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23 お迎え準備

 アルヴィトを作ってから一週間が経った。

 その間に色々なことがあったけれど、慌ただしく過ごしたせいか、あっという間だったような、とても長く感じられたような……うん、大変だったね。


 なにが起きたのかと言えば領主さんの件だ。

 とりあえず順番に、この一週間のことを軽く振り返ろう。


 まず最初にゲオルクから連絡の後、ボクは冒険者ギルド支部に行って詳しく話を聞いた。

 それによると冒険者ギルド本部から手紙で、この辺りの都市や村々を治めているバルトロメウス・フォウ・グランツシュタイン伯爵が、ヴァルハラを視察に訪れるので準備をするように連絡があったのだ。

 伯爵とか言われてもピンと来ないけど、要するに偉い人なのは間違いない。


 しかし、どうして急に視察なんて話になったのか?

 これはギルド支部でも寝耳に水だったので、ギルド本部のギルマスさんに手紙で問い合わせていた。

 こういう時、すぐに連絡できる手段がないのは不便だなと改めて思う。


 手紙の返事が届くまで早くとも一日。遅ければ二日はかかるので、その間にするべきことをしておく。

 というのも最初の手紙には、ギルド支部も協力して貴族が宿泊できる部屋を用意しておくだけでいい、などと書かれていたのだ。

 ……まあ、ゲオルクやギルド支部の職員さんたちは誰も信じなくて、どうやってお持て成しするかの会議で大騒ぎだったけども。


 部屋はとりあえずダンジョンの主の仕事だったので、いくつか助言を貰いながら準備をしていたんだけど……問題はその翌日に起きた。


 なんと追加の若手冒険者たちが、予定より早く来てしまったのである。

 訓練所の卒業者からヴァルハラの評判を聞いて乗り気になったとかで、予定を早めたらしい。

 本来なら喜ぶべき場面のはずなのに、この忙しい時に人手を割かなければならなくなってしまい、さすがにゲオルクも苦笑いだよ。

 とはいえ放っておくわけにもいかないので、なんとか案内や説明のために職員を割り当てて、訓練所も視察に備えて平常通りに動かしている。


 ちなみに今回は二十人も増えて、残っていた冒険者と合計で四十人になった。

 前が三十人だったから、そこから十人も増えたことになる。


 一応、宿舎の部屋数には余裕がある。

 訓練に関しては監督役であるゲオルク次第だったけど、本人が問題ないと断言していたので本当に心配いらないみたいだ。


 ただアトラクションやアスレチックを利用した訓練をする際、順番待ちが長くて効率が悪くなってしまうとゲオルクから相談を受けた。

 まるで本当の遊園地みたいだね。


 アトラクションに関しては座席にも限界があるし、同じものをいくつも増やすわけにもいかないので、一度にひとつのアトラクションに集中しないようにお願いしておく。

 いずれは、もっと人が増えるからアトラクションの種類を増やさないといけなくなるだろうけどね。

 最終的には長蛇の列が形成されそうだけども……その時はその時だよ。


 それよりも先に対応しないといけないのはアスレチックだ。

 同時に進もうとするのは危ないので、原則としてひとりずつ挑戦させている。

 前の人が失敗するまで、次の人がスタートできないので、これも全員が一回ずつ挑戦するのに時間がかかってしまうんだよね。


 なので構造を少し組み替えて、すぐ隣に同じコースを用意した。

 これなら二人ずつスタートできるので待ち時間は半分になる。同時にスタートして競い合ったりできる。

 もっと人数が増えたらコース数もさらに増設するけど、今はゆっくり作っている余裕がないので、とりあえず完成にしておいた。


 訓練所のほうは問題なくなったので、続けて第六階層の大型ホテルだ。

 元々ギルドの人や、冒険者向けに用意していたホテルだけど、宿舎を併設することになったので、いらない子になってしまっていた。

 今こそ、日の目を見る時だ。


 ギルド支部の職員さんにも立ち会って貰ったけど、ここなら貴族の滞在先としても問題ないと確認できたので安心したよ。

 ただ細かい部分を作り直したり、装飾を追加したりで調整が続いたから、なんだかんだで期限ギリギリまでかかってしまったけど、文句の付け所のないホテルが完成したはずだ。






 そんな感じで慌ただしく迎えた本日……ついに領主さんがやって来る。

 ギルマスから手紙の返事も届いていたけど、やっぱり気楽に構えていいとか、心配いらないとか、そんなことばかり書かれていたらしい。

 逆に不安になっちゃったゲオルクたち職員の面々は、冒険者ギルド支部のロビーに集まって、ちょっと具合が悪そうな顔を見せていた。主に胃の辺りが。


「ポーション飲みますか?」

「……ああ、悪いが頼もう」


 他の職員さんにもサービスでポーションを配ると、一口で顔色がみるみる良くなって行く。胃に直接だから効果は抜群だね。

 でも、そろそろ領主さんが到着する頃だから、根本的な解決にはなってない。


「どうしてギルマスさんは手紙に詳しく書いてくれないんでしょう?」


 書いてくれないから、こんなことになっているのに。


「む、そうか、お嬢ちゃんは理解していなかったのか……いや、説明しなかったのが悪かったな。あれは書かなかったのではなく、書けなかったんだろう」

「どういう意味ですか?」

「つまり領主様に口止めされている。理由はわからんが、なにか内密にしておきたい事情でもあるのか、またはお嬢ちゃんを試すつもりなのか……」


 なるほどー。だからゲオルクたちは緊張していたんだね。


「お嬢ちゃんはずいぶんと余裕があるな」

「そうですか?」


 言われてみれば、この一週間ボクは忙しかったけど緊張とは無縁だった。


「ボクはボクにできることを精一杯やるだけですからね。それは最初から変わりませんよ!」

「そうだったな。お嬢ちゃんは最初からそうだった」


 謎の納得をされてしまった。

 でも、少しだけ張り詰めていた空気が変わったかな?

 緊張が解れたなら、なによりだよ。


『支部長、領主様の馬車が見えました!』

「来たか……」


 通信機能付きの懐中時計を貸しておいた職員さんからの連絡だ。

 いよいよ来たらしい。


「じゃあ行って来るが……お嬢ちゃん、段取りは覚えているな?」

「まずはゲオルクさんたちがお出迎えして、ボクは第六階層のホテルで待っていればいいんですよね?」

「ああ、少し案内で遅れるかも知れんが頼んだぞ」


 そう言ってゲオルクと職員さんたちは、領主さんを出迎えるために揃ってギルド支部を出て行く。


 ちなみに、他のギルド支部の人たちは行かない。

 一緒に出迎えなくていいのかなって思うけど、元々は冒険者ギルドのギルマスが領主さんにあれこれ報告していたそうなので、同じ冒険者ギルド支部のゲオルクたちに一任されたのだ。


 もっと有り体に言ってしまうと、どんな苦言が飛び出るかわかったものじゃないから、今は領主さんに関わりたくないのが本音らしい。

 まあ、あまり大勢で押しかけても邪魔になっちゃうし、どちらにせよゲオルクたちに任せるのは正解かも知れない。


 さて、ボクもそろそろ移動しないと。

 第六階層へ行く前に、まずは着替えるのだ。

 偉い人と会うんだからダンジョンの主として、きちんと正装するべきだよね。

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