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28 アルマとイーリス2

「わたしの夢は……お父さまのような立派な領主になることなんです」


 そうして語られたのは彼女の父親である領主さんがどれだけ立派で、イーリスちゃんがどれだけ憧れているか。そして少しでも娘として支え、いずれは後継ぎの名に恥じない大人になりたいという、まさしく夢だった。


 貴族や領主というものに詳しくないボクは、それのどこに問題があるのか不思議だったけど、イーリスちゃんの話を聞くうちに理解する。

 この世界において、自由に歩けないことは大きなハンデとなってしまうのだ。


 領主に求められる重要な能力のひとつに、統率力があるという。

 例えば大量のモンスターがダンジョンから放出されて、街に侵攻してきた時、領主は騎士団を率いて防衛に動くことになる。

 つまり戦場へ出るわけだから、まともに戦うどころか、外出すらままならない状態では頼りないというか、周囲からの支持を得られないらしい。

 それは領主として、致命的なイメージダウンのようだ。


「車イスじゃダメなんですか?」

「これでは馬車から乗り降りするだけでも時間がかかりますし、誰かの補助がないといけません。いざという時に、そんな人が領主なんて……」


 誰も認めてくれない。

 そこまで言葉にしなくてもボクの耳には、はっきりと聞こえた。


「でもイーリスちゃんは、まだ立派な領主になる夢を諦めていないんですね」


 だから苦しんでいるんだと思う。

 現実の自分と、理想の自分があまりにも違いすぎて。

 元は事故っていう仕方がない事情があるけど、それでも結果は変わらない。


 イーリスちゃんは俯きながら問いかける。


「……もしアルマさまだったら、それでも諦めませんか?」

「そうですね、ボクがイーリスちゃんだったら目の前にいるなんでも……はムリかもですけど、割と色々できる人にお願いするかも知れませんね」


 ボクの答えに、イーリスちゃんもハッと顔を上げた。


「目の前の……?」

「はい! イーリスちゃんはどうしますか?」

「わ、わたしは――」


 今ボクから言えるのは、ここまでだ。

 あとはイーリスちゃんの意思を、これがイーリスちゃんの望みだと、きちんと本人の口から聞きたい。

 そんな意思を込めて目で促すと、しっかりと見返して答えてくれた。


「――アルマさま、わたしに力を貸してくれませんか?」

「ふっふっふっ、その言葉が聞きたかったんです! さあ、これから一緒にがんばりましょう!」

「お、おねがいしますっ!」


 がっしりと握手をするボクとイーリスちゃん。

 その表情はさっきまでの迷子みたいな顔と打って変わり、前へ進もうとする勇気に満ち溢れたものになっていた。


 ……なぜだかボクには、それが輝いて、とても眩しく見えた。






 さて、簡単にがんばりましょう! と言っても、人間の失った手足はトカゲの尻尾みたいに生えたりはしないのである。

 これは、あらゆるキズや病を癒して、寿命さえ伸ばしてしまう万能霊薬(エリクシール)であっても不可能だ。


 もしかしたらボクが持つダンジョンの知識に含まれていないだけで、この世界のどこかにはスゴイポーションとか、ナンデモナオールみたいな回復魔法が存在するかも知れない。

 だけど、今この場になければ意味がないし、領主さんが知っていれば間違いなく探しているはずなので望みは薄い。


 なのでボクは最初から考えていた案で、イーリスちゃんの夢を応援する。


「その、義足ですか?」

「代わりの足になる道具と言いますか、それがあれば普通に歩けますし、他の人の手を借りる必要もなくなりますよ」


 きちんとサイズを合わせた特注品だとお高いし、使い続けるとメンテナンスとか面倒なところもあると思うけど、そこはボクが作れば無料だし、ヴァルハラに来てくれれば簡単に修復できてしまうから安心だ。

