26 領主さんと会談2
「ここからが本題だが、この場で決めておきたい議題が二つある」
細かい打ち合わせの段階に入った領主さんとの会談。
ここまで来ると、正直ボクが参加していいのかなって不安になるけど、ヴァルハラの主なので逃げるわけにもいかない。今日はリゼちゃんもいないし。
話に付いて行けるようにがんばろう。
「ひとつはダンジョン内で起きた事件や犯罪についての扱いだ。言い換えれば法律的な部分だな」
「なにを決めるんですか?」
領主さんに聞き返すと、ゲオルクが答えてくれる。
「お嬢ちゃんは、例えば盗人が出たとして、そいつを捕まえたらどうする?」
「えっと……どうしましょう?」
「それを決めるための話し合いだな。通常ならダンジョンでの盗みは証拠でもなければ放置で、捕らえたら王国の法律で裁かれるが……」
言い淀んだゲオルクを、今度はギルマスが引き継ぐ。
「はっきりと言ってしまうが、ダンジョンマスター殿が王国の法律に従うかどうかという話になるのだ。もちろん、それで良ければ話は早いんだが……こちらとしては、あまり勧められんな」
「どうしてですか?」
急に法律とか言われても困るけど、その理由はすごく簡単だった。
もしも王国の法律に従うとなったら、王国がちょっと法律を変えるだけでヴァルハラを好き勝手にできる下地が生まれてしまうのだという。
だからヴァルハラはダンジョンという特性を利用して、人間たちの国家に属さない第三勢力……いわば新しい国として独立するべき、というのがおっさん悪代官三人の意見だった。
まあゲオルクとギルマスはわかるけど、領主さんはそれでいいのかな?
反逆罪とかで逮捕されないか心配だ。
ひとまずボクは領主さんたちの提案を受け入れて、そういう方向で進める。
……というか代案なんて浮かばないし、ほぼ任せるしかない。
「大部分は王国法を基として、細かい箇所は後から修正すればいいか?」
「それなら問題ないでしょうな。まだ人数も少ないので猶予はあります」
「商人ギルド支部にも協力を要請しますか?」
「そうだな……敢えて一任し、どこまで信用できるか試すのも手か」
「ふむふむ」
もう三人だけで話し合いが進行しているので、ボクは意味ありげに頷いておくしかやることがない。
一応ちゃんと聞いているけど、下手に口出しするより結果的によくなりそう。
「法整備に関してはこんなところだな。それとアルマ殿が今まで税金という名目で納めていたポーションだが、これは友好の証として個人的に贈られた物とする」
「では税金の話は、なかったことに?」
「アルマ殿に関しては、そうしなければ辻褄が合わないからな。だがギルド支部を免除とするのは、さすがに反発が起きるだろう」
「ううーむ……金勘定はどうも苦手ですので、伯爵にお願いします」
「職員に怒られるぞギルマス。俺も似たようなものだが……」
どうやらギルマスとゲオルクは、あまりお金の計算が得意じゃないらしい。
色々な職員さんがいるから問題ないみたいだけどね。
「各支部から不満が出そうだが、こればかりはさすがにな。形式的にはアルマ殿が徴収するのが理想だが、金銭に興味はないのだったか?」
「あ、はい、お金いりません! エネルギー大事!」
急に話を振られたので、焦って変な言葉になってしまった。
それに謙虚な人みたいだけど、ボクにとってエネルギーがお金みたいなものだから、お金が大事って言ってるのと変わらないのである。
「となれば、もうひとつの議題でもあるが、これ以上アルマ殿が保有している財貨を増やすのは得策ではないだろうな」
「あー、そうですね」
今のところボクはギルド支部に宿舎を提供したり、アルマ食堂と大浴場の運営などでお金を得ている。
もちろん、ボク自身はお金なんていらないんだけど、だからって無料にすると経済が滞って良くないのだとか。
そこでボクが稼いだお金を、別の形で人間の街へ還元する手はずだったわけだけど……その方法が見つかっていなかった。
