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24 盛大に歓迎しよう

 明るい森の地面から生えた洞窟型ダンジョン『ヴァルハラ』の入口。

 その高さは約五メートル、横幅は十メートルほどで、二台の馬車が余裕を持ってすれ違えるよう配慮された幅となっている。

 ダンジョンとして、あり得ない親切設計だろう。

 本来なら嫌がらせのように狭い心折設計なのだから、むしろ訪れる者に罠ではないかと、うさん臭さを感じさせている。


 国境都市ローラインの領主、バルトロメウス・フォウ・グランツシュタイン伯爵が受けたヴァルハラの第一印象も、そんなものだった。

 年齢は三十歳近くと、貴族としてはまだ若い部類だったが、ダンジョンについての恐ろしさは充分に教育されている。

 いざという時に民を守るべき貴族の危機意識が薄ければ、都市ひとつが簡単に滅びてしまうのだから、どこの国でもダンジョンに対する扱いは厳重だ。


 だが、このヴァルハラという例外が現れた。

 人間の味方をするダンジョンが発見されたという冒険者ギルドからの報告と、その証明としてダンジョン産ポーションが献上され、さらにダンジョン内にギルド支部の設立と、冒険者の訓練所などなど――――。

 とても信じられないが、一蹴もできない出来事だった。


 その後も冒険者ギルドから報告とポーションの献上は続き、もはや疑う余地もないところまで行き着く。

 とはいえ貴族の責務として、この報告を鵜呑みにするわけにもいかない。

 最後は自身の目で確かめなければならず、ひとまず安全性は確認できたことで急ながらも視察を敢行したのである。


「ふむ、今のところ報告通りか……」


 高級な二頭立ての馬車から外を眺めて、バルトロメウスは呟く。

 夏の日差しは強いが、高価な魔道具によって熱気が緩和された馬車内は、快適とまでは言えずとも、幾分か涼しく過ごしやすい。明るい森の雰囲気もあってピクニックに訪れたような気軽さだ。

 もちろん仕事を忘れたわけではなく、しっかり報告書と異なる部分がないかを確認している。


 こうした視察は、報告した側からすれば信用されていないと思われがちだが、別に冒険者ギルドを疑っているわけではない。あくまで最終確認である。

 むしろ報告書を通して、バルトロメウスはヴァルハラの主であるアルマに感謝すらしている部分があり、すでに心はダンジョンを味方と認めてさえいた。

 その理由は――――馬車に同席している少女にある。


「イリス、体調はどうだ?」

「……うん」


 短くさらりとした金髪を揺らしながら答えた、幼い少女。

 領主の娘であるイーリス・フォウ・グランツシュタインだ。

 今年で八歳となる彼女は、父親に話しかけられても上の空だったが、それをバルトロメウスは咎めようとしない。


 イーリスは一月ほど前、大きな事故に巻き込まれた。

 しっかりと安全を確認したはずの馬車の車輪部分が破損しており、横転した際に運悪く車外へ投げ出されてしまう。


 生死の境を彷徨うほどの重傷を負ったイーリスだが、折良くヴァルハラ産のポーションが届き、どうにか命を取り留めるまでに回復したのだ。

 この一件により、ヴァルハラとアルマへの心象は良くなったが……事故によって残された傷跡は大きい。


 目の動きだけでバルトロメウスが視線を下げれば、そこにイーリスの片足が膝下の辺りから失われている姿がはっきりと確認できる。

 いくらダンジョン産ポーションであろうと、失ったものは戻らないのだ。


 もし即座に繋ぎ合わせるように使用できていれば可能性は残っていたが、その場にポーションが都合よくあるわけもなく、命が助かっただけでも僥倖である。

 そう諭したところで、幼いイーリスの心は晴れなかった……。


 実のところ今回の視察は、そんなイーリスの気分転換を兼ねている。

 表向きは貴族としての教育の一環となっているが、報告書ではヴァルハラの宿泊施設は高級宿に引けを取らず、ギルドマスターが食べたこともない美味なる料理が供され、保養地にも適しているとされていた。

