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13 冒険者ギルドの調査3

 ちょっと騒がしくも賑やかな夕食は、多めに作ったビーフシチューのお鍋が空っぽになるまで続いた。

 みんな美味しそうに食べてくれたので、ボクも大変満足です。

 やっぱり作ったからには、喜んで欲しいからね。

 なんだかボクも、いつもよりご飯が美味しく感じられたよ。


 その後、ギルドのみんなは浴場でさっぱりした。

 浴場の設備には誰もが驚いたそうだけど、特に女性陣二人が大喜びで、わざわざボクに感謝を伝えに来たくらいだ。

 聞いていると、どれだけ大量に使っても無料のお湯や、シャンプーやボディソープも好評だったみたいだけど、一番はリンスらしい。

 どうしても髪がまとまらなかったのが、驚くほどしっとり滑らかになったとか早口でまくし立てられた。

 勢いがすごくて半分くらい聞き流してしまったけど、とにかく喜んでくれたならなによりだよ。


 ちなみに今回、またボクはリーゼロッテちゃんに連行されそうだったけど、さすがに遠慮させて貰った。さすがにね。

 ギルドの職員さんたちがいるし……いや、ノーラさんとリーゼロッテちゃんだけだったら構わないわけでもないけれど。


 それから寝巻に着替えたみんなを部屋に案内すると、今度はこんなに良い部屋を使えるのかと口々に喜んでいた。

 リアクションが三日前のゲオルクたちと一緒だ。

 それくらい常識とは違うってことだと思うけど、じゃあ普通の宿はどんなところで寝泊まりするんだろう?

 気になったので、ちょうど近くを通りがかったヨハンに聞いてみる。


「ねえヨハン、ちょっといい?」

「えっ? あ、な、なにか用かなアルマ」


 声をかけたら少し動揺したようだった。なにかあったのかな?

 あ、お風呂上がりで服が変わっていたせいか。

 最後になったけどボクもお風呂に入って、今は寝巻にも使っているワンピース姿だから戸惑ったのだろう。


「みんな部屋に喜んでるから、普段どんなところに泊まっているのかなって」

「ああ、それなら……」


 ヨハンによると一般的な宿だと安いところは大部屋で雑魚寝らしい。

 はっきり言っちゃうと野宿よりマシな程度で、よっぽどお金に困ってなければ利用しないそうだ。


「僕も普段は個室を使ってるよ」

「それだったら、どうしてひとり用の部屋に喜んでたの?」

「ここが高級宿みたいだからだよ。普通はもっと狭くて、ベッドも粗末なんだ。それに比べてここは空気も澄んでいるし、もし同じ部屋を街で使うとしたら貴族くらいじゃないかな? あれは飾りが多くて落ち着かないけど」

「なるほどー」


 特に高級感は意識してないけど、快適な部屋をイメージしたからかな?

