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模倣の先に天意あり  作者: OTO
プロローグ
1/30

0-1 他殺未遂



 300年前の大陸全土を巻き込んだ戦争によって多くの損害を出しつつも一旦の平穏を得たエウシオン大陸。

 群雄割拠の時代であった当時、その平穏はすぐに崩れ去るものだろうと民は認識していた。しかし戦乱を生き残った六つの国々が結んだ終戦協定は今に至るまで維持されることとなる。戦争の代わりに何かの形で代理戦争を行うことはあれど、戦火を交えるような闘争は起きなくなった。

 平穏が日常となって久しい頃から、人々は当時の戦乱を思い出すように大陸戦争時代と呼ぶようになった。



 その大国の一つであるセイラン聖王国は同じく大国であるホワイトヴェール聖教国との国交が盛んな国家であった。その歴史は大陸戦争時代以前から紡がれており、国としての歴史は六大国の中で最も古い。

 だがそんな古株の行動は戦争終結時に周囲を驚かせた。大戦時に建国されたホワイトヴェール聖教国が国教として据えるホワイト聖教を同じく国教として据えることを宣言し、国名もまた王国から聖王国に変化させた。


 大陸一の大物が新参のホワイトヴェール聖教国と手を取り合ったことに各国は何かの策略の類かと驚いた。しかしながら確かに政略ではあったが暗躍の類ではないことはこの300年間の両国の良好な関係が証明している。彼らが手を取り合ったことは後の世で新時代の第一歩目であったとされている。



 セイラン聖王国の王都アルセイランに次ぐ大都市エメディオール。

 そこには貴族学院が設置され。国中から貴族の子女が集まって勉学に励んでいた。

 ただしその中には貴族でない者もいる。その才能を見いだされて貴族からの支援を受け入学してくる平民だ。

 その1人である俺の幼馴染は幼い頃からその魔法の腕前を評価されていた。

 特に適性を必要とされる回復魔法――それが彼女自身の自由を奪うものだと周囲は分かりきっていたがために彼女は実力を偽っていた。

 しかし彼女は俺を助けるために、俺の前から姿を消すことになってしまった。



「うっ……――ここは?」

「目が覚めたかい。よく寝ていたね」


 俺が目を覚ますとそこは俺の知る貴族学院の宿舎の天井ではなかった。

 掠れた声で自問すると近くにいたらしい人物から冷ややかな声が掛かる。


「シスター?」

「ああ、そうだよ」

「俺は……あれ?いや……」

「あんたは、学校で自殺しようとした。そしてそれをサリィが助けた、と言われているが。本当かい?」

「じ、さつ……?」


 俺の脳裏によぎるのは突然の凶行。

 宙に投げ出された自分の身体と浮遊感に全身から吹き出す冷や汗。

 そして激突の瞬間。

 

 俺、リール・トーネットは確かに殺されたのだ。


「っ……俺はっ……おれ、は……!」

「よくもまあ自殺なんて馬鹿なことをしたもんだね」


 俺を親同然に可愛がってくれたシスターに見放されたような視線を向けられると俺は途端に焦りを感じ始めた。決して自殺ではなく俺は他人の悪意を受けて殺されたのだ。


「ち、違う。違うんだ。あれは……」

「……学校からは元々心労が祟っていたこともあって思いつめての自殺だと聞いているよ?」

「俺がそんな無駄な行動をするはずがないだろ!」

「本当に?」

「本当だっ!」


 貴族学院の廊下の窓から突然捕まれて投げ出され、そのまま頭から落ちたという記憶は鮮明に残っている。


「ふん、まあ信じてやる。貴族学院はけしてあんたにとって良い環境じゃなかった。それはあの子からも聞いていたからね」

「……サリィは?」

「即死レベルの人間を回復させることができる人間はこの世に多くない。目撃者がいたそうだ。今にあたしたちの手の届かぬ聖女様として正式な任命を受けるだろうよ」


 サリィは貴族ではないし何かの後ろ盾がある人間ではない。そんな人間が目立つ立場になれば首輪を付けられるか、あるいは政略に巻き込まれるか。どちらにしても自由な生活を送ることができなくなる。

