19 アルマのワンダーなダンジョン作り1
直通エレベーターは不具合もなく動くのを確認したので、続けて順調に同性能のゴーレム十体を造り、地上へと送り出す。
これで道の整備に関してはワンダ君に任せれば大丈夫だ。
……と、思っていたらワンダ君が戻って来た。
街の方角や、道の幅などをどうするか教えて欲しいみたいだ。
うん、まったく考えてなかった。
本当に申し訳なく思いながら謝ると、ひとまず周辺の調査から始めるとワンダ君は自分から提案してくれる。
ボクも頭を捻ってみたけど、残念ながら良案は思い付かない。
せめて鳥型モンスターを飛ばして上空から偵察とか、獣型モンスターが地上を駆けて地理を把握とかできたら楽なんだけど、モンスターは細かい指示まで覚えられないみたいなんだよね。
だからこそワンダ君みたいな指揮官が必要になるわけだ。
でもワンダ君の種族は魔界を放浪していたおかげで、散策は得意だから任せて欲しいと、ちょっと誇らしげに頷いている。
ボクは逆に、そういう技術を身に着けなければならなかった過去が悲しく思っちゃうけど、なにも言わずにお願いすることにした。
昔は昔で、今は今だからね。
これからもワンダ君を雇い続けられるように、ボクは立派なダンジョンテーマパークを頑張って作っていこう。
そんなわけでダンジョンの入口を改造した。
一番最初に目に入る場所こそ、清く正しく美しくするべきだ。暗くて汚いテーマパークなんて、いくらダンジョンでも認められない。第一印象は大事だよね。
まず幅を広く、天井も高くして馬車が入りやすくなっている。
具体的にはすれ違えるように、三台が横並びになっても余裕があるくらいにしてみた。そして閉塞感がないように天井は五メートルほどで見ておく。
駐車場の面積は長さを正確に計れる物差しが存在しないから、相変わらずてきとうだけど、大体百メートルほど確保した。
これでも足りなければ、また拡張すればいいからね。
もちろん階段だけではなくスロープを併設するのを忘れない。
緩やかな坂にしたので、どんなに非力な馬でもロバでも人でも楽に上り下りできると思う。……できなかったら大型エスカレーターの設置も考えよう。
あと下の階層に用がある人のために、馬車のまま階層を移動できる大型エレベータも複数追加する。
乗客が行き先を選べるけど、ここから行けるのは特定の階層のみだ。
というのも第二階層の地底湖は第一階層と一体化しているし、第五階層はダンジョンで働くスタッフ用の施設にするつもりだから、そこに繋げる意味がない。
選べるのは第三階層の冒険者ギルド(予定)と、第四階層の神殿(予定)と、そして第六階層にこれから作る予定の大型ホテルだけだ。
もっとも、まだ第三から第六までは階層を用意したばかりで、今はなにもない荒涼とした更地が広がるだけなんだけどね。
それから……第五階層は、ちょっとボクの趣味に走っていたりする。
半分の面積を通常の従業員用宿舎として確保し、残りの半分を和風な旅館に仕立てる計画なのだ。
まあ、これはあくまで予定だけど、建物は朱色に染められた木造で、渡り廊下の左右には丸くて優美な提灯が吊り下げられていて、障子張りの部屋からは水車を回して流れる透き通った玉泉が一望できる。
つまり和風は和風でも、和風ファンタジーに登場する幻想的な旅館だ。
ダンジョン自体が洋風だからね。和風な場所くらい作ってバランスを取りたくなるんだよ。たぶん。
本当にボクの趣味でしかないから、後回しにするけども。
優先すべきは、第六階層に建設する大型ホテルだ。
こっちも、すでにイメージは固まっている。
エレベーターを降りると、まず目に入るのは広い噴水広場で、ここはちょっとした憩いの場としても活用できるはずだ。
噴水広場を回り込んで進むと、そこで大型ホテルが来客たちを出迎える。
コの字を下向きに変えた感じで正面棟、東棟、西棟による三棟の構成だ。
高さは三十階まであって、一階につき、だいたい二十部屋ある。その内訳はひとり部屋と二人部屋、四人部屋が合計で六百室ほど用意されているから、単純に考えても六百人以上が宿泊できる計算だ。
部屋にはトイレとシャワールーム、エアコンといった基本的な設備が揃えられているから、快適に過ごせることは間違いない。
ただヨハンから貴族向けの高級宿の話を聞いて、そういう特別な部屋も用意しておくべきかなと思い付いて、最上階から数えて三階まで高級志向にしてみた。
最上階は十部屋がロイヤルスイートで、下の二十部屋がスイートルームだ。
まだ細かい内装までは手を付けてないけど、お金持ち用なので一切の妥協はしないつもりである。
そんな人が来るとは思えないから、ただの自己満足だけどね。
当面の宿泊者は冒険者と、そのギルドの人たちだけになるはずだ。
続けてレストランや浴場をホテル内に作って行くと、なんだか思ったよりスペースが余ってしまった。
こういうホテルって、他にどんな施設があるんだろう?
