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第5話:城下町

「ところで・・・君は、どこから来たんだい?良ければ、家まで送るよ。」


にこりと笑いながら、青年はリティアに言った。


「え・・・。」


もちろん青年の答えに、はいと言えるわけにもいかず、返答に迷ってしまう。


(どうしたらいいんだろう。断るのも、失礼かしら。でも・・・もし、変なことを考えている人だったら怖いし・・・。)


いろいろと考えをめぐらすが、何せ地上に来てしかも人と初めて会ったのだ。


どんなふうにしたらいいのかなど、わからない。


リティアは慎重に言葉を選びながら答えた。


「あなたのご好意はとても嬉しいです。でも、一人できちんと家に帰れますので安心して下さい。どうもありがとう。」


軽く青年に会釈する。



「そっか・・・。じゃぁ、街までは一緒に行こう。それだったら、いいかな?」


青年は食い下がった。


リティアはくすりと笑みをこぼした。どうやら、送りたいらしい。


「ええ、かまわないわ。」


青年はにこりと笑うと、リティアの前をすっと歩き出した。




                  *



海岸から続く細い道を、青年とリティアはゆっくりと歩いていた。


今、季節は初夏。海岸から続く道には、瑞々しい若葉を芽吹かせた木や草花が、海からの風を受けてそよそよと揺れている。



リティアは青年がどのような人なのかを、ずっと話をしながら見極めていた。


海のニンフであるリティア達は、あらゆる生き物のオーラを見ることができる。


それによって、そのものの本質を見ることができ、言葉を話さなくともそのものの気持ちが理解できてしまうのだ。


青年のオーラは、初夏の木々の瑞々しい若葉のような色をしていて、とてもさわやかで、あたたかい心の持主であることがわかった。


「あ、そうだ。まだ、君の名前を聞いていなかった。教えてくれるかな?」


すでに青年は警戒するに値しない、優しい人間であることがわかったのでリティアは自然体で話をすることができた。

「いいわよ。私はリティア。まだこの町にきて日が浅いから、全然わからないけれど・・・。もしよかったら、今度案内してくれないかしら?」


「そうだったのか・・・。いいよ!なんせ、生まれてからずっと暮らしてきた町だからなんでも知ってるしね。・・・あぁ、僕はユグノ。今は父の楽器工房で修業中さ。」


「楽器・・・工房? 楽器を作ってるの?」


「あぁ。まだ半人前だって、父親に言われているけど・・・いつかは工房を継いで、自分でも納得のいく楽器を作るのが夢なんだ。」



「まぁ・・・今度町案内の時に、お邪魔してみたいわ。ユグノは、楽器が大好きなのね。瞳がとっても輝いてる。」


「まぁね。ちなみに、演奏面でも腕を磨いているのさ。宮廷で演奏するのも、僕の夢なんだけど・・・この調子だと夢で終わっちゃいそうだけどね。」


そう言いながら、ユグノは苦笑する。


初対面同士であったが、なぜか話が絶えることはなかった。


リティアにとって、初めて出会った人間であるユグノの話はとても新鮮だった。海の世界ではまずないことがたくさんある。


とても好奇心を刺激される話ばかりで、聞いていて飽きなかった。



そうしているうちに、いつの間にか道が大きくなり、城下町の入り口の門までたどり着いた。石造りの大きな壁に、頑丈な木の扉がある。今は開け放たれていて、その脇には門番が出入りする人々を監視している。


そこを通り抜けると、大きな噴水の湧き出た広場に出た。その周りでは、子どもたちが遊んだり町の人たちが立ち話をしている。


「さてと・・・ここは町の玄関口でもある広場。ここから左に行くと、商人たちの家が多くある市場へ続いている。右に行くと、貴族が住む区域があるんだ。噴水の向こう側の正面の道は、城下町で暮らしている庶民の区域、その先に城を囲ういくつもの城壁があって、その先に王族たちの住まう城があるのさ。」


リティアは目を丸くしながら、広場から続くそれぞれの道の先を眺めた。

左からは市場の賑やかな人の喧噪が聞こえ、右からは建物からして気品のある風情が伺える。中央の道からは、日々の生活を営んでいる人々の行きかう姿がちらりと見える。


「素敵なところね。みんな、とてもいい顔をしているわ。」


「ああ。今の王様はとても庶民とのことを考えての政治をしてくれている。庶民との交流を持とうとしてくれているんだ。いろいろな行事の中で、庶民が参加できるようにはからってくれているのも王様なんだ。そこで、お互いに触れ合う機会を設けて情報交換を行っているんだ。」


「へぇ・・・。」


ユグノはひょいとリティアの顔を覗き込む。


「とりあえず、城下町の広場まで来たけど・・・この後大丈夫かい?」


心配そうな表情を浮かべて、ユグノが問いかける。


「ええ。大丈夫よ。どうもありがとう。私、親戚が城下町にいるからこれから訪ねてみるわ。」


「わかった。僕はこれから市場に行って、少し頼まれた買い物をするからここでお別れだね。・・・また、会いたいんだけど・・・どうかな?」


照れているのを隠すように、ユグノは頭を掻く仕草をする。


その様子にくすりと笑ってリティアは答えた。


「そうね。また、会いましょう。ユグノの話、とっても面白かったわ。もっと聞きたいし、楽器工房にもお邪魔してみたいし。」


「じゃぁ、そうだな・・・明日の昼にこの広場で待ち合わせしよう。工房まで案内するよ。昼の鐘がなるくらいにここで会おう。」


「わかったわ。ここまで送ってくださって、どうもありがとう。」


リティアはぺこりとお辞儀をすると、足早に中央の道へ向かっていった。


「やれやれ・・・・まだ会ったばかりなのに、俺は、どうしちゃったんだかな・・・。」


そうつぶやいて、ユグノは市場へ足を向けた。

すっごく更新が遅れてしまいした。申し訳ありません。学校のことややらなければならないことが多いので、更新ペースが遅れてしまうと思います。長い目で温かく見守っていただけたら幸いです。

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