第4話:地上
今日も落ち着いた海模様。
月が沈み、夜明けの太陽が昇る。
海は穏やかに波打っている。
日の光が差し込む海底に沿って、リティアは真っ直ぐ陸地へと向かう。
こんなに陸地近くまで来たことは、嵐に巻き込まれてしまって以来初めてだった。
(嵐に巻き込まれたときは、イルカたちに助けてもらったのよね。・・・もう、昔の話になってしまったのね。)
だんだん、水量が減っていく。
リティアは水面へ向かって泳いでいく。
ぱしゃり、と水がはねる。
初めて見る外の世界。
海と同じ色の空が視界を埋める。 白い霧のような雲が流れ、まぶしい太陽が照りつける。
「ここが・・・外の世界。」
リティアはその壮大さにしばらく動けなかった。
海の中の世界もそれはそれは広く大きな世界だったが、外の世界は果てしなさや開放感にあふれていた。
「なんて、綺麗なの・・・。思っていたよりも、素晴らしいわ。」
しばらく辺りをきょろきょろ見回していたが、人間が多く集まる港や漁村を避けて、人気のない海岸を選び、とりあえず砂浜近くの岩場に向かう。
岩と岩が隣り合い、砂浜から見えないところを選んで乗り上げる。
透明感のある水色の鱗が、日の光を受けて虹色に光る。
「ここなら、誰にも見られないわ。」
周りの様子を確認して、ほっと胸をなで下ろす。
初めて陸地へ来て、自分でも驚くほどドキドキしていた。
心臓が太鼓のように脈打っているのが、耳の中で響いている。
(大丈夫よ、リティア。しっかりして。きちんと習ったことはできているから。)
深呼吸をして、心を落ち着ける。
リティアは力を使うために集中し、祈るように指を組む。そして、自分の体が人の姿になるのを心の中で描いていく。
すると、リティアの体から淡い光が包み込み、光が消えるとすでに水色のワンピースを着た人間の姿へ変わっていた。
今まで美しい鱗に覆われていた尾は、二本の白い足へ変わっている。
「うまく、出来たみたい・・。良かったわ。」
ほっと安心して、足をばたつかせてみる。
二本足の感覚に慣れるには少し時間がかかるが、歩くうちに次期に慣れるだろう。
「さぁて・・・人間たちの町へ行ってみましょうか♪」
岩場からそっと降りる。
足が地に着いた途端、今までに感じたことのない感覚と自分の体を支えるためにバランスをとるのが難しくてうろたえてしまい、ふらふらと岩にしがみつく。
「やっぱり、なかなか慣れないな。」
苦笑しながら、岩場を伝って砂浜へ出る。
足に柔らかい砂の感触が伝わってくる。今までに経験のない感覚・・・リティアは戸惑いながらも、楽しんでいた。
「これが、足なのね。すごい・・・全然違う。」
だいぶ慣れてきたので、走ってみたり、くるりと回ってみたり、砂を足で蹴ってみたり・・・。
「ふふ♪ すごいすごい!!」
リティアははしゃぎながら砂浜を駆けた。
しかし、足もとにあった石に気付かず足を取られてバランスを崩す。
「はぎゃ!!」
思いっきり、顔面からこける。口の中に少し砂が入り、じゃりじゃりした触感がする。
「痛い・・・。」
砂がクッション代わりになってくれたのが幸いだったが、鼻がズキズキ痛む。
その時、クスクスと笑い声が聞こえた。
「だ・・・誰・・?」
身を起し、鼻を押さえながら声のした方を向く。
そこには一人の青年が笑いながら立っていた。
「いやぁ・・、あまりにもいいこけっぷりだったから、つい・・・。」
言い終わるとすぐにまた笑い始める。
リティアはぷぅと頬を膨らませて、ツンと後ろを向いた。
「もう・・・人がこけたのを笑うなんて、なんて失礼なの!」
青年は笑いをしずめて、リティアにそっと手を差し伸べた。
「ごめん、ごめん。・・・さぁ、どうぞ。」
呆然と差し出された手を見ていたが、素直にそっと手を伸ばす。
軽く、すっと立ち上がることができた。
「これからは、足もとに気をつけて。 綺麗な君の顔が台無しになっちゃうからね。」
大きな手・・・そして、彼の顔には優しい微笑みが浮かんでいた。
トクン・・・
静かな胸の高鳴りが、聞こえた気がした。
1か月ほど更新が遅れてしまいました。すみません。
そこそこ忙しくなってきていて、更新が遅れてしまうと思いますが、よろしくお願いします!