあったはずだから、それよりも低いけど、ほとんどの冒険者は腰が抜けて飛べなかった。

 そもそも、そんな高いところから飛び降りるという発想がなかったようで、今では訓練というより度胸試しの一環として挑戦するアトラクションになっている。

 それはそれで本来の用途だからいいのかな?


 ちなみに冒険者で飛べたのはゲオルクとリゼちゃんだけだった。さすがだ。

 あと予想していたけど、すずちゃんも余裕だったね。

 ……ボクは運営する側なのでやらないよ?


「ギルドのみんなは……心配いらないと思うけど、元気だよね?」

「元気すぎて、ちょっと困るくらいだよ」

「なにかあったの?」

「お酒の要望が半年前よりも増えちゃって……」


 でも無理やり作らせようとするんじゃなくて、あくまでリクエストするだけだから怒るに怒れないんだよね。地味にゲオルクも賛成派だし。本人は中立を装っているけど。

 だからって隙あらば要望書を送ってくるのは、いくらなんでも困る……。


「あと最近、困ったのはリタさんかな」

「リタさんって、たしかアルマの食堂で雇っている人だよね?」


 もっとわかりやすく言えば、いつも体重を気にしながら人一倍は食べているアルバイトさんだよ。


「その人がどうかしたの?」

「えっと、まず最初にジャガイモの美味しい食べ方についてだったかな……」


 ジャガイモは安くて大量に手に入るから、若手冒険者を初めとしたお金のない人にとっては主食も同然の食べ物らしい。

 だけど毎日毎日ジャガイモを食べていれば飽きてしまうもので、もう見るのもイヤなんだけど、他に食べる物もない……。


 そこで職人ギルドほうからボクに、ジャガイモを使った新しいレシピがあったら教えて欲しいと話が回ってきた。

 普通は茹でたジャガイモをそのままか、潰して食べるみたいだ。

 ポテトサラダみたいで美味しそうだけど、試しに食べてみたら、ちょっと味気ない感じだったかな。


「それで、アルマは知っている料理を教えたの?」

「そうなんだけど……」


 ボクは教えたというより、マヨネーズを加えただけだよ。

 より現代のポテトサラダに近い味にして、それを色々な人に味見して貰ったら大好評だった。

 それでボクはマヨネーズを商人ギルドに卸すようになって、料理人さんはマヨネーズを仕入れてポテトサラダを大量生産するんだけど……。


「食べ過ぎたリタさんが太っちゃったんだよ」

「そ、それって太りやすい料理だったとか?」

「なんでも食べ過ぎたら太るよ?」


 たしかにマヨネーズが多く入っているから、太りやすいと言えば太りやすいかも知れないけど、結局は食べる量が問題だからね。

 特にリタさんは安かったこともあって、異常なほど食べていた気がする。


 その結果、リタさんは成長という言葉では覆い隠せない貫録が出てしまった。

 さすがにアルバイトのリーダー役であるエマさんも注意していたよ。


『あんたねぇ……いくらなんでも、その腹はマズいんじゃないかい?』

『ち、違うんです!』

『なにが違うって言うんだい? そんなに膨らんで明らかにふと……』

『太ってません! これは……そう、ちょっとポテトサラダを食べすぎて膨らんでしまっただけですから! ポテトが詰まっているんです! ポテ腹です!』

『なにワケわからないこと言ってんだい!』


 という感じで、エマさんからリタさんに対してだけ『ポテトサラダ禁止令』が出てしまうほどだった。

 レシピを提供したボクも責任を感じたので、ダイエット用のカロリー控えめメニューを考えたら、他の女性からも感謝されたのは予想外だったね。

 みんな口には出さないけど、やっぱり気にしていたみたいだ。


 そういえば試食会をするようになったのも、それが発端だったかな?

 おかげでカレーやラーメンをメニューに追加するのは、まだしばらく先になりそうだとわかったよ。

 ともあれ、エマさんの厳しい指導もあって、リタさんは無事に元の体形に戻れたのだった。


 今では大浴場にスポーツジムを併設したり、各ギルド支部にルームランナーを無料で設置してある。

 これは冬でも暖かい室内で運動できることと、ちょっとした時間で手軽に運動できることから、特に受付や事務仕事の人にとても喜ばれた。

 ずっと座りっぱなしで、運動不足が悩みだったそうだからね。

 冒険者ギルド支部でも支部長室にゲオルク専用機が設置してあったりするよ。最高速度は通常の三倍だ。


「ところで、ヨハンはこれからどうするの?」


 無事にダンジョン攻略から戻ったのは嬉しいけど、もう若手とは呼べないし、第八階層の実装はまだ先の予定だ。

 まあ中堅として第九階層で訓練をすることもできるけど、今後の予定は決まっているのかな?

 そう聞いてみると……。


「えっと、とりあえずギルド支部に報告してからになるけど、その、もし手伝えることがあれば、アルマの力になれたらって思って……」


 後半になるに連れて、ヨハンはごにょごにょと口ごもる。

 上手く聞き取れなかったけど、もう予定があるみたいだ。

 きっと冒険者として、なにか仕事があるんだろう。

 もしヨハンがよかったらヴァルハラで雇いたかったんだけど、あまり無理は言えないよね……。


「あまり冒険者ギルドのことは知らないけど、がんばってね!」

「え、あ、うん……」


 なんだか急にヨハンの元気がなくなった気がする。

 もしかして……ウナギの蒲焼き、あまり好みじゃなかったのかな?


「のう、すずよ。アルマちゃん様はマジなのじゃ……?」

「マジなのです。言いたいことはハッキリ言うべきなのです」

「う、うむぅ……為になるのじゃ」


 ずっと黙っていたお狐二人組がなにかひろひそ話していたけど、残念ながらボクの耳には届かなかった。

 やっぱり仲いいよね。

よろしければブックマークや、下の☆で評価お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