欲しい物は自分で作れるし、ヴァルハラから出ないので貯金が増える一方だ。
これで税金なんて徴収したら、余計にお金が増えちゃうから、ボクとしても絶対にお断りしたい。
むしろ支払いたいくらいなのに、その逃げ道もさっき潰されたし……あ。
「その税金って、ボクが代わりに払うのってアリですか?」
「……どういう意味だろうか?」
「えっとですね、ギルド支部が払う税金をボクが出すのはどうかと思いまして」
ボクは溜め込んでいたお金を放出して、みんなは無税になって、領主さんは税金を受け取れる。誰も損をしないはずだ。
「なるほど……普通ならばあり得ない話だが、アルマ殿のヴァルハラならではの仕組みというわけか」
領主さんも思わず唸って考え込んでいる。
「面白い提案ではあるが、問題点が二つある」
「二つもですか?」
「まずアルマ殿の収入を把握していないが、いずれ支払う税が上回ってしまう可能性が高い。いきなり全額を肩代わりするのではなく、半額をアルマ殿が負担する程度が現実的だろうな」
なにより、と領主さんは続ける。
「アルマ殿が抱える財貨の扱いは二つ目の議題であり、それに対して解決策を提示するつもりだったのだ」
「えーっと、つまりお金の使い道が他にあるんですね」
なるほど、すでに考えてくれていたのか。
せっかく準備したのに、それを無意味にされるのはイヤだよね。
ボクは納得して詳しい話を聞く。
「実はアルマ殿に支援金の寄付をお願いしたい」
「いいですよ。誰に寄付するんですか?」
「……普通はそれを先に聞いてから決めるものだと思うが、まあいい。支援金の使い道だが、一言でまとめれば子供たちのためだ」
領主さんによると、大きな街では何千人もの孤児がいるそうだ。
その数は毎日のように増えていて、孤児院で保護しようとしても、様々な理由から本人が拒否してしまうケースもあるのだとか。
「どうして拒否するんでしょう?」
「孤児院での生活は、決して豊かとは言えないからな。聞くところによれば、孤児院に入った子の何割かは、以前の生活を忘れられずに逃げ出すそうだ」
もっと言えば、いきなり見知らぬ子供たちと共同生活になる。
親を失った悲しみや、そういった不満がストレスになって、なにもかもがイヤになってしまうらしい。
とはいえ、逃げても生きて行く術なんて持たない子供たち。
そうなると物を盗んで生きるようになり、さらに大人の犯罪者の仲間となって罪を重ねて、治安も悪化するのだという。
つまり単純に子供だけの問題ではなく、街全体に関わる話になる。
「私としてもどうにかしたいが、あまり孤児院を優遇しては他から不満が出てしまい、今度は孤児院に対する風当たりが厳しくなってしまう」
孤児による盗みが多いのも、そういった風潮を生んでいるらしい。
まったく関係ないのに、孤児院の子供ですら犯罪者の予備軍みたいな扱いをする人が現れるほどだと聞いてボクは驚く。
「むー、それって風評被害っていうあれですね」
「風評被害? ふむ、あまり聞き慣れない言葉だが、それは正しいだろう」
でも、それなら寄付より簡単な解決方法がある。
「その子供たちをヴァルハラで預かれないですか? ここなら何千人だって部屋を用意できますし、たくさん食べ物もありますよ」
「それも考えたが、いくら孤児でもダンジョンへ送り込んだとなっては騒動になってしまう。まだしばらくは難しいだろう」
「領主さんが説明してもですか?」
「ダンジョンへの恐怖は、そう簡単には払拭できないものだ。残念ながらな」
だから先にボクから寄付をするってわけだね。
「あ、でもお金の管理は商人ギルド支部にお任せしているので、そっちの人とも相談してくれませんか?」
「そういうことなら細かい額の計算は、また後日としよう」
ボクは稼いだお金をすべて商人ギルド支部に預けている。