 さすがに周囲は難色を示したものの、父を立派な貴族として尊敬しているイーリスは反対しなかったことで、ヴァルハラ視察への同行が決まったのだ。


 そうして馬車で半日のヴァルハラへやって来たのだが、残念ながらイーリスは今も沈んだ表情のままだ。

 バルトロメウスは貴族ではなく、父親として願う。


 この異質なダンジョン『ヴァルハラ』が、ポーションによって命を救った時のように、娘の心も救い、笑顔を取り戻してくれないだろうか……。

 そう期待せずにはいられないのだ。


 やがて冒険者ギルド支部のゲオルクたち職員に出迎えられ、この場では簡単な挨拶で済ませると、ヴァルハラ内へ馬車ごと入って行く。

 先導するのは案内役として随行していたヴィルヘルム……冒険者ギルドのギルドマスターと、ギルド支部の者たちだ。


 馬車の周囲には馬に騎乗した騎士たち十名を護衛として伴い、後ろに世話役のメイドたちが乗る馬車が続く。

 それなりの大所帯だが。広い道幅のおかげで滞りもなく進む。


 まず向かうのは第六階層の大型ホテルである。

 複数台の馬車が余裕を持って入れるエレベーターに全員が一度に乗り、数十秒で到着して外に出ると、景色は一変していた。


「おお、まさか本当に移動しているとは!」


 馬車の中から覗き見た光景に、バルトロメウスは思わず驚く。

 昇降機の存在を貴族であるバルトロメウスは知っていたが、従来のそれよりもはるかに大型であり、なおかつ振動も感じられない。

 この時点でヴァルハラの異常性を肌で感じ取れたが、ほんの序の口とでも言うかのように美しい景色が広がっていた。


 そこは大都市の中だと錯覚させるほど整えられた空間だ。

 地面には白いタイルが敷き詰められ、街灯と街路樹が並ぶ道の中心には、大きな噴水が澄んだ水を湛えている。

 青空を白い雲が彩るように流れ、燦々と陽光が降り注いで眩しいほどだ。


 奇妙な部分があるとすれば、周囲には建物が見当たらず、これほど華やかな広場だというのに人の気配すら感じられないことか。

 ヴァルハラの現状を思えば当然なのだが、どこか物悲しく、それが同時に絵画に描かれた芸術的な感動を覚える光景だった。


「きれい……」


 ぽつりと聞こえた声に、ちらりとバルトロメウスが視線を外から戻せば、イーリスもまた感嘆の溜息を漏らしているところだった。

 塞ぎ込んでいた娘が久しぶりに見せた感情は、これだけでも連れて来た甲斐があったと、そう思えるほどだ。


 しかし……まだまだ終わらない。

 ダンジョンテーマパーク『ヴァルハラ』は訪れた者を、心から楽しませてしまう場所なのだ。

 このダンジョンの主、アルマが望むのは曇り一つない笑顔である。

 であるならば、こんなものはヴァルハラにとって前座にすら入らない。

 その魔性の魅力が、新たな来場客となる少女に披露されようとしていた。






「――ようこそ、私のダンジョンテーマパーク『ヴァルハラ』へ」


 大型ホテル一階のロビーに集まった面々を前に、ボクは杖を手にしながら、お決まりの決めセリフで決める。

 もちろん衣装も、前に作った和洋折衷の白い巫女装束だ。抜かりはないよ。


 前に見たことがあるゲオルクやギルマスは、なぜだか呆れるような目で見ていたけど、金髪の領主さんっぽいおじさんと、車イスの女の子、他にも騎士みたいな鎧姿の人たちと、メイドさんたちは驚いたみたいだ。


 なぜこんなことをしているのかと言えば、元々はゲオルクが連れて来る領主さんを出迎えて、用意した大広間で会談を行う予定だったんだけど……。

 どうせ正装するならダンジョンの主っぽく振る舞おうと思い立ったのである。


 そしてそして、さらに楽しんでくれるように演出も加えてみたのだ!


