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25 領主さんと会談1

 大型ホテルの一階に、五百人以上が一度に入れる大広間がある。

 ここは本来ならダンスホールとか、あるいはパーティなんかに使うのを想定していた場所なんだけど、今回はちょうどいいので丸いテーブルとイスを用意して、領主さんとの会談の場としてセッティングした。


 この場にいるのはヴァルハラの主であるボクと、ギルド側の代表としてギルマスのヴィルヘルム、ゲオルク、その他に職員さんたちがテーブルに着く。

 ちょうどボクの正面に座るのは領主さんで、護衛の騎士が傍で控えている。


 一緒にいた車イスの女の子と、メイドさんたちはいない。

 どうやら会談に参加しないそうなので、先にギルドの職員さんに頼んで部屋まで案内して貰っておいた。

 残りの騎士を伴って移動する際、シロヌマネコちゃんが女の子の膝に乗せられたまま連れて行かれちゃったけど……気に入られたのかな?


 他のヌマネコちゃんはテーブルの上や下で、しっかりごろごろしているから心配はいらないけどね。

 ぶっ飛び兎とホットドッグたちは別室に控えさせておく。あまり護衛を増やしても相手を威圧してしまうらしいからね。お話し中にじゃれつかれても困るし。


「それでは改めまして、ボクの自己紹介から始めましょう」

「あー、待ってくれダンジョンマスター殿。先にその猫をどうにかしてくれないだろうか? どうにも気が抜けて集中できんのだがな……」


 いざ、これからって時にギルマスが話の腰を折ってしまう。


「もーしょうがないですね。どうにかって、どうするんです?」

「さっきの兎や犬と同じように、他の部屋へ移すとかだな」

「この子たちはボクの護衛なので、さすがにそれは……」

「……猫がか?」


 不思議な生物を見るような目でボクを見るギルマス。


「ま、まあこちらも護衛を伴っているのだ。ヴィルヘルムよ、彼女がそうしたいと言うのであれば自由にさせようではないか」

「伯爵がそう仰るのであれば」


 とりあえずヌマネコちゃんの同席は認められたみたいだ。

 ただ、本当のことを言えば……すずちゃんも近くに潜んでいたりする。

 いざという時のためって、本人からの強い要望があったので許可したけど、ボクにも隠れているところが見分けられない。忍者かな?


「気を取り直して、ボクはダンジョンテーマパーク『ヴァルハラ』の主をやっているアルマです。よろしくお願いします」

「……あ、ああ、私はバルトロメウス・フォウ・グランツシュタインという。こうしてダンジョンマスターである貴女に会えて光栄だ」


 領主さんは思ったよりも礼儀正しくて、優しい笑顔を浮かべている。

 ヴィオラさんの話もあったから、貴族ってどうなんだろう? もしかしたら悪い人なんじゃないの? って思ってたから良い意味で裏切られてしまった。決してアニメみたいな悪の貴族サマを期待したわけじゃないよ。

 でも少し……いや気のせいかもだけど、なんだかウソっぽい?


