16 冒険者ギルドの調査6
「次はここです!」
すっかり職員さんたちも復活したので、続けて次のアトラクションへとやって来たボクたち。
こっちもバイキングと同じく新設したものだけど、見た目が似ているからかリーゼロッテちゃんの反応が薄い。
「……同じ?」
「そう見えますけど、新しく作ったのでちょっと違うんですよ」
まあ搭乗口も同じ場所だから、実際に乗らないと違いがわからないけどね。
だけど、これはジェットコースターの亜種版、スプラッシュでマウンテンなジェットコースターなのである!
「ところで今回は誰が乗るんです?」
「……ぬん」
「俺も当然だな」
細くて華奢な腕でマッスルなポーズをするリーゼロッテちゃん……ギルマスさんの影響かな?
それと、さっきも楽しんでいた当のギルマスさんも軽く挙手する。
「職員さんたちはどうしますか?」
「え、えっとぉ」
「私たちはちょっと……」
「なんだぁ? まさか断るのかお前ら?」
「そんなこと言われましても、こっちは非力な職員でして……」
「そーですよギルマス! 冒険者の方たちだって避けているんですよ!?」
「あっ、言っちゃった」
「うぐっ」
腰が引けている職員さんたちだったけど、ギルマスさんの煽るような言葉に、売り言葉に買い言葉というのか、ぽろっと事実を突き付けてしまっていた。
つい釣られてボクも呟いたのが効いたのか、どこからか呻く声が聞こえる。
「まあたしかに、このまま俺たち冒険者が乗らないのも示しが付かんな」
「おいおいゲオルク……マジかよ」
「でも僕たちが見ているだけで、職員のみなさんに任せるのも……」
「こ、これは私も乗らないといけない流れなのでしょうか……」
ユリウス、ヨハン、ノーラさんが悲痛な顔をしていた。
さすがに見ていて辛いので、少し助け舟を出そう。
「あの、ボクは楽しんで欲しくて作ったので、その、どうしてもイヤだったら無理に乗らなくても……」
「くっ、んなこと言われたら乗らねえワケにはいかねえじゃねーか!」
「ぼ、僕も乗るよアルマ!」
「アルマさんがせっかく作ったのですから、私も楽しむ努力をしましょう」
「あれ?」
なぜか逆に乗る決意を固めてしまった。
ということは……合計で十人全員が乗ってくれるの?
これは、かつてないエネルギー収穫が見込めそうだ……ごくり。
「よーし! それじゃあ今回はボクも乗ります!」
「……アルマちゃんも?」
「せっかくみなさんが乗るのに、見ているだけなんて寂しいですからね!」
「……うん、一緒」
手を握って引かれるままに、ボクはリーゼロッテちゃんと並んで先頭の座席に向かう。座席は二人一組だからちょうどいい。
後ろにギルマスさんとゲオルクが続き、そしてギルド組と冒険者組は足取りが重そうにのそのそと動き始める。
最後尾は奇数であぶれたユリウスがひとり、決死の顔をして乗っていた。
あまり焦らさないで、さっさと終わらせたほうがよさそうだ。
「ん? なあ、お嬢ちゃん。誰がこいつを動かすんだ?」
「それなら大丈夫です。自分で試せるようにリモコン操作にしてあります!」
「りもこん? まあ問題ないならいいんだが」
「じゃあ出発しますねー!」
「や、やっぱりちょっと待っ……」
「いきまーす!」
なにか聞こえた気がするけど、もう押しちゃったので気にしない。
すでにジェットコースターはぐんぐんと加速して、正面で待ち構えるトンネルへと入って行く。まるで地獄へ通じるかのように禍々しい入り口だ。
しかも明かりのないトンネル内は見通しが悪く、どうなっているのか一切わからない。そんな中を搭乗者の気持ちなんて無視するようにジェットコースターはぐんぐん突き進み、いったいなにが起きるのかと不安がじわじわと浸透する。
その時、出口の光が視界に入った。
ようやく明るい場所に出られる、そう油断した瞬間……。
現れたのは真っ逆さまに落ちる崖だ。
そう、このトンネルから出た直後、目の前にレールはない。
あるのは急転直下の急降下コースである。
ちなみに向かう先は第二階層の地底湖だ。水面へ叩きつけられるように猛スピードで滑り落ちる瞬間は、何度か試しているボクでもヒヤッとする。
「――――ァァァァァァァ」
風を切る音に紛れて、後ろのほうから怨霊みたいな金切り声が聞こえる。
それはさておき、いよいよ湖面が近付いて来た。