 そう説明してみても、なぜかイーリスちゃんの反応は薄い。


「あの、アルマさま? 義足は自由に歩けても屋敷内くらいですよね?」

「え、その気になれば山も登れますよ?」

「お山も!?」


 なんだか話が嚙み合ってない気がしたので詳しく聞いてみると、イーリスちゃんの言っている義足はなんというか……すごくシンプルなものだった。

 安全な日常生活で使うなら問題ないけど、地面が平らじゃない場所に行くのは、よほど本人の身体能力が優れていなければ難しいらしい。


 ちなみに義手もあるみたいだけど、ほとんど鎧だから戦う人向けで、女の子が付けられる重さじゃないという。

 きっと中に大砲が仕込まれていたり、刀が飛び出たり、サイコなエネルギーを放つガンが収納されてるんだよ。ボクは詳しいんだ。


「とにかく試してみましょうか。行きますよ!」

「え、あの、どこへ行くんですか?」

「いいところです!」


 ボクはイーリスちゃんの車イスを押して、エレベーターへ乗る。

 向かうは第十階層の中央塔、その地下にいるアルヴィトのところだ。


 ただし、メイドさんと護衛の人たちには先にホテルへ戻って貰う。あそこはボクとリゼちゃん、それとすずちゃんのプライベートエリアだからね。

 さすがに断られるかもと思ったけど、イーリスちゃんも一緒にお願いしてくれたおかげなのか、あっさり了承してくれた。


 どうやら元々、イーリスちゃんのお世話や、体調を崩してしまった時のために控えていただけであって、護衛とかじゃなかったみたいだ。

 それも領主さんの指示だとしたら、ボクはものすごく信用されているらしい。

 その期待には応えないとね。


「す、すごく高くて、ちょっと怖いです……」

「端っこに行かなければ平気ですよ」


 塔の頂上からの景色は、青空と青い海だけとはいえ、とても素晴らしい。

 ただ見慣れない人にとっては、やっぱり恐怖のほうが強いみたいだから、なるべくゆっくりと車イスを移動させる。

 そうして到着した地下指令室の中央には、相変わらずふわふわ浮かぶ球体。


「アルマさま、これはいったいなんでしょうか?」

「これはまだ未完成ですけど、アルヴィトって言うんですよ」


 そう言った途端、球体の中央にあるメインカメラが赤い光を灯した。


『――ようこそ。マスターアルマ。そして初めましてイーリス・フォウ・グランツシュタイン』

「きゃっ?」


 急に聞こえた声にイーリスちゃんは驚いて、ボクと球体を何度も見返す。

 ボクが作ったモンスターだと教えたら納得してくれたのか、今度はまじまじと球体を見つめてからぺこりと頭を下げていた。


「……は、初めまして、イーリス・フォウ・グランツシュタインと言います」

『はい。あなたの事情は把握しています、イーリス。そしてマスターアルマ、すでに設計図は完成していますが、すぐに取りかかりますか?』

「うぇ? なんでもうあるんですか?」


 ボクはアルヴィトに頼んで、イーリスちゃんにぴったりな義足の設計図を作って貰おうとしていたのだ。

 見たこともない義足の曖昧なイメージだと、しっかりとした物にならない恐れがあるし、アルヴィトの頭脳だったら高級パソコンくらいの計算能力があるからね。

 なのに頼む前から完成しているなんてびっくりだよ。


『マスターアルマの言動から推測し、あらかじめ用意しておきましたので』


 心なしか得意気に聞こえるアルヴィトの声。

 イーリスちゃんの足のことも知っているから、上での会話はしっかり聞いていたみたいだ。

 とにかく手間が省けたので助かった。


「それじゃ早速、作ってみようと思うんですけど……イーリスちゃんのサイズとか測っていませんよね?」

『問題ありません。設計図通りに生成してください』


 壁一面に設置された大型モニターに設計図が表示される。

 すごく細かいところまで描かれた義足のイラストで、全体的なデザインは滑らかな流線形をした白いフレームに、縁の部分が上品な金色で飾られていた。

 ほっそりとしてスタイリッシュなシルエットは軽そうだし、細身のイーリスちゃんにも似合いそうだ。


「なるほどぉ……これはサイズが調節できるんですね」

『イーリスは成長期の途上です。現在のサイズに固定するより効率的でしょう。また接合面は特殊素材を用いているため、肉体への負荷を軽減できます。デメリットとしては、相応のコストを要する点が挙げられますが、マスターアルマでしたら多少のエネルギー出費は気にされないでしょう』