「さあ、這い寄り出でよ! ヴァルハラに潜みし怠惰なる十一の獣たちよ! この者たちに……えーと、その本性を見せつけよ!」

「お嬢ちゃんはなにを言ってるんだ?」


 ゲオルクの呟きはさておき、ボクの呼びかけに応えてヌマネコちゃんたちがあちこちから飛び出した。

 いったいどこに隠れていたのか、呼んだボクにすらわからない。

 あるヌマネコちゃんは天井からしゅたっと飛び降りたり、あるいは壁からにゅっと現れたり、ボクのスカートの中からとことこ出て来たりする。いつの間に。


 ――にゃーん。


 そうして揃ったイレブンキャット。各自ごろごろしたり、毛づくろいしたり、空中の一点を見つめたりで実にフリーダム。


「まだ終わりではない……羽ばたき出でよ! 楽園の白き守護獣たちよ!」


 続けて呼び出したのはぶっ飛び兎たちだ。

 さすがにヌマネコちゃんほどフリーダムではなく、入口からぴょんぴょんと静かに入場する。あまりに静かすぎて、みんなの足元に到着するまで誰も気付かないほどだった。羽ばたいてよ。


「そして新たに生まれ出でし、猛り狂うワンオーワンの魔犬たちよ!」


 今度は一転して、奥の扉からどどどどっと騒がしく押し寄せてきた……ボクに向かって。


「ちょ、ちょっと待ってくださ……うわわっ!?」


 津波のように群がるのは『送り犬』という犬型モンスターだ。

 本来はこっそり人間の後を付け回し、油断したところを襲うらしいけど、ボクが作ったら普通の犬みたいになってしまった。

 いつもじゃれ付いてばかりで、あまり言うことを聞いてくれないのが欠点だ。

 しっかり思いを込めて魂が宿っているから仕方ないけども……。


 ちなみに種類は、柴犬やコーギーなど色々イメージしたけど、ちょうどリゼちゃんがホットドッグを片手に見物していたからか、この犬たちは発熱して燃え上がる特殊能力を持っていた。そうはならないでしょ。


 あと、このホットドッグたちの数は百一匹いる。

 理由はもちろんアレだ。犬と言ったら忠犬とフランダースと百一匹しか思いつかなかったんだよね。

 ともあれ、このワンワン部隊を前にして立っていられる者はいないのだ。


「お、重いぃ……」


 尻尾を振るホットドッグたちに圧し掛かられて倒れたボクに、いくつもの視線が突き刺さる。


「あー、領主様。これが『ヴァルハラ』のダンジョンマスターのアルマです」

「ふむ……これはこれで紹介する手間が省けたと思うべきか?」


 ゲオルクの投げやりな紹介に続いて、ギルマスも諦めが混ざった声で呟く。

 肝心の領主さんは怪訝な目で見ているけど、車イスの女の子からはくすくすと小さな笑い声が聞こえた。


 そこへヌマネコちゃんたちの一匹、シロヌマネコちゃんが近寄って、ぴょんと膝の上に飛び乗った。

 一瞬だけ騎士の人たちが動きそうだったけど、女の子は僅かに驚いただけで、すぐにゆっくりとシロヌマネコちゃんを撫でてあげる。


「ふふっ、あたたかい……」


 すると領主さんの目付きも柔らかくなって、どこか見守るような視線を車イスの女の子に向けていた。

 さっきまでの冷めた空気がウソのようだ。


 なんかよくわからないし、思っていたのと違う状況だけど、良い雰囲気になっているから、とりあえず大成功かな?

残念ながら今回でストックが切れてしまいました。

次から投稿は遅くなってしまいますが、ご了承ください。


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