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18 ナンデモニウム2

「わんだー?」

見えない(インヴィジブル)放浪者(ワンダラー)です』


 聞き覚えがまったくないので説明をお願いする。


『特定の住処を持たない種族です。これは種族としての特性ではなく、単純に他の種族から嫌われており、どこに行っても追い払われているからです』


 魔族同士でも仲が良くない種族がいるのは知っているけど、すべての種族から迫害されるなんて、よっぽど評判の悪い魔族なのかな?

 ボクがそう聞いてみると、真相は少し違った。


『これといって悪さはしないどころか、彼らは戦いを避ける臆病者と言われております。事実、戦闘能力は低いため他種族に見つかると逃げる他ありません』

「今までよく無事でしたね」

『はい、これが最大の特徴なのですが、彼らは姿が見えません』

「見えないって、どれくらいですか?」

『完全に見えないと聞いております。ですが衣服を身に着けたり、あるいは武器を手にすれば一目瞭然ですので、それが有利に働くことは稀のようですね」


 ボクの中でのイメージは、完全に透明人間で固定された。


「また、彼らは言語ではなく感情や思念をテレパシーで送るという独特なコミュニケーション方法を取るのも嫌われている理由です。喋らないため、どのような会話をしているか他人からは聞き取れないので不気味という声が大きいようです』


 まとめると、透明人間のワンダーたちは争いを好まない。

 だけど周囲の魔族からは姿が見えないし、声も聞こえないから、なにか悪さをされるんじゃないかって恐れられて、発見されると追い払われてしまう。

 その結果、弱いワンダーたちは各地を放浪するようになった。

 魔界では居場所を勝ち取るのが当たり前な風潮もあるそうで、そういった弱腰な姿勢も一部の武闘派魔族から嫌われているみたいだ。


『仲介ダンジョンとしましては、どのような魔族でも申し込まれたら登録し、条件に合う主の皆様へ紹介する決まりとなっておりますが……こちらの種族は正直に申しまして強くおすすめできません』


 はっきり言って透明なだけが取り柄で、ほぼ人間の非戦闘員と同じ程度の強さみたいだ。

 戦いが苦手なのも致命的だし、雇いたいっていうダンジョンは、まず存在しないんじゃないかな。


 ……だけど、それがいい。

 争いを好まない性格こそ、ボクがもっとも求めていた素質だと今なら言える。

 少なくとも首を引きちぎる魔族より、よっぽど適しているよ。


「その魔族を雇いたいです」

『え、よろしいのですか?』

「お願いします!」

『かしこまりました。では相手側の条件を確認させて頂きます』


 驚きながらも淡々と仕事をしてくれる。

 でもちょっと喜んでいる雰囲気があったから、たぶん不良在庫を引き取ってくれてラッキーみたいなことだと思う。


『まず派遣される魔族への初期費用として千エルをお支払いし、その後は毎月千エルが条件となっております。これは働き具合によって本人と相談して下げることもできますし、逆に上げるよう交渉されたりもします』


 エルってなにかと思えばエネルギーの略か。

 それにしても毎月たった千のエネルギーで雇えるなんて、ずいぶん安いね。


「戦闘はしない、みたいな条件は付けられてないんですか?」

『その条件では誰も雇ってくれませんから、付けたくても付けられないのではないでしょうか。通常でしたら細かく戦う場所や時間、ダンジョンの危機に際してどこまで体を張るかを取り決めますが、恐らく彼らは困窮しているので過酷であってもエネルギーを得られる道を選んだのでしょう』


 なにそれ辛い。悲しい。

 つまりこれから雇うのは一族を代表して出稼ぎで来るってことだよね。

 ボクのダンジョンでは優しくしてあげよう。


『それと仲介料が百エルです』

「安いですね」

『基本給が千エルですから規定通りですよ』


 一割を仲介ダンジョンに追加で支払うってことなのかな。

 もっと高い魔族だと……例えば十万エルも支払う場合は、仲介料も含めて合計で十一万エルの支払いになるわけだね。

 まあ仲介料は最初だけだから、そこまで大きな負担ではないけど。


『この条件で合意しますか?』

「大丈夫です」

『お支払いを確認次第そちらへお送りします。エネルギー計測装置でご確認ください。ご利用ありがとうございました』


 そこで通話が切れてしまい、どうやって支払うんだろうと思ってたら勝手にエネルギーが減っていくのを感じた。

 どうやら自動引き落としみたいだ。

 言われた通り計測装置のメーターを確認したら、ちゃんと千百エルが引かれていたので間違いない。

 なるほど、これがなかったら後から条件よりも多く奪われたとか、文句を言うダンジョンの主もいるわけか。

 悪質なクレーマーはどこにでもいるんだね。


 ところで、どうやって魔族は来るんだろう?