アルバイトのお給料もそこから支払われているから、自分がどれだけ稼いでいるのか細かくは把握していない。
お金よりエネルギー計測値を眺めて、にやにやしているくらいだよ。
ここまで丁寧に説明してくれたおかげで、ボクでも理解できたし、納得もしたから、ひとまず税金の半額負担と、孤児院への支援でお金の使い道は決定した。
子供たちをヴァルハラへ連れて来るのは、ヴァルハラが世間に公開されてから改めて計画することになるようだ。
半額とはいえ減税になったからか、もの凄い勢いでギルマスに感謝されて頭を下げられたけど、こちらこそだよ。
思い付きの発言だったけど、意外と上手く行きそうでよかった。
「――――ふむ、モンスターの狩場か」
これで会談も終わりとなった頃。
今さらながらボクは飲み物がないのに気付いて、冷たいジュースを配って感想を聞いたり、またお酒の話になったりした時、第八階層が話題になった。
「ゲオルクさんから言われていた問題点は解決しそうですけど、それでも絶対って言い切れないんですよね……」
ゴーレムのブレーンであるアルヴィトのおかげで、二十四時間どこでも指示を出せるシステムができたけど、モンスターの攻撃で即死したら意味がない。
他に良い案があったら聞きたかったんだけど……。
「それは気にするほどのことなのか?」
なぜか領主さんから疑問の声。
「え、あの、冒険者が死んじゃうかもですよ?」
「当然だろう。モンスターを狩るとは、そういうものだ」
とても不思議そうな顔をされると、まるでボクがおかしいみたいだ。
ギルマスは領主さんの言葉に頷いているし、ゲオルクはボクと同じく驚いてぽかんと口を開けている。
どういうことだろう?
「もちろん誰も死なずに済むなら最高だ。だが危険がないのであれば、冒険者の存在する意味がないだろう」
「……あっ」
言われてボクも唖然とした。
誰も死なない、できればケガもしない……そんな状況でモンスターを狩れるんだったら冒険者じゃなくて一般人でもできる。
そうなったら冒険者の仕事を用意するつもりが、ヴァルハラにおいて冒険者は無用の存在となってしまう。
気付かないうちに、ボクとゲオルクは冒険者の立場を蔑ろにしていたのだ。
「まぁ、伯爵のお言葉通りだ、ゲオルク。俺たちは冒険者だ。どれだけ危険なダンジョンで、どれだけ恐ろしく強大なモンスターでも戦いを挑む。それが俺たちの仕事だっただろう?」
「うむ、冒険者のおかげで多くの民が平穏に暮らせる。そのことに感謝しているからこそ誰も死なずに済むなど、あまりに都合が良すぎる」
ギルマスと領主さんの言葉に、ゲオルクはなにも言えなくなってしまった。
きっとゲオルクもボクと同じで、誰にも傷付いて欲しくなかったんだと思う。
「ダンジョンマスター殿、冒険者の身を案じてくれて感謝する。しかし無理をする必要はないぞ? というか、そんだけ色々としてくれたんだ。不満なんぞあるわけがない。命がけで狩りなんて当たり前だからな」
「……でも、ボクは」
「ああ、止めるつもりはない。すべてダンジョンマスター殿が納得するまでやってくれていい。もしダメだったとしても、それは誰が悪いわけじゃないんだ。それだけは覚えておいてくれ。あと狩場はギルドとして、絶対に欲しいからな」
「むー」
いっそ第八階層は封印しようと思ったら先手を打たれてしまった。
でも、止めないのであればボクも諦めないぞ。
例え絶対は無理であっても、ほぼ死者の出ないダンジョンにしてみせるよ。
「ああ、それとは別だがアルマ殿の評判が落ちるのは避けたいな」
「たしかに死者が出ると、その問題がありましたか」
一転して領主さんとギルマスさんが悩み出した。
その通りだけど……なんだかな。なんなんだかな。なんだかな。
結局この場で答えは出なかったので、この件は持ち越しとなった。
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