第6話:再会
ユグノに説明を受けた、中央の道を通って人々が住まう区域へ向かう。
少し行くと、多くの民家が所狭しと道沿いに立ち並んでいる。さらに少し進むと、道が十字に交差している。まっすぐそのまま行くと、城へと続く道。右へ行くと、畑の多い区域に続いているらしく、家が点々と点在しているのがわかる。左へ行くと、鍛冶屋や工房が多く集まっているらしい。遠くから、鉄を打つカンカンという規則正しい音が聞こえてくる。
リティアは構わず、そのまままっすぐ道を進んで行った。
なぜ、迷わずにこんなに足が進んでいるのか。
リティアもはじめは戸惑っていたが、母であるマリアリーナから授かった真珠のペンダントが行くべき道を示していた。
頭の中で、鈴が鳴るように澄んだ音が導いてくれる。
音がするほうへ足を向け、だんだん入り組んだ道に入っていく。最後に左に曲がっていくと、一件の家にたどり着いた。
あまり大きな家ではないが、まだ建てたばかりで新しそうな雰囲気の家。
「看板がかかっているわ。・・・薬草のお店?」
戸口にかかっている看板には、「薬草店 オリーブ」と書かれている。
今まで導いてくれていた音が鳴りやんだ。おそらく、ここが目的地だということだろう。
「お母様が言っていた、行ってもらいたい場所ってここなのかしら?」
少々不安があるが、ここで真珠の導きは途絶えてしまっている。自分でも、この町に来たのは初めてだから他に行くあてもない。
「とりあえず、中の人に聞いてみよう。」
石で造られた階段を上がり、ドアのところで立ち止まる。恐る恐る、ドアにノックをした。
少しの間、中の反応を見ていたが一向に扉が開く気配はない・・・。
「お留守、なのかな?」
もう一度ノックをしたが、反応はない。
「困ったな。どうしよう。・・・勝手に入っちゃまずいかな。」
扉の取っ手を持って押すと、キィと金具のきしむ音と共にドアにつけられた鈴がチリンと鳴った。
「開いてた・・・。すみません、お邪魔します。」
ドアを静かに閉める。入ると、手前にカウンターが設けられていて、左右にずらりと並べられた棚には瓶詰めにされたハーブが並べられている。
壁には細い縄が渡されていて、そこにはハーブが吊るされていた。カウンターの前にはハーブの鉢植えや、水の入った瓶に生けてあるものもある。
爽やかなハーブの香りが、お店の中に満ちていた。
「すみません。どなたか、いらっしゃいませんか?」
少し大きめの声でそう呼び掛けた。すると、二階へと続いている階段付近から物音がして、階段を下りてくる足音がした。
「あら、お客さんね?待たせてしまって、ごめんなさい。」
階段から下りてきたのは、若い女性。手には二つのハーブの入った瓶を持っていた。
女性はリティアを一目見ると、目を丸くした。手に持っていたハーブの瓶がゴトンと鈍い音を立てて彼女の手から落ちた。
「貴女・・・もしかして、リティア?」
女性はリティアを見たまま、驚いている。リティアはその様子にも驚いたが、さらに自分の名前をなぜ彼女は知っているのかにも驚いた。
「え・・・あの、そうですけど。どこかで、お会いしましたか?」
今まで町を一人で歩いては来たが、彼女の顔に見覚えはない。しかも、地上に来て最初に親しくなったのはユグノだけだった。
他の人間とは接触はしていないはずなのに・・・。
「リティア、私の顔に覚えはない?・・・でも、気づかなくても無理ないかしら。」
リティアは女性を見つめた。明るいブロンドの髪に、灰色の瞳。髪の色は異なるが、灰色の瞳と彼女の容貌には、確かに見覚えがあった。
「・・・!! もしかして、フィーネお姉さま!?」
もう何年あっていないだろう。海の神殿で、まだリティアが幼かった頃によく絵本を読んでくれた姉のフィーネ。
しかし、ある時ぱったりと姿が見えなくなってしまい、神殿内では騒動になった。
他の姉たちや神殿のものたちが必死になって何年も探した。
もう皆が諦めかけていた時に、ふいに姉は戻ってきた。
傍らには、最愛の人を連れて・・・。
詳しいことはあまり覚えてはいないが、それから彼女は地上で人として限りある命を生きることを決め、海との絆を海へ返して、最愛の人と共に生きていると・・・。
もう会うこともないと思っていた姉に、ここで再会できるとは。
母はきっと、姉であるフィーネに会わせようと思っていたのだろう。地上へ来たら、身寄りがない。だから、きっと・・・。
「フィーネお姉さま・・・。まさか、会えるなんて・・・。」
「本当に久しぶりね、リティア。こんなに大きくなって。会えて本当に嬉しいわ。」
フィーネはリティアの頬にそっと手を差し伸べて触れた。
「今は、こうして薬草店を営んで生活しているわ。主人も薬草に詳しくてね、あまり大きくはないけれどハーブ園を造っているの。王様や貴族の方にも、人気があって・・・。
こうして話していては、長くなってしまうわね。今日は、早く店を閉めてリティアとゆっくり話がしたわ。ちょっと待っててね。」
フィーネは床に落ちたハーブの瓶を拾い上げ、カウンター奥の棚に置き、店の戸に「close」と書かれた札を下げる。
「今日は、もうお客さんは来ないはず。もう夕方だし。さぁ、家へいらっしゃい。お茶と夕御飯の支度をするわね。」
にっこり笑いながら、リティアの手を引いて家へ続くドアを開けた。
久々に小説を書いたらすごい進みましたので^^
ここまで読んでいただき、ありがとうございます☆