c5.おっちゃん図カブ
オチが思いつかなかったので、書き忘れていた日記を思い出しながら書いている現状?
c5.おっちゃんとカブ
十一月中旬にもなれば近所を走るのも甚平でも厳しく厚手の作務衣で出かけている。短時間だからとヤセ我慢しているのは忖度されたし。デブだけにな。
白米は炊飯器で一度に五合炊き、炊き込みご飯の素を使いIH対応のステンレス鍋で音を聞きながら二合か三合炊く。家事とかろくに出来ないと割り切りスーパーで弁当やら惣菜を買い込み数日に分けて消費するといった食生活。枯れていく日々カット野菜をモシャモシャと食む濁った目のおっちゃん。
さて十二月ともなれば屋内と屋外では極振りの温度差に感じる日も珍しくない。
この日は予てよりの目的を成就すると決意した日。
なんのこたぁない免許の更新日に赴くと決めていただけだ。
この半年はコレのためにコツコツと準備していた感がある。
メガネと二輪の新調だ。
自宅から移動して11号線を北へ進み吉野川大橋を渡り川内町へ入る。車線は前方を進む車の右折にも左折にも影響を受けにくい中道を選ぶ。
この地域は県内で大手の企業が集まりかつ通勤時間帯なのでことのほか車両が多い。
車間と車線変更する車両に注意を向けながら道路は北西へと傾き、ほどなく数個級の内に進路は北へと戻る。
目前はなかなか傾斜のある今切川に掛かる橋。コレを渡ると松茂町に入る。その勢いで旧吉野川を越えてしばらくすると右手に◯くとくターミナル。だな。その次を右折なのだが、気付くと右折レーンはもう一杯に列が並んでいる。こんなにも間髪入れずにってか。うっそぉ~!
気を取り直す。「一右折は三左折に近似する」地形による例外あり。左端のレーンへと車線変更。
以前一度だけ「指輪物語」のセットものの購入に立ち寄ったことのある書店を少し通り過ぎて、やっと左側のレーンに達したので一度目の左折。次に袋小路にならなそうなトコでも一度左折。学校施設らしき建物を見つけたがれ゛んざいいちの確認なんかしないで通り過ぎて川?まあ水路に沿うように東へ進路をとる。11号線の下を潜ってから広い感じの脇道路へ左折。よし。前方は信号交差点だ。そこで右折をすると見覚えのある県道40号線た。
とか余裕ぶっこいてる閑はねえ。急勾配の坂が目前に迫ってきている。ギヤを一段落して登坂。あとはまっすぐ。
この迷走した期間はあとで地図を見てもトレースできなかったのでGPSロガーを起動していたら良かったかなと後悔するおっちゃんであった。
免許センター。ゆるくカーブしながらの進行方向の反対車線側にアリ入口辺りがごちゃごちゃと目移りしてわかりにくい。前回は一度行きすぎてから戻ってきて入ったのが懐かしい。
入口に向かって右折しようと中央寄りに一度停止しても後続車にクラクションを鳴らされない。安全確認をして構内に入ると直ぐに駐輪場がある。
朝一の受付開始からそんなにも経っていない早い時間だからか充分に空きスペースが有りシートが暑くなんない日陰を探して停車する。センタースタンドを立てる。
すあてと人畜無害な人物感を醸し出して行くぞっと。なんら疾しくなくてもパトカーを見ると判断力と躰が硬くなるおっちゃんであった。
移転していった徳島空港の建物を流用した免許センターの建物は東西に長く、駐輪場はその西側に隣接し、入口は南側の中頃に有り少しばかり距離がある。
玄関口にはいつ終わるともしれないコロナ禍のまっただ中で手指消毒のアルコール液を手首まで伸ばして乾くのを早める。
受付は入ったら左、西方向に見える。高い位置にある看板を見て更新手続きの窓口に並ぶ。うん、前回は開始前につき先頭だったけど今回は迷宮探索に時間をとられ手続きは開始されていて前には五人を確認出来た。くやしくなんかないんだからねっ。
自分の番が来て手続きをある程度進めると“交通安全協会”のワードが出てくる。
これに“課金”すると多少手続きが楽になるって程度だけでお得感はないがお世話になった親戚に在籍職員がいるので普段この手のことにはノーサンキューなおっちゃんが笑顔で課金した。そうつれづれなるままに。
窓口を転々として視力検査へと移動して機械をのぞき込んでからおっちゃんは検査担当に申し立てる。
「すんまへん。カブできたけんやろかメガネが冷えとって曇ってきたけん拭いてええで」
「あっ気が付きませんで」
担当が機械ののぞき窓を拭いてくれた。そっちちゃううんやけどな。
つつがなく合格をもらい写真を撮る、犯人とか悪党顔のおっちゃんであった。
そして時間つぶしの会場へ入ると既に数人が席に着いていたので、呼ばれたら直ぐ移動できる前の席に座る。そしてダウンロードしておいたWeb小説を読み始めるとなにやらお知らせの放送が流れた。
駐輪場に駐めているバイクのライトが付きっぱなしだという。
なんてドヂなやつがいるんだかと鼻で笑いかけて内容を聞いていたおっちゃんはすっくと立ってマイカブの元へと移動をはじめた。
会場から出て直ぐの通路では職員らしい二人がいて「キー抜くん忘れとったんじゃろな」と会話する声が聞こえたが「いえいえ、スマートキーですから抜きわすれじゃございませんぜ」なんて反応する余裕もなく現場へ急ぐ。気持ちが焦っているのか、目的地がとっても遠くに感じる。
メインスイッチのダイアルをハンドルロック側へ捻ったつもりが“ON”になっていた。うん、やらかしてた。
会場に戻ると人数が増えていた。あたりまえか。県民性としては自ら席を選ぶとき端か後ろに寄るからおっちゃんの元いた前にある席はディスタンスよろしく空いたままだ。何事もなかったようにどっかりと座る。なんてこともないちょっとだけ足の筋肉がぷるぷるしてるだけさ。深く長い呼吸で息を整える。精神的からじゃなくて普段の運動不足からなんだからねっ。
(ダレトク?)
まあそんなこんなで、講師がはいってきて“ありがたいお言葉”やら“為になる映像”などでお茶を濁していると唐突に中断されて・・・・名前を呼ばれて縁台へと行きサインをして、もらう物をもらって会場を後にする。
感染予防のため動線を変え出口は入口と別になっていた。
左折、右折と方向を変え屋外に出ると天然の光量に幻暈して「ありゃー、方向感覚狂うなぁー」と誰云うと無く声にすると、前を歩いていた男性が振り返ってニヤリとした。
共感なのか嘲りなのかは重要ではない。
さあーあと五年は来ることない。
マイカブも4速で押し駆けの必要も無く、セルも動いた。帰るぞー!
自宅に帰るまでがなんとやらと言われるが、コレにて失礼。まっいいじゃないか。