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14 冒険者ギルドの調査4

「お嬢ちゃん、ちょっと話があるんだが、いいか?」


 食堂から抜け出すと、相変わらず甚平が似合っているゲオルクに出くわした。


「いいですよ。食堂は……騒がしいので外に行きましょうか?」

「ああ、別にどこでも構わない」


 それなら近くのベンチでいいね。

 ホテルを出て、ボクたちは街灯の明かりを頼りに歩く。

 見上げれば点々と小さな星たちが瞬いている。まるで本物の夜空のようで、本当に外に出たように錯覚するけど、まだダンジョン内だから変な感覚だ。


「どうも本物の空にしか見えんが、ここは本当にダンジョンの中なのか?」


 同じく空を仰いでいたゲオルクも、ボクと同じ感想を抱いたみたいだ。

 まあ外の空をそのまま投影させているから、ある意味では本物の夜空と言えるかも知れないけどね。


「もちろんです。ずっと明るいと夜とかわからないので、暗くして明かりを設置してみました」

「それはまた回りくどい上に贅沢な使い方だな」


 言われてみれば、わざわざ暗くして明るくするって変な話かも。

 でも寒い季節に暖かい部屋で、冷たいアイスを食べるのはおいしい。

 ……うん、やっぱりなにもおかしくないよね。

 近くのベンチに座りながらボクは納得した。


「そうだ、ゲオルクさんありがとうございます」

「うん? いったいなんだ?」

「冒険者ギルドのことですよ。おかげであっさり信用されましたから」

「あれは俺ではなくノーラの……」

「はい、そのことは聞きました。ウソを見抜けるなんてすごいですよね」

「そうか、お嬢ちゃんは怒っていないようだな」

「なにをです?」

「普通は勝手に嘘かどうか調べていたと知れば、なにを勝手にと糾弾してもおかしくないからな」


 ボクは気にしないけど、やっぱり気にする人はいるようだ。


「もしかしてゲオルクさんは……?」

「俺も特に気にしてないぞ。もちろんユリウスたちもな」


 てっきりパーティ内で不和が生じたのかと心配になったけど、まったくの杞憂だったみたいだ。


「これが面倒なやつだったら厄介なんだが、たいていの冒険者は嘘を見分けられるなら同じことをするからな。まあ、それであれこれ探られていたら話はまた別だったが、ノーラは自分から話を振ったりもしなかった」

「ですよね」


 ノーラさんは人の秘密を暴きたいとかじゃなくて、相手が悪い嘘をついていないか確認のために仕方なく使っていた感じだ。

 それでも納得できない人が文句を言うから、きっと聖女さまは秘密にさせているんだろうね。


「そんなわけで俺に礼は必要ないぞ」

「……でも、ボクはゲオルクさんにも言っておきたかったんです」


 料理中に聞いたけどノーラさんだけじゃなくて、ゲオルクも頑張ってボクのダンジョンの良いところアピールしてくれたそうだ。

 結果としては聖女さまの弟子さんの説得が大きいそうだけど、ボクはその心意気に感謝したいのである。


「そうか……大したことはできなかったが役に立ったならなによりだ」

「ゲオルクさんたちは最初にボクの味方になってくれた人たちですし、色々と教えてくれなかったら今もダンジョンでひとり、ぽつんと黄昏れていたかも知れないので大感謝ですよ」

「味方……いや、今はたしかにその通りだな」

「今は?」


 どういう意味なのかとボクは首を傾げてしまう。


「前にも言ったが、俺は全面的にお嬢ちゃんを信用したわけじゃなかった。それは冒険者としてダンジョンマスターに肩入れはできんから、あくまで中立として行動しなければならんと考えていたからだ」

「……今はもう違うんですよね?」

「ギルドマスターが直々に同盟を結ぶと宣言したからな。これからは俺も……そうだな、お嬢ちゃんの言葉を借りるなら味方になるな」

「ボクは最初から味方だと思ってましたけどね!」

「ふっ、そうか……」


 そういえばさっきゲオルクは、ビーフシチューを普通に食べていた。前はみんなが食べ終わるまで待っていたのに。

 あれも中立じゃなくて、ボクの味方になったから毒を警戒する必要がなくなったってことなのかな?

 だとしたら少し嬉しいな。

 

「それでだ、お嬢ちゃんの味方になったからには知っておきたいことがある」

「なんでしょう?」

「お嬢ちゃんの目的だ」

「はあ、目的ですか……?」

「なにかあるだろう。目標と言い換えてもいい」


 つまりボクのやりたいことって話かな?