ギリギリのところで弧を描くようにレールが持ち上がり、派手に水飛沫を散らしながら地底湖の上を滑走する。
「ひゃっほー!」
「……おー」
高速で水面を走るこの瞬間は、他では得られない爽快感がある。
ボクが両手を上げるのを見たのか、リーゼロッテちゃんも隣でバンザイして声をあげていた。
巻き上げられて白霧になった水が降りかかるけど、ギリギリまで調節したおかげで軽く濡れるだけで済んでいる。
最初の頃はずぶ濡れになっていたから、大きな進歩だね。
そうこうしている内にレールは地底湖の端を乗り越え、坂を上ると壁の中腹にぽっかりと開いた第二のトンネルへと突入する。
今度は明かりに照らされているので警戒することもなく進み、ぐんぐんと上って行けば……そこは終点である。
これで一周したので終わりだ。
以前のジェットコースターが縦横無尽に走り回るのに対し、このスプラッシュなコースターは地底湖へのダイブからの水上ストレート走行という一瞬にすべてをかけた特化型と言えるかな。
安全バーを上げて先に降りると、リーゼロッテちゃんに手を差し出して降ろしてあげる。
「どうでしたか?」
「……楽しかった。ありがとうアルマちゃん」
「いえいえ、リーゼロッテちゃんが楽しめたのならなによりです」
やっぱり怖がらせることはできなかったけど、楽しいならいいよね。
ちらりと後ろの座席に目を向ける。
「みなさんは、どうですか?」
「おお、こっちも楽しめたぞ」
「ほんの一瞬だけ肝を冷やしたが、終わってみれば悪くないな」
ギルマスさんは同じく、ゲオルクまで怖がりながらも楽しめたみたいだ。
「職員さんたちは……はっきり分かれてますね」
「そうですね、私は少し慣れたのですが……」
「絶対に安全だと知っていれば、幾分か楽でしたね」
四人の職員さんの半分は、バイキングと打って変わってケロリとしている。
問題は残りの二人なんだけど、こっちはしかばねだ。
「ヨハンとノーラさんも大丈夫ですか?」
「う、うん、僕もアルマが作ったなら安全だって思うと少し楽だった」
「私も前ほどの怖さはありませんでしたね。少し慣れたのでしょうか?」
大丈夫だった人でも慣れた派と、安全だと理解した派で分かれてるようだ。
普通に楽しむエンジョイ派もいるけど。
「あとユリウスさん……はダメですね」
微動だにしない。意識すらあるのか怪しい。
うーん、特別ユリウスだけが怖がりってわけじゃないと思うんだけど、やっぱり高所恐怖症なのかな?
「ダンジョンマスター殿、ひとついいだろうか」
「なんです?」
原因について悩んでいたら、ギルマスさんに声をかけられた。なにやら楽しそうというか、イタズラを思い付いたような悪い笑みを浮かべている。
「うむ、あのトロッコだが、冒険者の訓練に使えないかと思ってな」
「どういう意味です?」
「簡単に言えば恐怖に慣れさせたい。ダンジョンでは恐怖からエネルギーとやらを吸収して、モンスターが作られるのだろう? ならば、なるべく恐れることのない強靭な精神力を、ここで鍛えられたらと思うのだ」
なるほど。恐怖しない冒険者がダンジョン攻略に潜るなんて、これほどダンジョンの主にとって恐ろしいものは存在しないね。
「それと、これは初めてダンジョンに潜った冒険者にありがちなんだが、モンスターとの戦いやダンジョンの雰囲気に呑まれて、実力を発揮できなかったという報告が多くてな」
「そうなんですか」
戦いを知らないボクにはまったく理解できないけど、ギルマスさんの話からすると怖くて体が動かなくなるってことかな?
だからアトラクションに何度も乗せて恐怖を克服させると……。
おや? これってエネルギー大量獲得できるチャンスなのでは?
「あ、でもそんなたくさん急に来られても対応ができませんね」
今でさえ大変なのに、さらに倍や、それ以上が押しかけたらボクだけじゃ手が回らなくなってしまう。
「そうだな、そこでダンジョンマスター殿、ここはひとつダンジョン内に訓練所と併せて冒険者ギルド支部を作らせて貰えないだろうか?」
「えっと……支部って、どういうものなんですか?」
「そう難しい話じゃない。うちの職員が仕事をする場所をダンジョンに作らせて欲しいってだけのことだ」
つまり訓練所に訪れる冒険者の管理は、冒険者ギルド支部のほうで請け負ってくれるってことか。
そうなるとボクの負担は大きく軽減されるかな?