 なんとなく宅配便を想像して、鳴るはずのないインターホンを部屋でそわそわしながら待っていると、不意に何者かの気配が現れた。


「わっ」


 振り向いてびっくりした。

 なんと部屋の中心に、穴だらけでボロボロな灰色の布を頭から被る幽霊みたいなのが立っている。ボクの身長だと下から見上げる形になって、空っぽの中身が見えるから余計に怖い。

 まさか送るって、ここに直接なの?


「えっと、ボクが雇った魔族さんですか?」

『――――』


 声による返事はなかった。

 代わりに思いが伝わってくる。どうやら当たっていると言いたいみたいだ。

 そういえば言葉じゃなくて、感情や思念を伝えるコミュニケーションって言ってたのを思い出す。これがそうらしい。

 なんだか不思議な感覚で慣れるのに時間がかかるかも。


「えっと、ボクがダンジョンの主であるアルマです。よろしくお願いします」

『――――』

「え、名前はないんですか?」

『――――』

「自由に呼んでいいと……」


 名前がないと不便だから、ボクが名付けさせて貰おう。

 ちなみに種族的に性別がないみたいだから、なんとなく男の子だと思って考えてみた。といっても単純だけど。


「じゃあ、ワンダ君って呼んでいいですか?」

『――――』

「わかりました。まずワンダ君にはボクのダンジョンについて教えるところからですね。お仕事も一緒に説明します」

『――――』

「戦うのは苦手でごめんなさい? 大丈夫ですよ、知ってて雇ったんですから」


 ボクは不安と申し訳ない思念が伝わってくるワンダ君に、ダンジョンテーマパークの目的と、今後の方針について教える。

 ついでにダンジョンも軽く案内して、人手が足りないボクのお手伝いをして欲しいと頼んだ。


『――――』

「そうですね、人間とは敵対しません」

『――――』

「うーん、だからって別のダンジョンと戦うとか、魔族を攻撃したりなんてしませんよ。一番いいのはみんな仲良く楽しく暮らせることですね。難しいですけど」

『――――』

「いやいや、そんなに褒めてもなにも出ませんよ。アメいります?」


 ワンダ君はボクの目指すダンジョンテーマパークが気に入ったのか、何度も称賛する思念を飛ばしてきた。アメはいらないみたいだ。

 でも共感してくれるのは嬉しい。

 争いが苦手ならボクのダンジョンでも嫌がらずに働いてくれそうだと考えてたんだけど、これなら安心して任せられそうだ。


「ところで、その服はなにかこだわりがあるんですか?」

『――――』

「特にない? 他に着るものがないだけ?」


 もし好んでボロボロの服にしているんだったら悩むけど、本人が気にしてないなら新品で綺麗な服をプレゼントしよう。

 これはワンダ君のためというより、ボクのダンジョンで働く以上は見た目にも気を使って貰わないといけないからね。


「というわけで、これ作ったので着替えてみてください」


 ボクが渡したのはパッと見たら人間に見える服一式だ。

 透明のままだと誰もワンダ君が近くにいるって気付けなくて困るからね。

 ちなみにボクはエネルギーの関係から、どこにいるかはバッチリだ。ダンジョンの中だけの限定だけど。


「おぉー、想像していたよりも似合ってますよ」

『――――』


 照れるワンダ君だけど、暗灰色のロングコート姿は本当に似合っている。

 実用的で無骨なブーツとグローブを覗かせ、首元からは赤銅色のマフラーをなびかせている。そして頭には深く被った三角帽子。

 なんだか別の魔族みたいになってしまったけど、これならワンダ君が目の前にいるって一目瞭然だ。


「あと、一応なにか護身用の武器とか持っておきますか?」

『――――』


 いらないみたいだ。

 持っていても、まともに使える自信がない。そんな悲しい感情が伝わる。

 ノコギリ鉈とか、車輪とか似合いそうなんだけどな。

 もし本人にやる気があるなら、冒険者ギルドの訓練所で一緒にトレーニングしてみるのもいいんじゃないかな?

