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模倣の先に天意あり  作者: OTO
プロローグ
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0-2 先輩方と後輩


 エメディオールの街中を歩いていると、孤児院出身の人間に稀に遭遇する。今回は運の悪いことに俺と余り仲がよろしくない奴らだった。

 俺はなんの気も起こさずに横を通り抜けた。まあこんなもんだろと思ったのもつかの間、突然後ろから思い切りどつかれて前に倒れた。すぐに振り返れば見知った顔の男三人が俺を見下している。いずれも俺よりも年上で先に独立した孤児院の先輩方である。


「ってえな……」

「おい、てめえのせいでサリィが大変な目に遭ってるらしいじゃねえか」

「大変な目って、なんです?」

「あ?そんなの……」


 男たちは顔を見合わせて困惑している。具体的なこれからサリィの境遇やこれから起きる面倒事も知らずに俺に喧嘩を売ってきたのか。思わず呆れてしまった。


「てめえ貴族だからって調子に乗ってんじゃねえの?」

「木っ端貴族の分際がよ。あの教会出身を名乗る時点でお前は貴族でもなんでもねえんだよ」

「あのババアもこいつは悪くないとかなんとか言ってたけどな」

「まあ木っ端貴族だから実際、そこのところはいいけど。……ってか、今シスターのことなんつったよ。孤児だって自覚してんならこの歳まで立派に育ててくれた親を――」

「グダグダと……るせえっつってんだろッ!」

「ぐっ……!」


 こんなクズでもシスターは自分の子供だと言って、困れば手を差し出している。もちろん何でも許容するわけではないが、彼らが泣きつけば教会経営に無理ないレベルで金を貸すこともある。それは当然の如く踏み倒されてきていた。

 俺はいつもそれを見ていて、孤児院出身だと名乗る視覚はこいつらにないと思っていたのだ。


「あ、なんだよ……ぐぎああああっ!?」


 脚に思い切り抱きつくとそのまま足首を一気に可動域を越えて折り曲げてやった。確実に折れているだろうが関係ない。どうせシスターに泣きつくんだ。そのタイミングで金を貸したことを指摘されて罪悪感を感じてほしい。


「口ん中切ったな……プッ」


 血と唾液と胃液の混ざった液体を転げ回る男に吐き出す。それに対して痛がりながら殺すだの何だの喚きあげた。普通に細くはあるが人通りのある場所でそんなことをしているものだがから周りからの目が痛い。


「るせえのはどっちだ」



 路地裏に誘導した男たちを痛めつけて全員気絶させて放置する、俺は貴族学院へ急ぐ。

 サリィの回復魔法は身体の傷こそ癒やしたが、それでも元々二週間も寝たきりで過ごすことになったのだ。当然身体に何も栄養源は入っていないため、目眩を覚えつつも毎日見ていた学舎にたどり着く。

 日中でちょうど昼休みだったこともあり生徒たちが各々昼食を取っている姿も見えた。


「……注目されそうだな。こっそり行こう」


 恐らく貴族学園において自分は有名人だろう。だが顔を知っている人間は多くないはず。しかし先程喧嘩をしたせいで生傷を追っている。いつもなら一切の手傷を負うことはないだろうが、今日は元々弱っていたこともあって相手からの暴力に全く対応できず、それなりにぼろぼろになってしまった。制服を着ていないだけなら貴族学院に入ってきた業者か何かだと思ってもらえるかもしれないが、むしろ傷だらけであるということで目を向けられそうだ。