お土産を置く売店は雰囲気に合わない気がするけど、とりあえず作るだけ作っておくとして、それでも結構なスペースが空っぽのままだ。
これは……いずれ使い道が見つかると信じよう。
そんなことより、このホテルの目玉のひとつが建物の裏側にある。
裏口にあるオープンテラスから一望できる大庭園だ。
もはや迷路と言っても差支えない広大さで、色とりどりの鮮やかな花が咲き誇っている庭を眺めながら散歩を楽しむもよし、お茶を呑みながらゆっくり読書を嗜むもよし、軽くお菓子を食べながら友人と談笑するもよしである。
完成したら、そのうちボクも誰かと通って優雅に過ごしてみたいね。
なんて思いを馳せていたらワンダ君がダンジョンに戻った気配を感じた。
モンスター作成室まで迎えに行こう。
ワンダ君から報告を聞かされる。
ダンジョン周囲に広がっている森の景色そのものが、思念となって脳内に送られるから言葉で説明されるよりも感覚で理解できる。百聞は一見にしかずというやつだね。
どうやらワンダ君は人が通った形跡を見つけて、だいたいの街の方角に見当を付けたみたいだ。
荷車の轍もあったから、必要となる道幅を測って割り出せたようで、すぐにでも工事が始められるという。
いつの間にかゴーレムの扱いも慣れたみたいだし、もしかしてワンダ君ってすごく有能なのでは?
でも、もしボクのダンジョンを知らない人間に見られたらモンスターの侵略にしか映らないから、すぐにダンジョンまで逃げるよう注意しておく。
一番大事なのは従業員の安全だからね。
それに今日はもう遅い。
作業は終わりにして、ゆっくり休もう。
たっぷり英気を養ってこそ、次の仕事に身が入るのだから。
ゴーレムをすべてダンジョンに戻して、ボクはワンダ君を第五階層の小ホテルに案内した。前に作ったのを移動させたやつだ。
まだ他に誰もいないから寂しいところだけど、なぜかワンダ君は喜んでいるようだったので理由を聞いてみる。
『――――』
「え、床に雑魚寝すると思ってたんですか? なんで?」
他のダンジョンだと弱小魔族は扱いがぞんざいなのも珍しくなく、ダンジョンの隅っこにある小部屋に放り込まれるくらいが当たり前らしい。
それを覚悟して雇われたいほどエネルギーには魅力があるみたいだ。
ダンジョンと魔族の関係は、完全に買い手市場になっているのか。
「でもボクのダンジョンでは関係ありませんし、ワンダ君は今日もしっかり働いてくれましたから、遠慮しないでくださいね」
『――――』
感謝の念を受け取って、ボクはホテル内の施設を説明する。
ただ、エネルギーが供給されるダンジョンでは食事の必要性がないから、キッチンや食堂を使うつもりはないようだ。
事実、ボクも物を食べなくても生きていけるんだけど、どうせなら美味しいものを食べたほうが楽しいので三食欠かさず食べている。
せっかくだからワンダ君にも美味しい料理を知って欲しいな……。
無理強いも良くないし、環境が整ってから改めてオススメしてみよう。
現状だとボクが作れる料理も限られるからね。まあエネルギーで直接っていう手もあるけど、まだそこまで余裕もない。
贅沢はエネルギーがもっと増えたらの楽しみにしよう。
「そういえばワンダ君は受け取ったエネルギーを仕送りしてるんですよね?」
たしか仲介屋から、そんな話を聞いた覚えがある。
「正直なところ……足りてます?」
『――――』
「そうですか……」
透明人間の彼らは、他の魔族から迫害されている関係上、時には荷物すら捨てることで身を隠し、食料と安住の地を求めて魔界の各地を放浪している。
今はワンダ君をボクのダンジョンで雇っているから、これからは仕送りのエネルギーで改善されるだろうけど、まだまだ不足気味らしい。
ちなみに魔族にとってエネルギーは食料になるけど、その希少性から通貨としても使用されているそうだ。
つまり生活に必要な物を購入するのにも役立つわけで、例え食が足りていても多くあって困る物じゃない。
「じゃあワンダ君のお給料をもう少し……」
『――――』
「え、でも……」
給料アップと言おうとしたら、先にワンダ君にお断りされた。
彼の言い分としては、すで十分な報酬と待遇を得ているから、これ以上の特別扱いは気が引けてしまうのだとか。
でもボクとしては毎月たったの千エルだし、倍の二千エルくらいあげてもいいと思ってるんだよね。
「ワンダ君がそう言うのであれば……」
やっぱり無理強いはよくない。
本人が自信を持って納得できるようになったら、また切り出そう。
ブックマークが100人を超えました!
ありがとうございます! これからもよろしくお願いします!