「すでにアルマ殿の事情は聞き及んでいる。これまでの実績もあって、私も領主として『ヴァルハラ』を友好ダンジョンに指定することを決定した」

「えっ、もうですか?」


 てっきり視察の結果次第で変わるものかと……。


「我々はお互いの利益と繁栄のために、手を取り合えると信じている……というのがお決まりのセリフだが、そんな上辺だけの言葉はいらんな」


 急に領主さんが笑顔をやめて、まっすぐボクを見つめると、今度は凄く自然な柔らかい笑顔になった。


「アルマ殿、本音を言えば君に礼が言いたかったのだ」

「えっと、なにかしましたっけ?」

「ダンジョンマスター殿、あのポーションだ。伯爵にも献上したんだ」


 ギルマスが言っているのは、前に渡した賄賂のライフポーションのことか。


「あれのおかげで娘の命が救われた」

「娘って、もしかして……」


 領主さんは頷いて、僅かに表情を曇らせた。


「ああ、イーリスという。自慢の娘だ……しかし一目で気付いたと思うが、無傷とはいかなかった」


 車イスに乗っていたのは、そういうことなんだと思う。

 ひざ掛けではっきりとは見えなかったけど、領主さんによると片方の足を膝から下が失われたという。


 すぐにポーションが使えたら切断された手足でも繋げられるけど、どうやら状況的に命を優先するしかなかったようだ。

 そうなると例え万能霊薬(エリクシール)でも、失ったものは戻らない。


「もちろん命が助かっただけでも私は良かったが……」


 あの女の子、……イーリスちゃんは気に病んでいるみたいだ。


「ともあれアルマ殿のおかげで助かったのは事実だ。だから一言、礼を言っておきたかった……娘を救ってくれて本当に感謝している」


 深く頭を下げる領主さんに、ボクは少しだけ困ってしまう。


「いいえ、頭を上げてください。ボクはボクの目的のためにポーションを提供しているだけなんです。それにゲオルクさんや、ギルマスさんのほうが色々がんばってくれていると思うので、お礼なら二人にお願いします」


 実際ボクはポーションを作っているだけで、他はすべてギルドのおかげだ。

 ギルマスさんが領主さんに献上していなかったら、きっとイーリスちゃんは助かっていなかっただろうし。

 やっぱり褒められるべきは、ボクよりギルドの人たちだと思うよ。


「ふっ、ははははっ、お前に聞いた通りだなヴィルヘルム! まったく欲がないと言うべきか、純粋と言うべきか」

「ダンジョンマスター殿、そこは素直に礼を受け取っても良いところだぞ?」

「そこがお嬢ちゃんらしいな」

「な、なんなんですか、いったい……もー」


 おっさん三人に笑われた。微笑ましいものを見る視線が、ちょっとむずむずして恥ずかしい。

 なんだろうこれ……親戚の集まりに混ざった時みたいだ。

 記憶はないのに、魂が覚えているらしい。早く忘れて。






 想像より和やかに話が進んだ領主さんとの会談。

 前からギルマスにヴァルハラの報告を聞いていたり、知らないところでイーリスちゃんの命を救っていたりで、ほとんど信用を得られていたのが良かった。


「決め手は先ほどの一件だな。猫と兎と犬を自慢げに呼び寄せるアルマ殿を実際に見て、これが人間と敵対するダンジョンマスターとは思えなくてな」

「ボクはダンジョンの主ですけど、人間でもありますからね」

「ふむ……以前の記憶がないのだったか。いや、そのことは今ここで話しても仕方ないか。それよりも今後についてだ」


 今さら感があるけど、領主さんはマジメな顔になった。


「いくつか重要な案件がある。それをアルマ殿と相談しつつ、決めていきたい」

「ボクに相談ですが……あまり役に立てないかも知れませんよ?」


 できれば難しい話は避けたいです。


「一方的な要求は、友好ではなく従属だ。私は王国に属し、陛下に忠誠を誓っているが、アルマ殿にそれを求めるつもりはない」

「ダンジョンマスター殿、こうした場を設けること自体が大切なのだ」


 つまりボクとの話し合いで決めないといけないらしい。

 ものすごく配慮されている気がするけど……。


「あの、ボクが言うのもなんですけど、それって大丈夫なんですか?」

「たしかに私は貴族として、そして領主として、王国と民のためにアルマ殿から可能な限り利益を得られるように動くのが本来の務めだろう」


 でも、そうするつもりはないのが一目瞭然だ。


「しかし、こう考えることもできる。アルマ殿と良好な関係を築くことで、より長期的かつ大きな恩恵を得られると。結果を出せば文句も言われないさ」

「おおー」


 悪い笑みを見せる領主さん。

 ただ良い人なだけじゃないわけだ。お主もワルよのう。

 山吹色の菓子でも渡してみようかな。ダックワーズが入ったやつ。

ブックマークと評価ありがとうございます!

前回からいつもより伸びていたので、これからは積極的にアピールしようと思いました。

というわけで。


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