 そして早速……


「リー、ル……?だよね?」

「えっ?」


 こそこそと校門から移動する俺に声を掛ける声があった。


「どふっ……?!」

「リール……!リールぅ……うぅ……」


 俺が横を向いてちょうど相手の姿を正面から捉えた瞬間に俺を押し倒す勢いで飛びついてくる。実際受け止める元気もない俺は背中から地面に押し倒された。


「ボク、心配で……リールが自殺なんてするはず絶対ないのに……なのに皆は自殺志願者を救った聖女様!とかサリィを崇め始めて……!」

「お、おちつけ。なんとか生きてるけどまだ辛いんだ……だから離れてくれ」

「ご、ごめんね……」


 俺から申し訳無さそうに離れたのは蒼髪の美しい少女だ。よく見知った相手で、この国のシルドラ伯爵家、長女のリアレス・シルドラという。


「悪いけどちょっと休めるところとかないか?あまり人が入ってこないようなところ」

「ボクの権限で使える場所ってことならサロンを使おう。歩ける?」

「……悪いけど肩貸してくれる?」

「いいよ。ほら、肩に手を回して……立ち上がるよ?」


 俺としては情けないことこの上ないが頭一分ほども小さい後輩に寄りかかりつつ、彼女の家が校内に借りているサロンに向かうのであった。




「突き落とされた……!?」

「ああ、ちょっと信じられないかもしれないけど」

「ボクが疑うわけないでしょ!」


 サロンは主に貴族令嬢達が自由に使うことができるような小規模な部屋だ。俺とリアレスはサロンの深く沈み込むソファーに隣り合って座っている。

 立場を考えればリアレスにやらせるようなことではないが、彼女はすぐに医務室から救急セットを持ち出してきて俺の傷の手当を始めてくれた。


「こんな傷になっちゃって……」

「いや、これはさっき孤児院の先輩方から受けた傷」

「……」

「待て、あんな奴らにキレても仕方ないから。それはもうボコボコにして適当に捨ててきた。まだ本調子じゃないからさ。いつもなら無傷なんだけど流石にキツかったんだ」

「そう?ならいいのかな……というか二週間寝たきり?だったのにすぐに起き上がって3対1で喧嘩してくるって頭の中どうなってるの……?」

「やり過ごせそうもなかったんだよ」

「やっぱり潰しとくか」

「やめとき、一応あれでも俺と同じ親代わりに心配されてる奴らだから」

「ふん、シスターさんが悲しむならやめとくけどさっ」


 全然よくなさそうだから後でもう一度言っておこう。それなりに権力を持つ家の一人娘だから平気で特定してほんとに潰しかねない。


「それで、突き落としたのは。どこのどいつなの?」

「聞いてどうするんだ?」

「潰す」


 聞きました?こいつこれでもセイラン聖王国でも上から数えたほうが早い序列の伯爵令嬢なんですよ。言葉に気を遣ってほしい。


「ま、ハマー・アラートなんだけどさ」

「アラート伯爵家……それは潰すのは難しいか」


 アラート伯爵家はシルドラ伯爵家と同格だとされている。セイラン聖王国には公爵家、侯爵家、伯爵家までが誰もがよく知る領地持ちの名門というような家格であり、それ以下男爵家などは数代のみの貴族であったりと雑多な扱いになっている。俺の家は祖父が功績を讃えられたことにより三代限りの騎士爵家として叙勲された。当時、王家に連なる方々の命を救ったという話だ。

 公爵家は王家の分家としての立ち位置であり一つのみ、侯爵家は現在二つ、伯爵家は十数家あるが、その中でも筆頭がアラートとシルドラであった。


「前から嫌がらせを受けたいたんだよね?ボクも知ってるんだから」

「俺、リアレスに言ってないと思うんだけど?」

「少し調べれば分かるよ。家の力を使うまでもなくね。二年生では有名な話らしいじゃないか。なんで相談してくれなかったの?」


 リアレスは今年入学した新一年生だ。俺は昨年入学した二年生だが、入学後に目をつけられて以来ずっと嫌がらせを受け続けていた。

 最初は些細なものであったがいきすぎて集団リンチにまで発展し、学院からの厳重注意を受けてから大人しかった。それに油断していたところで校舎から突き落とされ、殺されるところだったというのが今回の経緯である。


「新入学で入ってきて『先輩と後輩だね!』なんて笑顔で言ってくる女の子に実はひどい嫌がらせを受けていて困ってるんだよね、とか言えると思う?」

「そもそもボクに隠し事をしていた時点で壮大な減点だから」

「さいですか……」


 俺はそれなりに嫌がらせにも耐性があったので大丈夫だったが普通なら退学していておかしくないレベルの嫌がらせだった。確かに言える相手がいればとも思っていたが、親身に鳴ってくれそうな教師に言えばアラート伯爵家の圧力で彼らを失職させかねない。このエメディオールという都市の貴族学院はそういう人ほど立場が弱かった。

 そう事情を話して1人で抱えるしかなかったのだと言えば、少しは溜飲を下げてくれた。


「それでも結局貴族の力には貴族の力でだよね。次にそんなことが起きないように――」

「あ、言い忘れてたけど俺はもう除籍処分なんだ。次はないから大丈夫」

「……え」


リアレスの顔はそれを聞いて固まってしまった。


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