「その通りですね! 最高の一品に仕上げましょう!」


 アルヴィトは本当にボクのことをよくわかっている。

 でも、この義足だといまひとつ物足りない。


「例えば……防犯的な機能って付けられないですかね?」

『不審者撃退機構を検討中――――確認ですが、不審者の生死は無視するものとして構いませんか?』

「えっと、できれば身を守る方向にしてください」


 万が一、誤解だったりしたら取り返しがつかないからね。


『残念です。では大音量防犯ブザーと激辛スプレーの搭載に加え、小範囲の防護バリアを展開する機構を組み込みます』


 なにが残念なのかは、この際だから置いておこう。

 それより聞き捨てならない言葉が出てきた。


「ば、バリアってなんですか!?」

『この世界風に説明すると、結界魔道具です。魔力をエネルギー源とするため使用者によって性能が左右されますが、僅かな時間稼ぎと割り切れば充分な働きが期待できます』


 つまり義足を魔道具にしちゃうって意味かな。

 いざという時に義足を晒し、展開するバリア……ちょっと、かっこいいかも?


『これにより更なるコスト増加が予想されますが――』

「エネルギーのことは気にしないで、性能重視でお願いします」

『了解しました。これより再計算を開始します』


 これまで一度も機会がなかった魔道具の生成だ。どうせならいいものを作ってみたいからね。


『マスターアルマ、魔道具化に際して機能の追加により神経接続が可能となりました。ただし実装には膨大なコスト増加が懸念され――――』

「やっちゃいましょう!」

『では、こちらが実装済みの設計図です』

「早いですね!?」

『マスターアルマの返答を推測していましたので』


 ボクの考えを予想して、当てるのが好きなのかな?

 アルヴィトの変わった趣味には触れないでおこう。


「見た目は変わっていませんけど、ちょっと重くなってません?」

『内部機構の追加によって許容範囲ではありますが増加しています』

「ちなみにもっと軽くできたりは?」

『材質そのものを見直す必要があります。フレーム部分は特殊なモンスター素材を用いて、魔道具の機構部は純ミスリル製に変更することで、およそ三百グラムの軽量化が可能です』

「じゃあそれで……」

「ちょっと待ってください! あの、純ミスリルって……ほ、本当ですか?」


 それまで話に付いて来れなくて、置いてきぼりだったイーリスちゃんが急に待ったをかける。


「どうかしましたか?」

「純ミスリルは、ものすごく高価だと聞いているので……」

「心配いりませんよ。お金は使いませんからね」


 エネルギーで生成するなら実質タダだよ。


「ほ、本当にいいのでしょうか……」

「じゃあイーリスちゃん、こう考えてください。イーリスちゃんはボクの実験に付き合う代わりに、その対価として義足を使えるんです」

「実験、ですか?」

「ボクが義足を作るのも、魔道具を作るのも初めてですからね。ちゃんと使えるかどうかをイーリスちゃんに試して貰うんです。それならいいですよね?」


 当然ながら、エネルギーで生成した義足に不備なんてあるはずがない。ちょっと騙すようで申し訳ないけど、ここは素直に受け取って欲しいからね。

 するとイーリスちゃんは喜びながらも、少し困ったように笑う。


「どうしてアルマさまは、そこまでわたしに優しくしてくれるのですか?」

「それはもちろん、イーリスちゃんを笑顔にするためですよ!」


 立派な領主になるのがイーリスちゃんの夢なら、そういった夢を応援して笑顔にするのがボクの夢とも言える。

 もちろん単純にヴァルハラのアトラクションを楽しんでくれるだけでも、それはそれで嬉しいけどね。


『再計算が完了しました。こちらが設計図です』

「さて……それじゃあ今度こそ作ってみましょうか! これがイーリスちゃんの夢を追いかける新たな足です!」

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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