 昔から孤児院としての一面を持つ教会の全員で守り通してきた秘密だった。


「……ごめん」

「あんたに非はないような気もするんだがねえ……それにしたって謝る相手が違うだろう。もっとも、もう会えないだろうけどねえ……」


 シスターの冷ややかな視線は既にない。サリィは親に恵まれず、教会で生活していた時間の方が多い。俺も実家にいるのはいたたまれなくて、この教会で育ったようなものだ。

 この人は俺とサリィを自分の子供のように可愛がってくれた。

 俺が怪我をしたことももちろん心配してくれていたのだろう。だからこそ目覚めてすぐ隣りにいて、俺のことも見守ってくれていた。

 今日の日付を訊くと、貴族学院の春の新学期が始まってしばらく経った頃だった。


「実は学院の先生が来てあんたの貴族学院での成績は把握している。その、なんだい……」

「分かってる。多分落第もできずに一発で除籍だろ?」

「……分かってるなら話は早そうだ。目覚めたら荷物を持って出ていくようにと言伝を預かっているよ」


 俺はベッドから身体を起こすとすぐに立ち上がった。身体は動くがどこかぎこちない。それもそうだろう。殺されかけてサリィに助けてもらって二週間が経過しているらしい。


「動けるのかい?」

「問題ないかな。流石サリィの回復魔法だ」

「昔からあんたは頑丈だったけど、流石に心配だよ。もう少しくらい泊まっていきな」

「俺がここにいたら俺を殺そうとしたやつがまたなんか嫌がらせをしてくるかもしれない。孤児院の子どもたちのことを考えれば俺がここにいないほうがいい。というか二週間も俺を置いてくれていた事自体が危険なことだったんだ」


 ありがたい限りだが、だからこそこれ以上は甘えられない。

 俺は言われたとおりのことをするため、学院に向かうために教会から去ることにする。元々この教会からは一年と少しばかり前に貴族学院に入学することを家から強制されたタイミングで独立している。孤児院としての教会からは一五歳にもなれば皆独立するのが定例となっており、俺とサリィは同時期に貴族学院に入学して独立した。

 思えば平民であるサリィが貴族学院に入学した時点で彼女の自由は危ぶまれていた。彼女を支援する貴族家は面子を考えれば貴族学院を卒業して家に仕えてほしいと言っていたが、それも強制ではなかった。俺もよくさせてもらっている貴族家であり、素直にその言葉に甘えるように促すべきだったと今更ながらに激しく後悔する。


「まさか、サリィを聖女扱いするために俺は嵌められたなんてことはないと思うが」


 知る人ならセイラン聖王国に限らず、政治の世界は腐っているなんて言うのかもしれない。

だが少なくとも、この歴史ある古い国であればこそ癒着と腐敗は激しい。

 平気で最下級ながらも貴族である俺を謀殺し、他人を貶めようとする。


「聖女の認定はホワイトヴェール聖教国で行われる……その間にサリィ自身の手でなんとか自由を掴めればいいんだけどな。セイラン聖王国に戻ってきたら……」

「あんたは色々考えるのは構わないけど、自分の身体を労りなさい。リールは孤児じゃないが、それでもこの教会の子供であることに変わりはないと思っているんだ。あんたも心配してるんだよあたしは」

「……ありがと、シスター。また顔出すよ」

「ああ、サリィのことは気に病むんじゃないよ」

「……そうだな」


 孤児院に置かれている古着に適当に着替えると軽い食事を出してもらった。だが二週間寝たきりでは胃が受け付けなかったため、重湯のようなものを飲むにとどめておく。

 シスターは最後まで心配そうに俺を見送ってくれた。


まとまった量ができたら投稿という形で書いていこうと思ったのですが。

モチベーションが厳しいので、少しずつ出していきます。

どうぞよろしくお願いします。

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