夏のクオリア2(風呂釜)
バランス釜・・・湯をガスを使い沸かす仕組みのもので、電力のある無しに左右されない利点を持つ給湯器。
釜の大きさと設置の都合上、浴槽のサイズが限られてくるところはありますが、作者が好きな設備の一つです。
あの狭くもお湯がたっぷりと満たされた浴槽に映る、明けたばかりの空の陽の色は、今でも思い出す。
苦しく辛い気持ちも、その一時は忘れるほどに美しかった。
自分自身の不手際で、徹夜が続いていた。
意識はそこにあるようで、ないような不思議な感覚ではあったが、油分をいつもより少し帯びた髪が、目を悪戯に占領する。
ただ一点、風呂に入らねばという意志のみは明瞭としていた。
ふと窓に目を遣ると、空は白みはじめていた。徹夜も、ここらが目処だと言わんばかりに。
洗濯機の内蓋に服と肌着一式を載せ、
バランス釜のダイヤルとレバーを回す。
カツカツカツ と小気味よい音
ぶぉおっ 釜の小窓に火が灯る。
小窓はうろこ状の水垢で薄汚れているが、辛うじて炎のシルエットは見てとれる。
湯がたまるまで、眠気でぼんやりとしてきた頭を慣らすかのように、水道水を捻る。温いのは仕方ない。
風呂が溢れないように時折、何度か様子を見る。
湯量の塩梅、温度、良し。
洗面器から汲み出した湯で洗髪等を行い、湯船に浸かる。
内倒し窓に差し込む、白みはじめていた空は、朝日が血色の良い顔を覗かせていた。
風呂の湯に反射している様は、まさに海の水面に映る、太陽を彷彿とさせる美しさ。
今や心象風景のような感覚にさえなるが、確かにあの瞬間は何ものにも代えがたいものと思う。
ご覧いただき有難うございます。
ニッチかもしれませんが、バランス釜について執筆させていただきました。
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