 うーん、なにかあったかな。


「部屋でのんびりだらだらしていたいとか、ですかね?」

「……それだけなのか」


 なにやら呆れたような目をされてしまった。


「え、えーと、急に言われても生き延びようと考えるのに必死だったので」


 でもたしかに冒険者ギルドが味方になった今なら、ボクのダンジョンも少しは安全になったはずだ。

 だらだら怠けるのも好きだけど、大好きだけど、それだけだとダメ人間になりそうだし、これからはしっかりした目標を持ったほうがいいのかも。……でも。


「うむぅぅぅ……やっぱり急には思い付きません」

「この場で決めるものでもないからな。なければないで別に構わんぞ」

「そ、そうですね……今のところ色んな人をたくさん呼んで、楽しんで貰えるダンジョンにできたらいいなって、それくらいしか考えてないですよ」


 そう思ったのはリーゼロッテちゃんがアトラクションで喜んだり、ヨハンとユリウスがゾンビみたいな顔色になっていたり、ノーラさんが気持ちよさそうにお風呂に入っていたり、みんなが料理をおいしいって食べてくれたり……。

 なんか雑念が混ざった気がするけど、とにかくみんなの笑顔を見て、もっとダンジョンを楽しい場所にしたくなったんだよね。

 ギルドの人たちが来て、さらに強くそう思ったんだ。


「……ふっ、あるじゃないか」

「ん? え? あれ?」

「だったら俺は、そのために力を尽くそう」


 大きな手でぽんぽんと頭をなでられた。


「あ、はい! よろしくお願いします!」

「おう」


 そうか……そうだったのか。

 ボクがやりたいことはダンジョンを……このヴァルハラを、みんなが笑って過ごせる楽しい場所にすることだったんだ。

 こうしてゲオルクに指摘されるまで気付かなかった。


 でも気付いてしまえば非常に納得できる話だ。

 だってボクは、ダンジョンを使って人間たちを苦しめるっていう役割を押し付けたブラリアンに反逆したいんだからね。

 だったらヴァルハラを愉快で楽しく暮らせる場所にするのは理に適っている。


「でも、まずは人手不足をなんとかしないといけないんですよね……」

「そういえばモンスターを見かけないな?」

「ダンジョンを歩かせると攻撃されそうだったので、まだ作ってないんです」

「賢い判断だが、ギルドマスターに話を通せば問題ないだろう」

「それについても相談したんですけど……」


 ボクはギルドからお手伝いさんを派遣して貰う形になっていると説明する。

 ダンジョンにモンスターが大量にいると不安なのも理解できるからね。できるだけ人間の手を入れたいのは当然だ。


「そうだったな……だが冒険者にも素行の悪いやつがいる。というより大半が人の言うことを聞かない荒くれ者ばかりだ。自力で身を守れるようにするか、心から信用できる護衛を用意したほうがいいな」

「そんなに危険なんですか!?」

「事前にギルドで選別するだろうが、それも絶対ではないからな。ギルド側の人間としては言い辛い話だが……」


 ギルマスさんに頼りっきりは、あまりよろしくないらしい。

 かといって今さら、やっぱりギルドは頼りにならないのでモンスター作っていいですか? なんて言い出しにくい。


「別にどちらか片方だけを選ぶ必要もないだろう? お嬢ちゃんなら人間とモンスター、どちらも味方にできるんだからな」

「ふむふむ……人間のお手伝いさんも頼むけど、モンスターも作って人手不足を解消するわけですね」


 言わばお手伝いモンスターだ……そんなのいるのか不安だけど。

 そういえばモンスターって作ったことないから、どういう種類がいるのか詳しく知らないな。

 モンスターの作り方は与えられたダンジョンの知識に含まれるけど、細かい知識は実際に作ろうとしないと閲覧できない。

 いちいち面倒な仕組みだ。おのれブラリアン!


「よーし、やるぞー!」

「うおっと、急にどうした?」


 飛び上がるように立ったボクは、地底のダンジョンから偽りの夜空と星々を見上げて決意を新たにする。

 これからは普通のテーマパークじゃなくて……そう、療養地とか観光地とかなんかそういう楽園的なのを目指してがんばろう!

 ダンジョンテーマパーク『ヴァルハラ』計画の本格始動だ!


「そのためにもボクは明日に備えて寝ます! おやすみです!」

「お、おお……」


 こうしてこの日、ボクは新しい人生における目標を見つけた。

 同時にブラリアンを絶対にぶっ飛ばしてやると改めて固く誓い、そしてリーゼロッテちゃんに見つかって抱き枕にされたのだった。

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