 でも、あまり装飾とかは気にしてなかったから、いずれ参考にしてみたい。


「詳しくありがとう」

「あ、うん、えっと、じゃあ僕はそろそろ部屋で休むね……」

「うん。おやすみー」

「お、おやすみ!」


 慣れてない感じで言い残したヨハンは、誤魔化すように駆けて行く。

 そんなヨハンの様子が気にならなかったとは言えないけど、ボクの興味は本物の高級宿がどれだけ豪華な部屋なのかに傾いていた。

 実際に見てみたいな……でも外に出られないなら諦めるしかないか。






 ヨハンと別れた後、ボクは再び食堂にいた。

 というのもギルマスさんたちに、ダンジョンについて教えるためだ。

 すでに職員さんたちも集まっていて、ひとりはテーブルに何枚もの紙束とペンを用意している。書き留める準備は万端みたいだね。


 ちなみに冒険者組は、この場にいない。

 あとで情報は共有されるし、これはギルドの仕事だから自由にしているようだ。


「さてさて、ダンジョンのことですけど、どこから話しましょうか?」


 どこまで人間側がダンジョンの仕組みや、法則を把握しているのかまでボクは詳しくないから、説明するのが難しい。


「ならば、こちらの質問にダンジョンマスター殿が答える形でどうだ?」

「それがいいですね。わかりやすいです」

「まず最初にゲオルクから聞いた報告の確認だが、人の恐怖を吸い取ってダンジョンが成長するというのは本当なのだろうか?」

「本当ですよ」


 厳密に言えば恐怖だけではなく、あらゆる感情をエネルギーに変換している。

 なぜなら生物が持っている感情とは、力の塊だからだ。

 これは『アストラル体』とも呼ばれていて、ダンジョンの主はそれを刺激することでより大きく感情の力を発露させて回収するのである。


「ただ、なぜか恐怖が一番エネルギーを変換する効率がいいみたいです」

「ふむ……ダンジョンの外なら感情は回収されないのか?」

「外だったらできませんね。だからダンジョンの中に引き込もうとしています」


 例えば財宝を用意したり、たまにモンスターを外に出して襲撃させたり。


「ならば下手に入るよりダンジョンを囲み、モンスターを外へ誘き出すか、出て来たところを叩いたほうがいいのか」

「あ、それされるとダンジョンの主としては困りますね」


 モンスターはダンジョン内で死んでも、エネルギーを消費すれば復活する。

 でも外で死んでしまった場合は別で、二度と復活はできない。

 新しく作ればいいけど、復活よりコストが高くなるから、そんなことを繰り返せばあっという間にエネルギーが枯渇して干上がるね。


「まあダンジョンの入口を新しく他のところに作ったりして、背後から奇襲なんてされるかもしれませんけど」

「ああ、入口が複数あるダンジョンもあったか……」

「もっと言うと、干上がったと油断させて戦力を温存するかもです」

「気を抜いたところを一気に叩かれて、また恐怖を補給されてしまうというわけだな。ふむ、モンスターの素材を得なければ利益も出んし、そう簡単ではないか」


 あっさり攻略できるようなら、とっくにダンジョンの主は絶滅してるからね。


「そういえばダンジョンで死んでしまった者の肉体や魂はどうなるんだ? 王都の研究所では、死体と魂を喰らってダンジョンは成長するとされていたんだが」

「魂はダンジョンが手出しできる領域じゃないですよ。死体を食べる魔族もいるみたいですけど」

「魔族?」

「あ、そこから説明しますね。たぶん、みなさんがモンスターだと思っているのはダンジョンで作られた魂を持たないモンスターと、魔界から雇った魂を持つ魔族の二種類がいるんですよ」

「魔界……実在したのか」

「みたいですね。ボクも知識として知っているだけで見たこともないですが」


 言葉の響きは邪悪だけど、魔族が魔界で暮らしているだけで人間と大差ない。

 ただ色んな種が一括りにされているから、魔族と呼んでいても多種多様な外見と性質を持っていて、あまり仲良くないどころか対立している者たちもいる。


 共通しているのはダンジョンに雇われる傭兵みたいな仕事をしているってことかな。エネルギーが給料だ。

 ダンジョンの主がそうであるように、魔族もエネルギーを補給するだけで生きて行けるし、極上の料理とも言えるらしい。食料兼嗜好品みたいなものか。


 あと魂を持つ魔族は、モンスターと違ってエネルギーをどれだけ支払っても復活させられない。

 無制限に復活できたら鉄壁の守りになるんだろうけど、その強さには相応の縛りがあるってわけだね。


「一部の魔族は人間……というより人間が纏う生命力を食べて、より強くなるみたいです」

「それを目撃した者が、勘違いしたわけか」

「すごく強かったり、喋ったりするモンスターがいたら、それは魔族なので見分けやすいですよ。だいたいは階層守護者として配置されていますけど」

「ああっ! そうか階層ボスが魔族だったのかっ!」


 心当たりがあったようだ。


「いやだが、あいつらは倒しても次に入った時には蘇っているぞ?」

「えっと……もしかしたら分身体かもしれないですね」

「なにっ、そんな魔術があるのか!?」

「魔術というよりダンジョンの機能ですね。動かせるのはダンジョンの中だけですし、能力も抑えられる上に本体は動けませんし、おまけにエネルギーを多く消費するので大変です」