 その前に、まずはお仕事だけどね。


「さて、ワンダ君には急ぎでやって欲しい作業があります」


 それこそが先に魔族を雇った理由だ。

 外に出られないボクの代わりに、ワンダ君にはダンジョンの周囲にある森の伐採と、道の整備を頼みたいのである。

 そう説明すると、困惑した感情が伝わって来た。


『――――』

「安心してください。ちゃんと考えていますよ」


 もちろんワンダ君ひとりで、そんな大規模な工事ができるとは思ってない。

 あくまでボクの代わりに、現場で指揮を執れる人材が欲しかったのだ。


「ちょっと待ってください。奥にモンスター作成室を作るので」


 場所をどうするか少し悩んだけど、どうせボクしか使わないんだからエネルギー計測装置が設置されている部屋の隣に、新しい部屋を繋げる。

 モンスター作成室は、特殊な魔法陣を床と壁、そして天井にも描かれていないと意味がないから、どうしても専用部屋になってしまうんだよね。

 あと部屋の広さによって作れるモンスターのサイズも変わるけど、最初から特大サイズのモンスターなんていらないから、ボクの部屋と同じくらいにしておく。


「早速、試しに作ってみますね」


 ワンダ君を下がらせて魔法陣の前に立ったボクは、深く集中してイメージする。

 すると脳内にモンスター作成図の一覧が、明確な映像として浮かんだ。

 この図鑑めいた作成図はダンジョンの主だけが所持するテンプレートで、ここに描かれている通りにイメージすれば、そっくりそのままの能力を持ったモンスターが作成できるわけだね。


 もちろん、完全オリジナルモンスターを作ることも可能だけど、上手に設計しないと歩くことすらままならない、名状しがたい失敗作が生み出されてしまう。

 だから基本はテンプレート通りで、少しアレンジするのが楽でいい。

 まあ今回は、完全に作成図のままにするけどね。


 イメージするのは力強く、頑丈で、岩石に覆われた巨人。

 その全体像が上手く浮かんだら、エネルギーを魔法陣に注ぎ込む。

 ここで注ぐ量が多いほど強い個体になるみたいだけど、戦闘用じゃないから自然と流れるままに任せる。それが最低限の量だ。

 上下左右、すべての魔法陣が明滅すると光の粒が放出される。

 徐々に部屋の中心へと集まって渦を形成し、やがてひとつの姿を象っていく。


「初めて作ったけど、特に問題ないかな?」


 魔法陣の上に立っているのは岩石の巨人ゴーレムだ。

 巨人といっても大きさは二メートル半くらいで、もっと大きいサイクロプスとかアトラスほどじゃない。あっちは五メートルから十メートル級とかいるからね。

 まあ大きければ大きいほど、ダンジョン内では運用が難しいけど。


「あと数体ゴーレムを作るので、そうしたら外に出て……あれ?」


 ふとゴーレムを見て、部屋の扉を見た。見比べる。二度見する。

 もしかして出られない?


「ちょっと待ってください! いま考えるので!」


 後ろからワンダ君の視線を感じたので、慌ててボクは頭を回転させる。心なしか意思のないはずのゴーレムの視線も冷めている気がした。

 とにかく外に出せればいいんだから……そうだ。


「ぬぅんっ!」


 モンスター作成室の壁を左右に開くようにして、そこに地上へ直通の大型エレベーターを設置した。

 まるで地下に格納されたロボットを射出する昇降機みたいだ。

 でも、これで作ったモンスターをすぐにダンジョンの外へ出せるようになったから便利だと思うよ。うん。


「えっと試しにワンダ君もここから出てみてください。ボクはゴーレムを作ったら次々に送りますね。それで作業を始めてください」

『――――』


 こんないい加減な指示にも快く従ってくれるなんてワンダ君は優しいな。

 彼を雇ったのは大正解だったみたいだ。

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[一言] 地下、狩人…うっ、頭が…
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