「それに支部があればダンジョンマスター殿が欲しがっていた手伝いも、そこから必要な数だけ派遣できるはずだ」
たしかに必要な時だけ、お手伝いさんが来てくれるのは助かる。
冒険者をよく知るギルマスさんが言うなら間違いはないと思うし、たくさんの人が来るなら文句なんてあるわけがない。
ダンジョンに冒険者ギルドがあったらダメなんて決まりもないからね。
「それならいいですけど……具体的にボクはなにをすればいいんですか?」
「なに、ギルドとして使える場所を提供してくれたり、あのトロッコを自由に使えるよう開放してくれれば十分だ」
場所なら作ればいいだけだから問題ないかな。
「えーと、じゃあ第三階層で足りますか?」
「階層……つまりあの広大な空間を丸ごとか? え、本気か?」
「特に使い道なんてないですし、エネルギーさえあれば十階層でも二十階層でも問題ないですからね」
つい勢いで第三階層なんて言っちゃったけど、まあいいか。
だってダンジョンテーマパークなんだし、ひとつの階層が丸ごと冒険者ギルドでもいいと思うんだ。
そうなると他にも色んな階層があったら楽しいかも?
今のところ、特には思い付かないけど……。
「そうだ。ギルドの建物とかも一緒に作ります?」
「お、おお、それならこっちで図面を用意しよう。頼めるだろうか?」
「わかりました! 任せてください!」
「あの、アルマさん……」
ギルマスさんとダンジョンに作る冒険者ギルドについて相談していると、ノーラさんがもじもじと申し訳なさそうな声で話に入って来た。
「ノーラさん、どうかしました?」
「非常に厚かましいとは思うのですが、その、小さくても構いませんので神殿の場所も用意していただけたら嬉しいなと……」
「いいですよ?」
「よろしいのですか!?」
ノーラさんの頼みなら断れないからね。
「でも建物とかよくわからないので、そっちも設計図が欲しいです」
「わかりました。戻ったらすぐに神殿と連絡を取りますね」
「あと広さは第四階層で足りますか?」
「ええ、もちろんです! ありがとうございますアルマさん!」
とてもいい笑顔でノーラさんは丁寧に一礼する。
喜んでくれてなによりだ。
ボクとしても、これで冒険者ギルドと神殿が存在するダンジョンになるから、安全性を考えれば大きなプラスになる。
ただ神殿は他にも三つの派閥があるみたいだから、これで絶対に安全とも言い切れないのが難しいところだ。
少なくともノーラさんの所属している神殿とは仲良くやっていきたいね。
それからもダンジョンの案内は続く。
普通のジェットコースターやフリーフォールにも乗って貰ったり、エレベーターで第二階層の地底湖にも行ってみたり、泳ぐ場所として提供するつもりですと解説したらいまいちピンと来ないのか賛同を得られなかったり……。
気付いたら、もう一泊していく流れになっていた。
さすがに一日で見て回るには、時間も説明も足りなかったみたいだ。
なによりボクも、もっとアトラクションに乗ってエネルギー確保に貢献して欲しいからね。願ったり叶ったりだよ。
恐怖のどん底に突き落としちゃうぞー! ふっふっふー!
……なんて思ってた罰なのか。
その夜、とうとうヨハンが絶叫マシンを克服してしまいました。
せっかくのエネルギー収入源が……なんて酷いことは言わないよ。うん。
だってボクのダンジョンを楽しんでくれるために、何度もジェットコースターに乗って吐きそうなくらい頑張ってたからね!
なので、その心意気を称えて、だいぶ貢献してくれたヨハンには感謝も含めてボクから記念品を贈ることにした。
「これは……まさか時計!?」
「うん、懐中時計。他に思い付かなかったんだけど、あげる」
ボクが用意したのは高級感あるクラシックなタイプだ。
丸い形をした手の平に収まる銀色の時計で、シンプルで飾りのないフタをぱかりと開ければ、そこにローマ数字が刻まれた文字盤が登場する。
……ちなみに、この世界でも一日は二十四時間だし、一月が十二回で一年だ。
細かい日付は違うっぽいけど、カレンダーを作るわけじゃないからイメージするのは簡単だった。
でも本当はテーマパークらしく、マスコットキャラクターのグッズにしようと考えていたんだけどね。肝心なマスコットを考えてなかったのに気付いて、シンプルな形に落ち着いたのだ。
喜んでくれるか不安だったけど……。
「あ、ありがとうアルマ! 絶対に大事にするよ!」
快く受け取ってくれたのでボクも安心した。
これなら記念品として、量産しても良さそうかな?
もっと色んなデザインも試してみよう。
TSの醍醐味のひとつは無自覚に魅了する所だと思います。