 どうしても倒されたら困る魔族なら、分身を使って本体は安全な場所に隠しておくと思うけど。

 ちなみにダンジョンの主は分身体を作れないし、死んだ時点でダンジョンが活動を停止してしまうので、どう足掻いても復活はできない。ひどい。


「……ところでダンジョンマスター殿は生命力を食べたりは?」

「食べられませんし、食べたくもないですよ」

「ハッハッハッ、それは良かった」


 例え食べて強くなれたとしても、ボク自身が戦うなんて選択肢はない。

 そんなことするくらいならモンスターに戦わせるかな。怖いし。


「ああ、あとポーションについてだ。前から気になっていたんだがモンスターはポーションを使わないのか?」

「使っても効果がないんですよ。ポーションは生命力……『エーテル体』って言うみたいですけど、それに作用するので」

「えーてる?」

「もっと簡単に言うと魂がないモンスターには効果がありません。分身体も同じですね。魂を持っている人間や魔族には効果があります。あと動物と植物も」

「植物にも魂があるのか。それは初めて聞いたな」

「あくまで簡単に説明しただけですから、ポーションが効くから魂があるとは限りませんよ。さっきも言ったようにエーテル体が肝心なので」

「むぅ……研究者が喜びそうな情報だ。ちゃんと記録できてるか?」

「努力してます!」


 さっきから職員さんのペンを走らせる速度が緩まない。

 少し興奮した様子で、ひたすら書き綴っている。


「ちょっと休憩にしましょうか? 思ったより長くなりそうなので。冷たい飲み物でも持ってきますよ」

「ああ、助かる。聞いての通りだ、今のうちに清書しておいてくれ」

「もちろんですよ! こんなの情報の宝物庫です! ひとつも書き逃しません!」


 休憩のはずなのに、むしろヒートアップしている。

 大変そうなので冷たいオレンジジュースでも差し入れしてあげよう。






 その後もダンジョンぶっちゃけ話は続いた。

 内容はボクがどうやってダンジョンを作るのか、といった点や、記憶を失くしたボクはどこから連れて来られたかの推測、というところまで及んだ。


 ダンジョンの作り方は、はっきり言ってボクにも理解できない法則が働いているとしか言えない。

 ただイメージが重要なのは確実だ。

 例えば作りたい物の質感、形状、材質、味、匂い、音、使い方に至るまで、細かく知っていれば知っているほどエネルギーの消費も少なく生成できる。


 その割に、ボクがまったくイメージもできない機械的な部分……ジェットコースターや電子レンジなどの仕組みすら理解していなくても、なぜか作れてしまう。

 重要なのは完成形のイメージみたいだけど、その理由はさっぱり不明だ。


 ひょっとしたら、生成した機械を分解すれば中身が空っぽで、すべてエネルギーでボクが想像した通りの機能を再現している……言わば見かけだけの機械だったりするのかも知れない。

 確認してみても、それっぽい中身が詰まっていたらボクには正しい仕組みなのか判別できないし、特に困るような話じゃないけどね。


 それと、それらの知識も初めからすべてを理解できるわけじゃない。

 例えばモンスターを作るには『モンスター作成部屋』という特別な施設をダンジョン内に設置しなければならない、とダンジョンの知識にある。

 だけど、どんなモンスターが作れるのかの知識はロックされていて、実際にモンスター作成部屋を設置したら解除されるという、なんだか妙な仕組みだ。

 こうなると他にも解放されてないダンジョンの知識があるのかも知れない。未解放の知識一覧が欲しいね。


 あとボクがどこから来たのかって話だけど、異世界から転生したって部分は教えるべきか悩んだ結果、やめておいた。

 信じてくれなかったら頭がおかしいと思われちゃうし、なによりボクにもそれが真実なのか疑わしい。

 実はすべてブラリアンが仕組んだ策略だとしたら、異世界の知識すら与えられたもので、本当はこの世界で最初から女の子として生まれた可能性もある。

 だから曖昧な話はしないでおく。ただでさえギルマスさんも職員さんも、ボクから得られる情報を重視しているみたいだし。

 ただ、そのせいで話が変な方向に転がってしまった……。


「ひょっとしたらダンジョンマスター殿は、上位貴族か王族の血を引いているのかも知れないな」

「……うぇ!?」


 あまりに突拍子のない展開に変な声が出ちゃったよ。


「平民であれば行方不明になる子も少なくはないが、どうもダンジョンマスター殿からは教養が感じられる。与えられた知識はダンジョンに関するものだけというなら、それは記憶を失う以前に高度な教育を受けていたからだろう」

「えっと、でも、それなら大騒ぎになるのでは……?」

「そうとも限らんぞ。王侯貴族に隠し子なんて珍しくないからな。行方不明になっても公に捜索できん事情もある。その場合、秘密裏に私兵が動いたり、冒険者ギルドに極秘依頼が届いたりするんだが……この近辺ではなさそうだ」


 ギルマスさんが把握していないから、もっと遠くだと予想しているみたいだ。

 実際は次元すら越えるほど遠い場所から来たんだと思います。


「気になるなら調査しておくが……」

「いえいえ、まったく気にしてないので構いませんよ」

「そ、そうか?」

「例えボクが本当に貴族の子だったとしても、今は関係ありませんからね」

「ふむ……」


 深く悩むように唸ったギルマスさんは、すぐに表情を取り繕う。


「ダンジョンマスター殿がそう言うのなら大々的に告知するのはやめておこう」


 え、そんなことするつもりだったの?

 記憶のない貴族の迷子アルマちゃん十歳がいます。心当たりのある方はダンジョンまでお越しくださいって?


「それで変な貴族がやって来ても困りますよ」

「ハッハッハッ、たしかにそうだな」


 あまり笑いごとじゃない気がするんだけど……。

 もう、なんだか疲れたから今日はここまでにして貰おうかな。だいたい話すことは話したし。

 ボクがそう切り出すと、ギルマスさんも賛成してくれた。


「それじゃあ明日はダンジョンの案内でいいですか? 乗って欲しい乗り物があるんですけど」

「たしか巨大なトロッコだったか……それで怖がらせるとか」

「エネルギー確保のためにもお願いします」

「まあ、こうして人数を確保したのも、そのためだからな」

「え、それ本当ですかギルドマスター!?」


 職員さんは初耳だったみたいだ。


「ちょっと聞いてないですよギルマス!」

「私たちも乗るんですか!?」

「信用できる私たちだから顔繫ぎに連れてきたと思ったのにぃ」

「もちろんギルマスも乗りますよね?」


 一斉に詰め寄られて、ギルマスさんもたじたじになっている。


「わかったわかった。顔繫ぎに連れてきたのは間違いじゃないし俺も乗る。それでも乗りたくないやつはダンジョンマスター殿に自分で断ってくれ」

「えー!」

「それは酷いですよ!」

「こんなにかわいい子に断れるわけないじゃないですかぁ!」

「横暴だー!」

「ええい、やかましい!」


 ギルマスさんと職員さんは仲が良いみたいだね。

 さて、ボクはお邪魔にならないうちに食堂から抜け出すとしよう。

 決して乗りたくないと言われないようにするためじゃないよ。

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